岡田斗司夫ゼミからのお知らせ

岡田斗司夫の毎日ブロマガ「50周年の今、「アポロ計画」を全部語ります!」

2019/08/10 07:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/08/10

 今日は、2019/07/21配信の岡田斗司夫ゼミ「【月着陸50周年記念】岡田斗司夫が、宇宙開発とアポロ月着陸を語りつくすゼミ、いよいよ大詰め!」から無料記事全文をお届けします。


京都アニメーションスタジオ放火事件について

nico_190721_00012.jpg【画像】スタジオから

 こんばんは、岡田斗司夫です。
 7月21日の岡田斗司夫ゼミですけれども、今日は、ちょっとこの話からしようと思います。

 7月18日、大変悲しい事件がありました。京都アニメーション第1スタジオの放火事件です。
 たくさんの人がなくなりました。実は、知り合いも数人いて、いまだ安否確認ができない状態なんです。
 アニメファンの皆さんと同じく、正直、ちょっと今、かなり心を乱されています。
 事件や犯人については、今はニュースを見るしかできない状況で、一時はちょっと今日のニコ生をお休みするかもしれないというくらい落ち込んでいました。楽しい放送ができるか自信がなかったからです。
 テレビの取材依頼も何件か来たんですけど、しかし、自分よりも相応しい人が答えるべきだと思い、知り合いのアニメ評論家の人を何人か紹介させていただきました。
 昔と違って、取材申し込みをしてくれる記者の方が、京アニの作品を知っている方が多くて、同じ様に悲しんだり怒ったりしてくれたのが、今回の件での唯一救いと言いましょうか、自分的には「ああ、なんか昔に比べてちょっと違うな」と思ったところでした。

 この件に関して「岡田斗司夫ならどう語るだろうか?」と思ってくれた皆さんの期待に答えられず、本当に申し訳ありません。
 とりあえず、現在は平常心を取り戻してですね、いつもと同じくニコ生ゼミに集中するように努めています。もう本当に嫌です。
 ちょっと切り替えますね。
 なんかね、平常心を取り戻すために、『トイ・ストーリー4』とか『天気の子』を観に行ったんですけども、「やっぱり、自分はアニメが好きなんだな」というふうに……急にね、泣きそうになったり、もう本当にね、たまんないですよね。
 じゃあ、切り替えます、すみません。

『なつぞら』ラストに向けての展開

nico_190721_00215.jpg【画像】スタジオから

 ここからね切り替えるのも変なんですけど、今週の『なつぞら』です。
 今週の大きな動きは、なつと同い年の姉妹、夕見子の駆け落ち話と、ついに完成した短編アニメ『ヘンゼルとグレーテル』ですね。

 ちょっとビックリしたのが、完成した『ヘンゼルとグレーテル』のこのシーンなんですけど。
(パネルを見せる)

nico_190721_00236.jpg【画像】ヘンゼルとグレーテルの魔女 ©NHKnico_190721_00257.jpg【画像】ドーラ © 1986 Studio Ghibli

 上の方が、本編内、アフレコのスタジオのシーンで映った動画です。ちょっと色は悪いんですけど、グレーテルをいじめる魔法使いのばあさんです。で、その下が『天空の城ラピュタ』で、パズーの家でご飯食べながら怒鳴るドーラのシーンなんですけど。もう、構図も何もかも、そのまんまなんですよ。
 これ、やっぱり意図的なんですよね。スタッフがかなり楽しんでパロディをやってるというのがわかるんですよね。似てるでしょ? 並べてみると明らかに似ています。
 ただ、残念なことに、やっぱり『ラピュタ』の方が上手いんですよね。『なつぞら』の方は、たぶん「当時のなつ達の技術でやろうとしたら、こんなもんだった」というふうにやろうとしているから、どうしても『ラピュタ』の方が上手くなっちゃってるんでしょうけど。

 あと、木曜日のオンエアされた、第94話で、こんなシーンがありました。
(パネルを見せる)

nico_190721_00400.jpg【画像】坂場君とマコさん ©NHK

 坂場君がマコさんにリテイクを出すシーンです。「マコさんはこれをすごく嫌がってるんですけど、坂場君が急に熱く語りだしている。なつはそれを心配そうに見ている」という構図なんですけど。
 これ、何かと言うと。森の鳥たちが急に魔女を襲うシーンがあったんですね。このシーンについて、坂場君が急に思いついたように「そうだ! これは鳥たちがまるでデモをしているみたいに見えるように描いてください!」と。で、そう言われたマコさんが「そんなの描けないわよ!」って怒るシーンなんですよ。

