(前号からの続き)
もうあんな荒唐無稽な映画は作られないのかと僕ががっかりしていた頃に公開されたのがマシュー・ヴォーン監督の「キックアス」というアクションヒーロー映画だった。
「キックアス」は、これまでのヒーローものを見直して、路線変更しようとした作品だ。
主人公は、交通事故で痛みをあまり感じられなくなった高校生。
骨がぼきぼきに折れたせいで、骨に鋼鉄が入っているし、末梢神経の麻痺で殴られても痛くない、という設定になっている。
彼がAmazonの通販で買った全身タイツをつけ、痛みを感じにくいという長所を生かし、ヒーローとして戦う。
バットマンなどのいわゆるヒーローものに対して、コメディっぽい設定だけど、実は現実ってこうじゃないの?という主張が明確に打ち出された作品だ。
また「ヒットガール」という小4の女の子の存在が大きい。
お父さんに徹底的に殺人マシーンとしての教育を受けた彼女が主人公の相棒として一緒に戦うという設定なのだ。
日本では「少女が強い」というのは、当たり前すぎる設定だが、アメリカ文化としてはありえないほど画期的なことなのだ。
手塚治虫が「鉄腕アトム」をアメリカで売ったとき、「アトムが10万馬力なんだったら、なぜもっと体が大きくないのだ?子供のロボットが、大人のロボットに勝てるはずはない」と言われたらしい。
それほどアメリカ人の「サイズ=強さ」信仰は深い。
しかし「キックアス」では、日本のアニメがすごく好きなヴォーン監督が、全部ひっくり返してみせた。
そこが受けたのだ。
「キックアス」が大ヒットしたため、「キックアス2」も制作された。
が、残念ながらこちらは、ヴォーン監督ではなかった。
ヒーローになっちゃった主人公と、相棒の女の子が、それぞれ普通の生活に戻ろうとして悩むという設定になってしまった。
007新シリーズと同様、リアリティはあるけど、僕としてはおもしろくない方向転換だ。
興行成績もふるわなかった。
さて、ここまで説明して、いよいよ僕が先日見た「キングスマン」の話。
「キックアス」を作ったマシュー・ヴォーン監督の最新作、それが「キングスマン」なのだ。
舞台は謎の情報部キングスマン
運動神経を見込まれた不良少年が、スパイ養成学園で鍛えられるというストーリーだ。
つまり、スパイものであると同時に、学園ものにもなっている。
「ハリー・ポッター」の成功は、魔法モノではなくて、魔法学園モノだったからだと、僕は思う。
同じくキングスマンは、スパイ学校モノというヘンなジャンルを作り出してしまった。
観客の目線は「学園の新入生」として、新しい世界に徐々にはいっていけるのだ。
マシンガンになる傘とか、靴の先から毒入りナイフが飛び出てくるとか、ヴォーン監督らしく、いかにも荒唐無稽な設定が続出する。
敵のボディガードは、20歳くらいの女の子だ。
ここもヴォーン監督らしい。
ひざ下が両足とも義足で、それに刀が入ってて、敵を切りまくる。
かっこいい!
僕はもちろん、かつての007シリーズが好きだった人にはたまらない。
つまり「殺人帽子をかぶるボディガード」「スイッチひとつで自動車が潜水艦」とかいうムチャクチャな設定が大好きな人には、たまらないおもしろさだ。
家族映画として観るには、残酷シーンがあるのでイマイチだが、カップルや男友達と観るには、盛り上がれる最高の映画だと思うよ。
以上、情報サイト『探偵ファイル』よりお届けしました。
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