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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「【『攻殻機動隊』第2話解説 1 】 近未来でも遠未来でもない“中未来”を描ききった士郎正宗」

2019/06/26 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/06/26
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今回は、ニコ生ゼミ6月16日分(#286)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『攻殻機動隊』第2話解説 1 】 近未来でも遠未来でもない“中未来”を描ききった士郎正宗

 
 『攻殻機動隊』のエピソード2「 SUPER SPARTAN」の後半の解説をやっていきます。

 士郎正宗さんもなかなか大変で。

 1989年に2029年のことを考えるんだから、30年後のことを予想して、世界を描いてるんですね。

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 「30年後の世界では、こういうロボットが実用化されていて、その背中に乗り込んで活躍する」という、そういうかなり思い切った未来像を見せています。


 この点、あんまり指摘する人がいないんだけど、こういう「30年くらい未来」って予想しにくいんですよ。

 というのも、5年後10年後の未来だったら、アイデア1つ、たとえば『パトレイバー』だったら「 “作業用レイバー” と呼ばれる人型の工作機械が実用化して、人々の生活に入ってきた」という1アイデアでいけるし、もしくは、100年後200年後だったら「人類はこの時、恒星間飛行を開発して宇宙世紀に突入した」みたいなことも言えるんだけど。

 しかし、30年後の未来というのは、リアリティを出すために「米ソ2大大国が対立していて~」みたいな、現実の社会背景も入れなきゃいけない。

 100年後200年後だったら「もうすでに、ドルとか円とかユーロなどの通貨が消滅している」としてもいいんだけど、30年後くらいの世界の中では、そういうものがとても消滅してるとは思えないし、ということで、メチャクチャ書きにくいは書きにくいんですね。


 だから、こういうのって、探してみたら珍しいんです。

 たぶん、30年後くらいを描いたSFで有名なのは『北斗の拳』くらいじゃないかな?

 でも、それにしたって「一度、世界が壊滅して、リビルドされた後の世界」を描いてるんです。

 そこでは、かつての文明社会を覚えている人がお爺さんみたいになっていて、「わしの若い頃はこういう世界があってのう。しかし、もうお前らは、生まれた時から核戦争の後じゃ」みたいな。

 こういうものは描きやすいんだけど、『攻殻機動隊』のような、現代の世界と繋がりながらの “中未来” 、近未来と遠未来の間の中未来を描いた作品って、わりと珍しいです。

・・・

 さて、前回はここまでやりました。

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 「全員突入用意! 洗脳装置が顔を出したら突っ込むぞ! やってやろうじゃないの! そうしろとささやくのよ。私のゴーストが」ということで、いよいよ突入することになりました。

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 この「やってやろうじゃないの!」というコマで、草薙素子の身体から出ている「プシュッ、シュシュシュ」という効果音は何かというと、その前のコマの「ピ」という音に対応しているわけですね。

 この「ピ」という音、何をやってるのかと言うと、このプロテクターを身体に合うように調整したんですね。


 おそらく、このプロテクターというのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』で、主人公のマーティンが未来で履いていた靴みたいなものだと思ってください。

 あとは、未来で着る服。あれ、着たら自動的にサイズが調整されましたけど、たぶん、そういう装置なんですね。


 それまでは少佐が着けているプロテクターというのは、狭い狭い部屋の中で活動してたから、身体にピッタリくっついているレオタードみたいに見えていたんですけど。

 この「プシュッ」のコマからは、肩の厚みが明らかに増していますよね?

 これは、スイッチを入れる事によって、おそらく、この中にゲルみたいな半液体を入れているのか、もしくは空気圧で膨らませて、防弾性能を持たせているんです。

 いわゆる「狭い車や飛行機の中では、ライフジャケット膨らませてはいけない」というのと同じですよね。この車の中ではしないんだけども、いよいよ外へ出るので、シュッと膨らます。

 ここらへんも、そういう連想が働く人にとっては、「ピ」と、「シュシュシュ」という効果音を見て、「おっ! いよいよアーマーを膨らませて突入準備だ!」とわかるんですけども。

 ちょっとSFを読み慣れていない人にはわかりにくいシーンなんです。

・・・

 次のページです。

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 前回の講座で説明した、“トグサが子グモを仕込んだ子供” ですね。

 政府の洗脳組織から逃げ出した子供が、警備員に捕まえられています。

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 ここで、警備員の1人が、捕まえた子供の首筋を見て「はッ」としました。

 もう1人の警備員は気が付いてないんだけど、こいつだけは何かに気がついたわけですね。

 そして、辺りを見回して、マンホールを見つけると、「!」とビックリする。

 よく見ると、このマンホールの中に草が巻き込まれてるんですね。

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 この辺が、『攻殻機動隊』を読む時のコツの一つなんです。

 基本的に、登場人物の誰かが「はッ!」という表情をしたら、何が「はッ!」なのかをよく観察しないと、そこから先を読んでもよく分からないんですよね。

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 一応、その直後に「大至急、排水路を封鎖しろ! 枝がついてる!」というセリフはあるんですけど。