 しかしマコさん、そんなこと言われながらも、努力してなんとか描いてくれました。
 そのシーンが、土曜日の『なつぞら』で出てきたんですけど。
(パネルを見せる)

nico_190721_00442.jpg【画像】鳥たち ©NHK

 「鳥たちが、向こうの方から行儀よく2列になって飛んできて、みんなで順番に魔女を小突く」という。
 ……あの、「これはやり過ぎ」というか。「スタッフは高畑勲を馬鹿にしているのか?」と。それとも、「いわゆる社会風刺というのは、ここまでやらないと伝わらないと思ってるのかな?」と思って、ちょっとビックリしたんですけど。
 ただ、本当に鳥がデモをしているように見えたのも事実で。これはもう、描いちゃった方の勝ちですよね。

 そして、驚いたのが、なつのライバル・マコさんの引退だったんですけど。
 ドラマを見ている方はおわかりの通り、マコさんは、いきなり「私、結婚するわ」と言って、この物語から引退することを宣言して、もう登場しないような感じになったんです。
 「マコさんのモデルになったアニメーターは虫プロに引き抜かれることになり、この時、東映動画からは同様に何人も移籍していった」という、アニメの歴史に残る大事件をどう描くのかと、僕はずーっと注目してて、このニコ生でも何度も話してたんですけど、まさかその辺り、全部スルーされてしまいました。
 なんと、「建築家の彼氏と結婚して、一緒にイタリアに行ってきます」と。「もう、やりたいことはできたから、アニメは気が済んだ」と言われたんですけども。
 僕、正直、腰が抜けてしまって。「そういうキャラじゃないでしょ?」と。本来は、彼氏がいてもアニメを取るようなキャラクターだったのに、急にそこで「イタリアで彼氏と暮らします」と言われて、ちょっと腰が抜けました。

 だけど、やっぱりね、「ちょっとキャラが段々と渋滞してきていたので、抜いていかなきゃいけないのかな?」と。
 なにより、来週から、ついにTVアニメ編が始まるんですね。現実の歴史に照らし合わせると、東映動画でTVアニメの制作が始まった場合、マコさんは虫プロに行ってなきゃいけないはずだから、いるわけにいかない。そんな中での苦肉の策だとは思うんですけど。

 歴史的には、アニメ『鉄腕アトム』の放送が始まったことで、東映動画としてもTVマンガをやるしかなくなった。
 それまでは「うちはTVマンガなんて絶対にやらない!」というふうに……まあ、そう言いながらも、実は当時の東映動画は「1本あたりの予算を2千万~3千万くらいで、まあ年に4本とか、夏休み・春休み・冬休みくらいのスケジュールなら」という形で地下交渉をしてたらしいんですけど。その辺りの事情が知りたい人は、Wikiでも見てください。
 これについて、Wikiに書いてあったことをそのまま読みます。


1963年元日に放送開始した虫プロダクションの『鉄腕アトム』により、日本に本格的なTVアニメの時代が到来した。
3コマ撮りや止め絵、バンクシステムの多用で、テレビ向けの省力化を徹底していた『アトム』に対する東映動画関係者の評価は、当初は低いものであったが、同作品が高い視聴率を獲得すると、その存在を無視できなくなった。
東映動画内部でTVアニメの検討が開始されると、元・手塚治虫のアシスタントで、若手の新鋭アニメーターでもあった月岡貞夫は、自らTVアニメの企画を提出した。


 その月岡さんが出した東映動画初のTVアニメが『狼少年ケン』です。
(パネルを見せる)

nico_190721_00820.jpg【画像】狼少年ケン ©東映アニメーション

 まあ、これは東映アニメの公式サイトから持ってきた絵なんですけど。
 東映動画は、この『狼少年ケン』の第1話を、まるまるYouTubeに公式でアップしてるんですね。みなさんも、このオープニングだけでもぜひ見てほしいです。メチャメチャ動きが良いんですよ。
 この構図では、ちょっとわかりにくいんですけど、月岡さんらしい、全てのキャラクターの足が短いんですけども、「よくこんな短い足で動いて走るな!」っていうくらい、動きが見事なので。


月岡は、自ら演出や原画を引き受けたが、毎週1本のペースで放送されるTVアニメは、天才・月岡といえど、その全話を担当することは不可能であり、1話ごとに担当チームが組まれて制作にあたった。


