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「【NHK朝ドラ『なつぞら』を語る 2 】 ついに登場! やっぱりモテモテだった高畑勲」
下山さんが用紙をセットする時に、使ってるんですけど。
こういうふうに、アニメーションの作画用紙上に3つ穴が空いていて、ここにピッタリ入るようになっている。
これだけのものなんですけども。
何が技術革新だったかと言うと、それまでは “隅合わせ” と言う、要するに紙をまとめて、端っこをヘアピンかなんかで止めていたんですね。
これでも作画が出来ないことはないんですけど。
やっぱり紙って、同じところで買っていても、それぞれの形というのは、そんなにね均一じゃないんですよね。
紙の角も完全に直角ではないし、裁断の時のタイミングによって、幅も高さも微妙に1ミリくらいの差があるんですよ。
なので、実は、隅合わせをしていると、徐々に徐々に狂ってきちゃうんですね。
当時、アメリカのアニメスタジオでは、このタップというのが使われていたんですけど、たぶん、今、なつ達が使っているタップは、アメリカから輸入している高級品なんですよ。
まだまだ国産で作られる時代ではない。
ここから先、町工場とかに依頼して作ってもらうようになって、ようやっと安くなるんでしょうけども。
このタップによって正確に紙を重ねることが出来るようになり、たとえば「キャラクターの腕だけを動かす」とか、「口パクだけ動かす」とか、もしくは “ブック” と呼ばれる「背景が前にあって、そこからヌッと顔を出す」というアニメを作る時に、絶対にズレないように組セルが出来る、と。
この男が、下山に対して「この絵、動きがおかしくないか?」と、質問に来ます。
この、なつが描いた「馬が坂を駆け下りる」というシーンの、作画がおかしくないかと言ってくるんです。
もう、俺はこのキャラクターを高畑勲として見てるから、以降は「高畑勲」と呼びますけど。
なつは、それに対して、一生懸命「いや、ディズニーのアニメではこういうふうになっている」とか、「キャラクターだ。性格だ」というふうに説明するんですけども。
高畑が言いたいことは「デフォルメするんだったら、まず、正確なデッサンをしてからにしてくれ」と。
たとえば、「急な坂を馬に乗った人が駆け下りる時、乗っている人物が怖くないんだったら、馬にはちゃんと怖がっているように見せろ」と。
さらに「怖がっているということを “表情” で見せるな」と。
「怖がっている顔で伝えたら、それは説明であって、表現ではない」というのが高畑勲の主張なんですよ。
なかなか厳しいですね。
本当の事を言えば、彼は正確なデッサンを元にしてデフォルメをして欲しいわけですね。
「馬が怯えているというのを表情だけで見せるのは手抜きだ」というのが高畑勲の主張なんです。
ディズニーは、『バンビ』において、スタジオ内に馬とか鹿を持ち込んで、スケッチをやってるんですよ。
高畑勲が望んでいるのは、このレベルなんですよね(笑)。
これを突き詰めて行った結果、『かぐや姫の物語』は大変なことになったんですけども(笑)。
基本的に、高畑勲というのは、もう最初から主張が変わらない。
そういうふうに考えているんですね。
で、「いや、露木さんの意見です」と言われたら、渋々「直す」と答えるんですよ。
これで、一応は解決するんですけども。
結局、高畑勲がここで言っている「現実的なリアリティを追求すべきか、アニメにしかできない表現を目指すべきか?」というのは、高畑勲の遺作、もう死ぬ何年か前に完成した『かぐや姫の物語』で、ようやっと達成されたようなものなんですけどね。
この後、高畑勲くんは、制作課に帰って、露木に報告するんですよね。
「今、こういうふうになっています」と。
すると、「よくプライドの高い絵描き達を納得させたなあ」と驚かれるんですね。
もう、この段階で、本当に対立が生まれてきているのがわかります。
前に話した「スタッフ全員で今回のアニメのキャラクターを作ろう!」という集まりの中に、演出は参加してなくて、演出には「このキャラクターで行く」という決定事項だけを事後承諾させる形になってしまっているという、この歪み。
後に、労働争議の中で出来ていくセクト主義も、ここに現れていると思います。
この仕上げ部にいる女性たちは “お嫁さん候補” であり、その中の女性たちは、作画とか制作の中で偉くなりそうな男達、出世しそうな男達に対して…
…まあ “狩場” って言うんですかね?