 もう1人はわけもわからずに「おッ……おう!」って言ってるだけです。

 この「枝がついてる!」というのは、つまり「誰かがここに来て、この子供に何かを仕掛けた」と言ってるんですね。

 「このマンホールの中から誰かが出てきて、閉めた」と。

 こいつがそう思った根拠は、「上手く隠したつもりだけども、マンホールの蓋を閉めた時に、敵はこの草を巻き込んだことに気付いていないということに、こいつだけは気が付いたから」です。

 なので、マンホールを見た時に「!」という表現があるんです。

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 「気付かれた! トグサ、緊急脱出! 敵は同業のプロだ!」と、草薙素子が叫びます。

 彼女も彼女で「この程度のことで気付かれた」ということから、単なるガードマンじゃなくてプロだとわかったわけですね。

 前回も解説したように、どうもこいつらの装備というのは、自衛隊とかが使っている最新鋭のものだということで、ちょっと怪しんでいたんだけど、それが、ここで「同業のプロだ」という確信に変わったわけです。

 そして、「攻性防壁モードに切り替える」と、通信をより厳重なモードに切り替える。

 暗号とかの変換がより深いモードに切り替えることを指示します。

 「バズ、サイトー、トグサを連れ出せ。イシカワは援護! ボーマは退路を確保。私とバトーが援護する!」ということで、完全に逃げる体制になって、何かのスイッチを入れます。


 この優秀な警備員は、この子供の中に “子グモ” という監視プログラムが仕込まれたことが分かったわけですね。

 なので、それを逆探知する仕掛けか何かを仕込むために、首の後ろからひっぱってきた線を子供の首筋に繋げています。


 前回も話した通り、この『攻殻機動隊』の第1巻では、まだこういうシーンに “有線通信” というのを使っています。

 ここから先の『攻殻機動隊』の2巻とかになってくると、こういう表現を全く使わなくなってきますけど。

 この「首の後ろからラインを引っ張ってきて繋ぐ」というのが、一番安全な回路という記号になっているので、ここに繋ぐわけですね。

 草薙素子が「トグサ、緊急脱出!」と言ったのは、「この作業を担当してヘマをしたトグサが一番危ない」からですね。

・・・

 次のページに行きます。

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――――――

 草薙素子:何してる、敵の攻性防壁にやられるぞ!

 オペレーター:ロ、“固定” (ロック)されてますう! ……きゃッ!

――――――

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 ということで、この女の子は目を開いたまま倒れます。
 
 これは「死んだ」という表現ですね。

――――――

 草薙素子:行くぞバトー。そいつはただのスピーカーだ。公安部が修理するさ。

 バトー:新しい “模擬人格” (プログラム)を注入してか? ゴーストがない “お人形” (ロボット)は悲しいね。

――――――

 わかりにくい表現なんですけど、これは「今までずっと普通に会話してたこの女の子は、人工知能のロボット」だったというわけですね。

 なので、「死んだんじゃなくて、壊れただけだ」と。

 だから、草薙素子は「こいつはただのスピーカー、機械に過ぎない。公安部が修理する。感情を動かすな」と、バトーに言っているんです。

 この「攻性防壁」というのは、これ以降もこの漫画の中に何度も出てくるんですけど、これはそれが初めて使われたシーンです。


 僕ら読者側も、この時点までは「攻性防壁」というのが何のことか全然わからないんですよ。

 「攻性」は「攻撃性」、「防壁」というのは「護る壁」ということで、言葉としても矛盾しているんですよ。

 護る壁なのに、なんで攻撃性なのか?

 それが、ここで初めてわかるんです。

 「ネットワークに侵入して情報を探っている側まで遡ってきて、侵入者を殺してしまうようなものだ」と。

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 たとえば、ここにスマホみたいなものがある思ってください。

 このスマホにはカメラがついています。


 よくあるハッキングのイメージでは、ハッカーである僕が、自分の部屋でパソコンをカチャカチャといじって、ハッキング成功。

 このスマホの中に侵入して、そのカメラを通して、盗撮する、と。

 こういうハッキングのイメージって、よく出てきますよね?

 『攻殻機動隊』でのハッキングというのも、こういうイメージで出来ています。


 ただ、侵入されたスマホを使っている側も、上手く操作をすれば、逆に、侵入している僕のパソコンをフリーズさせたり、逆に操作して、僕のパソコンの側のカメラから僕を見張ったりできる。

 そういうのが、『攻殻機動隊』で描かれる “相互にハッキングできる世界” なんです。


 『攻殻機動隊』というのは、こういうのを、もう当たり前のこととして描いてしまっているので、すごく複雑なんです。

 最初に言いました通り、30年後くらいの未来予想なので、まあ、かなり難しいは難しいんですよ。

 この漫画が発表された当時は、まだスマホなんて概念すらなかったんですから。


 「この作品の世界では、そういうものが脳の中でリンクされていて、そんな中で相互にハッキングしたり、されたりしている」という、何か1つの新しい技術を見せるだけでなく、それが当たり前になった場合、その上にどんな技術が積み重なっていくのかというのを予想している、なかなかすごいシーンです。

 なので、この「攻性防壁にやられる」という状況を、絵として見せているこのページのことくらいは覚えておいてください。

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