 こんな事情がありました。
 月岡さんというのは、実は、1人でまるまる1話の原画を書いたりしていたんですね。Aパートを丸々1人でやってたり、「複数の人数」と言っても、まあ2人くらいでやってたり、もう、本当にすごい人なんですけど。

 さあ、ここから先、ドラマはどうなっていくのか?
 来週からは、NHKの朝ドラ『なつぞら』では、東洋動画ということになるんですけども、その東洋動画初のTVマンガに参加することになるみたいです。
 果たして、どんなアニメを作るのか? まさか『狼少年ケン』そのまんまはやらないとは思うんですけど。

 7月は、あと2週、放送があるので、たぶん「TVマンガの時代がやってきた!」という話を2週くらいやると思うんですよ。
 「毎週毎週アニメを作らなきゃいけない」というハードスケジュールの中、どんどんアニメーターの腕も上がっていくし、アフレコもどんどんするので、声優達の出番も増えてくると思います。
 で、オンエアが8月に入った辺りくらいから、「やっぱりテレビより映画だ!」ということで『太陽の王子ホルスの大冒険』に……果たして行ってくれるのかどうか?
 もうね、僕も『ホルス』をやるとは思ってるんですよ。でも、「このペースでそこまで行けるのか?」というふうに思ってもいるんですよね。

 現実の『ホルス』というのは、もともと北海道のアイヌ民話をベースにした作品だったところから、ちょっと政治的になることを嫌った上層部が「変えてくれ」と言った結果、北欧の話になったんですよね。
 でも、『なつぞら』では、そのまんまアイヌの物語としてやってくれるんじゃないかと思ってるんですよ。
 そしたら、雪次郎という、「雪月」の跡取り息子で、なつの友達の、声優をやってるんだけどアフレコの時に緊張して北海道訛りが出ちゃう子。「この子が逆に、他の声優みんなに北海道弁の方言指導をする」というキャスティングもできるし、まあ、わりと逆転できるんじゃないかと思っています。

 あとは、土曜日の、みんなでハイキングをする回で、坂場さん、つまり高畑勲が「今後はちゃんと取材しなきゃダメだ。今回、『ヘンゼルとグレーテル』をやった時も、こういうふうに、あらかじめ森で取材すればよかった」と言うシーンがあったんですけど。
 ということは、この『なつぞら』版の『太陽の王子』をやるんだったら、その舞台となるはずの北海道、なつの故郷の十勝の柴田牧場に、なつや坂場や、物語のキーになる人物がロケハンに行くことになるんじゃないかな?
 そうすると、そこで泰樹じいちゃんと坂場の出会いが生まれるし、そこで「坂場くんを男として認めるかどうか?」みたいな展開もできるんじゃないかなと思っています。

 『なつぞら』、ラストに向かってどんどん加速していっています。
 アニメの歴史や黎明期を、1人の女性の成長や青春に重ねているので、あくまでこれはドラマなんですよ。つまり、フィクションなんですね。
 だけど、実際のアニメの歴史とか出来事を知っていると、まあ、100倍楽しめる作品になっています。

 これから、いよいよTVアニメの歴史の話に入っていくので、今まで見ていなかった人も、できれば一緒に見ましょう。
 8月は、僕の妄想の中では、もう『ホルス』をやることは確定していて、それはアイヌの物語になって、十勝牧場にロケハンに行って、「子供の頃、私、ここで育ったんです」となつが言うと、坂場はなんか眩しそうに見つめるみたいな。
 そういう全く要らないような恋愛ドラマもどうせ入れなきゃいけないんだから、もう、十勝でやりゃあいいじゃん。そしたら、全ての伏線が、パッチンパッチン合うんだから。
 まあ、そんなふうにも思っています。みんなで『なつぞら』見ましょう。

「デヴィ夫人は?」(コメント)

 いまのところ、僕は「なつの生き別れになった妹は、デヴィ夫人として将来復活する」というデヴィ夫人説は取り下げません(笑)。
 いや、それ、どこで出すのかよくわからないんですけど。まあ、最終回のあたりで来るんじゃないかと思ってます。