自分達をアピールして有利な結婚をする場でもあった、と。
ももっちには、この感覚があるので、なつの世間知らずぶりを笑っているんですね。
じゃあ、宮崎駿はその時どうだったのかというと、高畑勲が後に「あの顔でしょ? 無理ですよ」って言ってたんですけど。
背が低く、メガネがやっぱりハンデだった時代なんですね。
なので、宮崎駿は全然モテずですね、高畑勲はモテモテだったそうです。
そういうふうな部分も頭に入れておくとですね、ももっちのあのセリフも、なかなか味わい深く聞けるのではないかと思います。
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いかがでしたか?
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/07/04
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今回は、ニコ生ゼミ6月23日分(#287)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【NHK朝ドラ『なつぞら』を語る 2 】 ついに登場! やっぱりモテモテだった高畑勲」
じゃあ、2つ目ですね。『なつぞら』のもう1つの話なんですけど。
今回、「技術革新として “タップ” というのが導入されました」というシーンがありました。
下山さんが用紙をセットする時に、使ってるんですけど。
これが実際のアニメーションのタップというやつです。
こういうふうに、アニメーションの作画用紙上に3つ穴が空いていて、ここにピッタリ入るようになっている。
これだけのものなんですけども。
何が技術革新だったかと言うと、それまでは “隅合わせ” と言う、要するに紙をまとめて、端っこをヘアピンかなんかで止めていたんですね。
これでも作画が出来ないことはないんですけど。
やっぱり紙って、同じところで買っていても、それぞれの形というのは、そんなにね均一じゃないんですよね。
紙の角も完全に直角ではないし、裁断の時のタイミングによって、幅も高さも微妙に1ミリくらいの差があるんですよ。
なので、実は、隅合わせをしていると、徐々に徐々に狂ってきちゃうんですね。
当時、アメリカのアニメスタジオでは、このタップというのが使われていたんですけど、たぶん、今、なつ達が使っているタップは、アメリカから輸入している高級品なんですよ。
まだまだ国産で作られる時代ではない。
ここから先、町工場とかに依頼して作ってもらうようになって、ようやっと安くなるんでしょうけども。
このタップによって正確に紙を重ねることが出来るようになり、たとえば「キャラクターの腕だけを動かす」とか、「口パクだけ動かす」とか、もしくは “ブック” と呼ばれる「背景が前にあって、そこからヌッと顔を出す」というアニメを作る時に、絶対にズレないように組セルが出来る、と。
そういう、リミテッドアニメを助ける意味での技術革新になってます。
どの辺が技術革新なのかというと、ここから先はなんか面倒くさい話になっちゃうんですけども。
このタップというのを出してくれただけでも、僕的にはちょっと感動でした。
・・・
こうやって作画してるところへ、ついに登場した高畑勲。
劇中では、新人の演出助手の坂場という名前なんですけども。
劇中では、新人の演出助手の坂場という名前なんですけども。
この男が、下山に対して「この絵、動きがおかしくないか?」と、質問に来ます。
この、なつが描いた「馬が坂を駆け下りる」というシーンの、作画がおかしくないかと言ってくるんです。
もう、俺はこのキャラクターを高畑勲として見てるから、以降は「高畑勲」と呼びますけど。
高畑勲が言うには「この馬は急な坂を下りているんだから、怖いはずだ。なのに、なぜ、前のめりに作画しているんだ?」ということを聞いてくるんですね。
なつは、それに対して、一生懸命「いや、ディズニーのアニメではこういうふうになっている」とか、「キャラクターだ。性格だ」というふうに説明するんですけども。
高畑が言いたいことは「デフォルメするんだったら、まず、正確なデッサンをしてからにしてくれ」と。
たとえば、「急な坂を馬に乗った人が駆け下りる時、乗っている人物が怖くないんだったら、馬にはちゃんと怖がっているように見せろ」と。
さらに「怖がっているということを “表情” で見せるな」と。
「怖がっている顔で伝えたら、それは説明であって、表現ではない」というのが高畑勲の主張なんですよ。
なかなか厳しいですね。
本当の事を言えば、彼は正確なデッサンを元にしてデフォルメをして欲しいわけですね。
「馬が怯えているというのを表情だけで見せるのは手抜きだ」というのが高畑勲の主張なんです。
この少し前に、“ライブアクション” という、人間が実際に牛若丸の衣装を着たり、常盤御前の衣装を来たりして動く様子を撮るという工程が出てきたんですね。