地球が静止した1969年7月21日

nico_190721_01343.jpg【画像】スタジオから

 今日は、いよいよ1年前から話し始めたアポロ計画です。
 ちょうど50年前の今日、1969年7月21日に、アポロ11号は人類で初めて月に着陸しました。

 NHKとかニュースの報道なんかでは「7月20日」と報道している番組が多いんですけど、じゃあ、なんで僕は「21日」と言っているのかと言うと。
 正確に言えば、アメリカの現地時間では「7月20日日曜日の夜11時」だったんです。だけど、日本にいた僕が、それを生きて体験したのは「7月21日の昼間」だったんですよ。
 だから、僕は「7月21日」と言うんですけど。もう、本当に大騒ぎでした。

 これは、アリゾナ・デイリースターという新聞の号外版です。
(古い英字新聞を見せる)

nico_190721_01423.jpg【画像】アリゾナ・デイリースター

 こんなふうに1面の記事に載っています。
 もう本当にねこんなに絵が荒いんですよ。何が何かわからないですよね? 上が「はしごを降りているアームストロング船長」で、下が「ようやっとカメラを定位置に置いて、アームストロング船長とオルドリンの2人が月面歩行している」というシーンなんですけど。やっぱり、当時、送られてくる映像の技術では、こんなもんでした。
 この新聞は本物です。アリゾナ・デイリースターの「July 21、1969」ですね。この日の号になってます。

 日本でも、アサヒグラフという朝日新聞の雑誌が、8月15日というと毎年毎年、絶対に終戦記念の特集号だったのが、この月の号に関しては「緊急特別号 全ページカラー 人類初の月着陸」というふうに特集しています。

nico_190721_01513.jpg【画像】アサヒグラフ

 ちなみに、表紙は有名な、アームストロング船長がオルドリンを撮影した写真ですね。アームストロング船長ってね、こういう時でも、自分が歴史に残るとか考えない人なんですね。ひたすらミッションを淡々とこなしている。
 なので、実は月着陸の際に撮られた写真の中には、アームストロング船長の写真は1枚もないんですよ。全て自分が撮っていたので。だから、偶然、このヘルメットに映り混んでいたこの1枚しか、あの人の姿が写っている写真がないという。
 そんなアームストロング船長に対して、オルドリンの方は「自分が映ってて大喜び」で。まあ、なかなか2人の性格を表しているような感じなんですけど(笑)。

 日本では、7月21日月曜日の朝、午前5時17分という早朝に着陸しました。
 7月21日って、まだ学校があったっんですよ。7月24日ギリギリまで夏休みが始まらなかったから。なので、朝のニュースで「人類ついに月に到達!」というのは見たんです。
 だけど、そう言われても、ぼんやりとして実感がわかない。でも、そのまま学校に行ったら、なんか先生にも「見たか、見たか?」と言われたし、みんなその話ばっかりなんですよね。
 「月着陸船の後、宇宙服で外に出て月面歩行をするのは今日の夕方か夜になるんじゃないか?」と言われてたので、学校でも、みんなも先生もアポロのことばっかり話してたし、教室に置いてあったテレビでニュースをつけて、もう、授業も放ったらかしで、みんなで見てました。

 当時の小学校は、短縮授業といって、夏休みに入る1週間か2週間くらい前から、午前中で学校が終わりだったんですよ。だから、12時を過ぎた頃には家に帰れたんですけど。
 ところが、そのニュース見ていた先生方が「もうすぐ月面歩行がある」ということで、ちょっと会議をした結果、「みんな、もう家に帰っていいよ」って言われたんですね。まだ学校があるのに。まあ、「おおらかな時代」と言えば、おおらかな時代だったんですけども。
 でも、当時の僕らにしてみれば、それくらい人類の歴史に残る事件だったんですよね。なので、先生に「もう家に帰っていいよ」って言われた。まあ、学校でもテレビは見れたんですけど、みんな家に帰されたんですよね。

 もう、僕は、本当に慌てて走って家に帰りました。
 通学路には遠里小野商店街という、街の商店街としてはそれなりの規模のものがあったんですけど。いつも、昼間にそこを歩くと、買い物をしてるお母さんとかがいっぱいいたんです。だけど、その日に限っては商店街に人気が全くないんですね。
 もう、みんな、家でテレビを見てるんですよ。商店街中の店を見たら、奥の方でテレビがついているのが見えたり、もしくは、テレビがないお店ではラジオをつけっぱなしにして、おじさんもおばさんもみんなでラジオを聞いてたり。電気屋さんのショーウィンドウには、やっぱり人がたかってて、みんなずーっとテレビを見てました。我孫子前駅という南海高野線の駅の前を通ったら、駅員さんは、本当に、駅員室の中でラジオのボリューム最大にして聞いてたんですね。
 僕はあんな光景を、それ以前の東京オリンピックでも、その次の年の大阪万国博でも、その後の日本や世界を揺るがす大事件、例えば浅間山荘もそうですし、9.11 世界貿易センターのテロ、東日本大震災と、いろんな事件があったんですけど、それでも、あんな光景は見たことないですね。
 とにかく、街に誰も人がいなくて、たまにいる人達はみんなテレビを見たりラジオを聞いていて、もう全部が止まってたんですよ。

 「世界が今、どんな状況になっているのか?」っていうのも報道されてたんですけど、ニューヨークのタイムズスクエアでも、パリでも、メキシコでも、とりあえず世界中の人が、その場にあるテレビに見入ってて、誰も動いてないんです。
 その映像を見て、本当に最初は「写真か?」って思ったんですけど、たまに車が動いてて、「うわぁっ! これ、本当にみんな止まってるんだ!」とわかったんです。
 やっぱり、後にインタビュー映像とかを見たら、「1969年7月のアメリカ時間でいうと7月20日、日本時間でいうと7月21日、この日に何をしていたか? その時間、何をやっていて、それを止めてテレビを見てたのか?」というのを、やっぱりみんな覚えているんですよ。

 あの瞬間、いよいよアームストロング船長が月着陸船から降りて月面を歩くという瞬間、地球は止まってたんですよね。
 「地球がピタリと静止して、その日に人類は月に到達したんだな」と、すごい思いました。
 お昼時にはいつも人が多い商店街を抜けても、本当に、誰も歩いてなかったんですよ。みんな、止まってて。

 走って走って、やっと家に着いて。僕がドアを開けて「もう歩いた!?」って聞くと、奥のお茶の間の方から「まだや!」って声が帰ってきたんです。
 急いでお茶の間の方に走って入ったら、父親と母親とうちのお婆ちゃん、あとは、おじさん夫婦、うちで働いてた四国から出稼ぎで来ていた当時16歳17歳くらいのお姉ちゃんたち、あとは近所に住んでた従業員のお兄ちゃん達が、みんな本当にテレビに見入ってるんですね。

人類月面に降り立つ。SFに現実が追いついた1969年7月21日

 うちの家では、僕が幼稚園の時にボタン式のテレビ……初期のテレビって、本当にパチパチとボタンでチャンネル選択をするんですけど。そんなボタンチャンネルのモノクロテレビを買って、小学校3年生の時にカラーテレビが来たんですよね。
 でも、カラーテレビのはずなのに、画面の上で流れているのは白黒の画面で。画面には「月からの生中継」ってテロップが出ているんですけど、もう本当に、その月からの生中継は、やっぱりこれなんですよね。
(先程の新聞の荒い画像を見せながら)

nico_190721_02128.jpg【画像】アリゾナ・デイリースター

 本当に、テレビ画面の大きさも、ちょうどこれくらいで、何が映ってるのかよくわからない。
 だけど、そんな画面を、みんな延々とじーっと見てたんですよ。

 「ピーッ!」という交信音だけがテレビから聞こえて、英語のやりとりがある。しばらくすると同時通訳のお姉さんが、それを通訳するんですけど。
 しばらく家族と一緒に、そんな本当に動きのない画面を見ていると、2歳年上のお姉ちゃんも中学校から帰って来て、2人で台所に行って麦茶を大急ぎで飲みました。5秒でもテレビの前から離れるのが怖くって。

 そんな間も、僕はずーっと、両手でこの本を持ってたんです。
(本を見せる)

nico_190721_02228.jpg【画像】『月へ行くアポロ宇宙船』

 ちょうど、月着陸の1週間か10日くらい前だと思うんですけど、この本を買ってもらったんですね。『月へ行くアポロ宇宙船』という。
 これ、月着陸に合わせて出版されたので、アポロ11号の本じゃなくて、その前のアポロ8号の本だったんですよ。でも、僕は何回も何回も読み直していた本なんですけど。それをずーっと手に持ってテレビ画面を見てました。
 何度も読んでたから、もう、とりあえず、テレビを見ながら解説をしたんですよ。例えば「この絵は1.2秒遅れてるんやで!」とか、「月から地球までは40万キロ離れてるから、光でも1.2秒かかるんや!」とか。
 そしたら、おじさんに「光が遅くても、電波はもっと速いやろうが!」と言われて。「電波も光も同じやねん!」って言うたら、「なんでや!」という、なんか漫才みたいな返しをされたんですけど(笑)。
 そのおじさんはイライラしてチャンネルを変えるんですけど、どのチャンネルも、NHKも、教育テレビも、毎日放送も朝日もフジもTBSも、全部、同じ画面なんですね。