この時に「実際の服がどのように翻るのか?」とか、「人間が走ると、どういうふうな歩幅になるのか?」というのを、なつたちは一生懸命スケッチしていたんですけども。
ディズニーは、『バンビ』において、スタジオ内に馬とか鹿を持ち込んで、スケッチをやってるんですよ。
高畑勲が望んでいるのは、このレベルなんですよね(笑)。
「出来れば、本当に馬を坂まで連れて行って、駆け下りてくれ」と。
「それが出来ないんだったら、変に中途半端な動きで馬なんか出すな!」という考えなんですよ。
「馬を出すからには真面目にやれ!」と。
「それが出来ないんだったら、変に中途半端な動きで馬なんか出すな!」という考えなんですよ。
「馬を出すからには真面目にやれ!」と。
これを突き詰めて行った結果、『かぐや姫の物語』は大変なことになったんですけども(笑)。
基本的に、高畑勲というのは、もう最初から主張が変わらない。
そういうふうに考えているんですね。
・・・
さて、この段階で「こんなデフォルメは変だ」と、演出が作画に口出しすることに関して、ドラマ内でも、明らかに、下山さんもマコさんも先輩方は不愉快そうにしているんですよね。
下山さんは、ついに「それは演出の露木さんの意見なのか? それとも、ただの演出助手のお前の意見なのか?」と聞きます。
で、「いや、露木さんの意見です」と言われたら、渋々「直す」と答えるんですよ。
これで、一応は解決するんですけども。
結局、高畑勲がここで言っている「現実的なリアリティを追求すべきか、アニメにしかできない表現を目指すべきか?」というのは、高畑勲の遺作、もう死ぬ何年か前に完成した『かぐや姫の物語』で、ようやっと達成されたようなものなんですけどね。
この頃から、作画と演出の間にヒビが入るというか、対立が出来てくるんですね。
この後、高畑勲くんは、制作課に帰って、露木に報告するんですよね。
「今、こういうふうになっています」と。
すると、「よくプライドの高い絵描き達を納得させたなあ」と驚かれるんですね。
もう、この段階で、本当に対立が生まれてきているのがわかります。
前に話した「スタッフ全員で今回のアニメのキャラクターを作ろう!」という集まりの中に、演出は参加してなくて、演出には「このキャラクターで行く」という決定事項だけを事後承諾させる形になってしまっているという、この歪み。
後に、労働争議の中で出来ていくセクト主義も、ここに現れていると思います。
・・・
あと、まあ、先週の『なつぞら』で面白かったのは、“ももっち” という仕上げ部のお姉さん、なつの友達が「新人の演出助手の坂場君が、東京大学出身だ」ということを知っていた、ということですね。
ドラマの中では「哲学科」と言ってたんですけど、実際の高畑勲は文学部フランス文学科です。
ただ、フランス文学科というのは、小説をやるのではなくて、“フランス文学” という哲学を行うから、まあ、事実上は哲学科と言ってもかまわないんですけども。
ただ、フランス文学科というのは、小説をやるのではなくて、“フランス文学” という哲学を行うから、まあ、事実上は哲学科と言ってもかまわないんですけども。
なぜ、「東京大学で哲学をやっていた」と知っていたのかっていうと、「そういう情報は仕上げ部にはすぐに伝わるから」と、ももっちは言います。
この仕上げ部にいる女性たちは “お嫁さん候補” であり、その中の女性たちは、作画とか制作の中で偉くなりそうな男達、出世しそうな男達に対して…
…まあ “狩場” って言うんですかね?
自分達をアピールして有利な結婚をする場でもあった、と。
ももっちには、この感覚があるので、なつの世間知らずぶりを笑っているんですね。
社内の女の子は、だいたい、ももっちと同じ視線で、誰か新しい社員が入って来たと聞いたら、そいつが出世しそうだったら、自分達をアピールしまくって結婚しようとするという話なんですよ。
現実に、この当時の東映動画でもそんな感じで。
高畑勲も爪弾きにされるのではなく、モテていました。
高畑勲も爪弾きにされるのではなく、モテていました。
みんなでパンも食べてたんですけど、まあ、パンをパクパク食べてるから「パクさん」と呼ばれてたんですけどね。
「仕上げの女の子が順番でお弁当を作って持って来た」というふうに言われるくらい、モテモテでした。
「仕上げの女の子が順番でお弁当を作って持って来た」というふうに言われるくらい、モテモテでした。
じゃあ、宮崎駿はその時どうだったのかというと、高畑勲が後に「あの顔でしょ? 無理ですよ」って言ってたんですけど。
背が低く、メガネがやっぱりハンデだった時代なんですね。
なので、宮崎駿は全然モテずですね、高畑勲はモテモテだったそうです。
そういうふうな部分も頭に入れておくとですね、ももっちのあのセリフも、なかなか味わい深く聞けるのではないかと思います。
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