 お昼前から見てて、11時半くらいにアナウンサーがここまでの状況を整理して、僕らはそれまでに何百回も聞かされた、アポロ計画とか、サターンV型ロケットについてまた聞かされて、「アームストロング船長がどんな人か?」、「NASAっていうのはどんな組織か?」、そして、ケネディ大統領の演説の映像を見せられて。
 それから、12時ちょっと前くらいになって、ようやっと、テレビ画面が切り替わって、スタジオから月面の白黒の映像になったんですよ。

 そしたら、アポロの月着陸船の脚が、画面中央に映ってたんですね。
 おじさんに「何や?」って言われたんですけど、僕は月着陸船の形を知ってたので、「あれは月着陸船の脚や!」って言って。
 そしたら、ゆっくりとコマ落としのように人間がカタカタ動いて、その人影がはしごを降りて行くんですよね。よくわからないんですけど、どうも月に降りたらしいんですよ。はしごを降りて行って、下まで行って、月に降りたと思ったんです。
 なので、みんなアームストロング船長からの言葉を待ってたんですけど。そしたら、その人影は、またはしごの上に登り始めたんです。「やめるのか?」と思ったら、そこで同時通訳の人が「問題ない」という言葉を翻訳したんです。
 「なぜ、あの時、はしごを登ったのか?」 この謎が解けたのは、本当に50年後くらいだったんですよ。僕、つい2、3年前に、それはなぜかという解答を知ったんですけども。

 そして、人影がまた下に降りたんですよね。もう本当に、テレビ画面の中の荒い荒い映像で、人影が動いたように見えたら、アームストロング船長が英語で何か喋ったんです。
 すると、同時通訳の人が……今、一般にWikiとかに載ってるセリフではなく、「人間の一歩は小さいが、人類にとっては大きな飛躍だ」というふうに言ったんですね。

 何度も何度も、この同じ言葉をアナウンサーが繰り返します。「アームストロング船長の言葉です」と言って、このセリフを何回も何回も繰り返していました。
 それを聞いていると、テレビから急に「セイコーの時計が正午をお知らせします」と聞こえたんです。
 つまり、僕らは、11時前くらいから1時間以上、本当に何もない画面というのをずーっと見ていた、と。同じ解説を何度も聞いている内に1時間経っちゃってて、もう12時になってたんですね。

 そしたら、もう1人がはしごから降りてきた。ということは、これはオルドリン飛行士ですね。
 ずーっと灰色の月着陸船の脚ばっかりを映していた画面から、カメラが動いて、ようやっと月着陸船全体が映る位置に画面が動いた。つまり、アームストロング船長がテレビカメラを持って、オルドリン飛行士を映せるように後ろへ下がって行ったわけですね。
 僕は思わず「あっ! あれは月着陸船! さらにこの月の軌道の上ではマイク・コリンズが司令船で回ってて~」って言ったんですけど、おじさんからは「トシオは黙っとれ!」って言われました。

 それからも、2人の動きは何をしているのかよくわからなくて。解説員の「たぶん、地震計を出しているみたいですね」みたいな言葉を聞きながら待っていると、ようやっと、アメリカの国旗を広げだしたんです。
 荒い画面で見ても、ちゃんとアメリカの国旗ってわかるんですよね。それを、すごい苦労して月の上に立てて。もう本当に、上手く旗が刺さらなかったみたいなんですけど。それを月の上になんとか立てたんです。
 この時、オルドリン飛行士が、ぴょーんぴょーんというふうに月面の上を飛んでいるのを見て、「ああ、月は本当に重力が6分の1なんだ」とわかったんです。

 そんな映像を見ているうちに、また1時間が過ぎていて。昼の1時を過ぎたので、家のみんなは、もう仕事に戻り始め、姉ちゃんも部屋に帰っちゃったんですけど。僕だけは、ずーっとテレビを見てました。
 「とんでもないことが、今日、起こった!」というのがわかったんですね。「人類の歴史は、今日、変わった!」と思いました。

 テレビでも、その5年くらい前からアポロ計画というのは報道されていたんですけど。やっぱり、ニュースでも「それはちょっと無理じゃないか?」というニュアンスが多かったんですね。
 周りの大人の人も、うちの父親もおっちゃんも「それは無理や。人類が月に行くなんてことは、それはない」って、やっぱり誰も信じてなかったんです。
 「アメリカは月に行くことを諦めるだろう」と。「きっとそのロケットは爆発するし、ベトナムも今、エラいことになってるから、そんなことをやってるわけにいけへんやろう」と。または「ソ連に先を越されるだろう。ソ連の無人ロボットが先に行くだろう」とか、あとは「人類が月に行くより先に、第3次世界大戦が起きて、核戦争になるだろう」というふうに言いました。
 こういうことを真剣にテレビで言っている評論家の人も、何人もいたんですね。

 「人類が月に行く」と、その当時、本気で信じていた人というのは、たぶん、一部のマニアの人というか、報道でも科学関係の人と、あとは、こういう子供雑誌を本気で読んでいた子供たちだけだったんですね。
(本を見せる。当時の子供雑誌)

nico_190721_02842.jpg【画像】少年マガジン

 今回は、ちょっと2冊だけ持ってきたんですけど。
 東京オリンピックが終わって、メキシコでオリンピックがあって、1968年のクリスマスに、ようやっとアポロ8号が月の周りをぐるり周回飛行して帰って来て。この時に、ようやっと月から見た地球の写真が公開されました。
 それが新聞に載った時、ようやっと、周りの大人の人たちも、少しずつ信じるようになったんです。5年前から子供達が信じていたことが、ようやっと半年前になって大人達も信じるようになった。
 そして、NASAの科学者と子供達だけが信じた世界がついに現実になった瞬間というのを、僕は目撃しました。
 それがあの日。今日、7月21日から、ちょうど50年前のことです。

 あれから50年経ちました。
 人類の歴史は、確かにあの日から変わりました。生活の中にお掃除ロボットが入って来て、誰もが手のひらサイズのコンピューター電話機を使うようになり、何でもできるようになりました。
 だけど、そんな今でも未来は楽しくて面白いです。何があろうとも、どんな事件があろうとも、相変わらず僕にとっての未来というのは楽しくて面白いと思っています。空飛ぶタクシーなんて、「本当にいつ飛ぶんだろう?」と待ちきれません。

 でもね、同時に「やっぱり過去も面白い」と思うようになりました。
 よく「もう未来は面白くない」とか、「昔の方が面白い」と言う人がいるんですけど、そうじゃないんですよ。両方面白いんですよ。
 あの頃好きだったアポロ宇宙船とか、サターンロケットというのは、今、勉強すると、子供の頃の単なる憧れの対象から、興味深くて一生かけて調査したいような課題、勉強の対象になったんですね。

アポロに関するアイテム紹介

nico_190721_03103.jpg【画像】スタジオから

 それでも、最近の僕は、やっぱり50年前のことを思い出して、いろんなしょーもない買い物をするようになりました。

 例えば、これはコーリンというメーカーの色鉛筆なんですけど。
(月着陸船のイラストが印刷された色鉛筆の入ったケースを見せる)

nico_190721_03110.jpg【画像】色鉛筆

 この月着陸船は、かなり正確です。
 当時って、やっぱりこういう文具がすごく多かったんですよ。
 これもコーリンの鉛筆です。
(同じく、月着陸船のイラストが入った鉛筆のケースを見せる)

nico_190721_03140.jpg【画像】鉛筆ケース

 これ、月着陸船の描き方を見ると時代がわかるんですよ。例えば、この鉛筆の方は、描かれている月着陸船が、ちょっと古いデザインなんですよね。色鉛筆の方は、デザイン的に新しいから、こっちの方が後に発売されたというのがわかります。

 あと、これね、かわいいんですけど。
(小さなメモ帳を見せる)

nico_190721_03158.jpg【画像】メモ帳

 これ、サンスターのアポロメモっていう商品なんです。
 ここに入ってるのがペンですね。まあ、ペンと言っても、プラスティックの中に鉛筆の芯が入ってるだけなんですよ。
 表紙を開けると、もう1枚絵があって、それをめくると普通のメモ用紙が入っているだけなんですけど。こういう商品を先を争って買ったんですよね。

nico_190721_03242.jpg【画像】メモ帳2

 こんなしょーもないものでも、当時は、やっぱり20円か30円したんですよ。この当時の僕のお小遣いが1日10円だったので、こういうのを買って、今でも大事にしてます。小学校5年の僕にしてみたら、小学校6年まで、もう本当に、ずっと小遣いは1日10円だったので、なかなか買えなかったんですけど。

 でも、本当に欲しかったのは、アメリカのレベル社のプラモデル、96分の1のサターンV型ロケットですね。
 実物が全長1メートルくらいある、アポロ宇宙船とサターンロケットの打ち上げロケットの組み立てプラモデルだったんですけど。まあね、1日10円のお小遣いでは、そんなアメリカ製の巨大なプラモデルは買えないんですよ。

 ようやっと、それと似たようなものが買えたのが、この10年くらいです。こっちに置いてある、ちょっと大きいやつが72分の1スケールのサターンV型ですね。
(机の脇にある、巨大なロケットの模型を見せる)

nico_190721_03322.jpg【画像】サターンV模型

 これは、去年のゼミでも使ったやつです。ちょっと大き過ぎて、カメラでは下まで映らないんですけど。

 全体は、こんな形をしています。
(一回り小さいサターンⅤ型の模型を見せる)

nico_190721_03336.jpg【画像】サターンV模型(小)

 これは100分の1スケールなんですけど。こんな形です。細長くて、見せてもあんまり様にならないんですけどね。
 後で、これを使ってまた解説します。

 この72分の1のスケールのプラモデルは、子供の頃に欲しかった96分の1より、2周り大きいんですよ。
 後半では、このロケットを使って、アポロ11号の打ち上げや、宇宙船の秘密、あとは、当時のことを、もうちょっとお話ししたいと思います。
 いよいよサターンV型とアポロ宇宙船の話ですね。
 あとは「発射当日、宇宙飛行士達は何をしていたのか?」という話。
 宇宙飛行士には、実は打ち上げ定食というのがあるんですよ。打ち上げ当日は必ず食べる打ち上げ定食というのが。「なんで全員そんなの食べるのか?」っていう話や、その他にも「月に行く時に、どんなお弁当を持って行くんだろうか?」みたいな、しょーもないことも、やっぱり、この数年間の調査でわかったことが色々あるんですよ。
 もちろん、子供の頃に買ってもらった本の中にも書いてあったこともあるんですけど、それを後で調べると、なぜそうなっているのかが、どんどんわかってきて、メチャクチャ面白いんですね。

 あとは、愚痴になっちゃうんですけど。
(宇宙飛行士たちがプリントされた、巨大なケースを見せる)

nico_190721_03457.jpg【画像】絵の具セット

 これ、何かと言うと、水彩絵の具のセットなんですよ。これを開けると、デカいパレットが入ってて、水彩絵の具が入っているんですけど。
 この月着陸船のイラストが、もうメチャクチャでたらめで好きなんですよね。「脚が長すぎる!」とか、「宇宙飛行士が3人とも月面に降りてる! どうやって地球へ帰るんだ、お前ら!?」とか(笑)。
 これはイギリス製なんですけど、やっぱり、アポロ計画って、当時は本当に世界中で商品になってたんですけど、日本の商品って正確なんですよ。だから、世界中のアポロ商品を見比べると、日本の商品ってマジメすぎてつまんない場合が多いんですよね。
 世界の商品、本国アメリカでも、かなりいい加減なものを作っていることが多いんですね。

 そんなアメリカの商品では、どんなものがあるのかと言うと。これは、マルクスというオモチャメーカーの月着陸船パチンコゲームっていうやつですね。
(テーブルサイズのパチンコ台を見せる)

nico_190721_03546.jpg【画像】パチンコ

 パチンコになってて、こうやって引っ張って打つと……もう全然動かないんですけども。玉がガチャンとパチンコになって出て行って、ガチャガチャと動く。こんなオモチャがありました。
 これはアメリカのオモチャです。アメリカと言っても、やっぱりこんなもんだったんですよ。

 なんでこんなアイテムを持ってるかというと、もう本当に話せば長いことなんですけど。
 『週刊アスキー』という、昔、あった雑誌が創刊された時、僕はかなりの原稿を書いていたので、その原稿料を当時はいっぱいいただけてたんですよね。
 その時に得た金を全てつぎ込んで、アメリカのオモチャを買いまくった時期が、半年くらいあったんですよ。これらは、その半年か1年くらいの間に買った商品ですね。
 eBayっていうオークションサイトで、競り落として買ってました。


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