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「【『平成狸合戦ぽんぽこ』解説 1 】 『ぽんぽこ』は『ブレードランナー』と同じ話」
じゃあ、『平成狸合戦ぽんぽこ』その1。
先週、「なぜ、宮崎駿は泣いたのか?」という話をしたよね?
同じテーマを表と裏から見たら、表が『ブレードランナー』なんだよ。
どっちも同じく「人間になりたくて、人間から拒否されて、やがてテロに走るか、あるいは人間の中に紛れて暮らすことを選んだ、人間じゃないものの話」なんだ。
このプロットを、眉毛つり上げて、しかめっ面で語ると『ブレードランナー』になるんだよ。
で、これを頬を緩めて馬鹿話として語ると『平成狸合戦ぽんぽこ』になるんだ。
同じような話なんだよ。
優しい青年セバスチャンに助けられたプリスは、セバスチャンを利用することにまるで躊躇がない。
なぜかというと、レプリカントには感情移入能力がないからだよね。
だから、彼らは他人を「かわいそう」とは思わない。
けれども、同じレプリカントであるレイチェルは「自分はレプリカントなのではないか?」と疑って、不安になってデッカードを頼ってくる。
その時、自分を助けるためにデッカードが怪我をしたので、レイチェルはデッカードを抱きしめてしまう。
「あれ? 感情移入能力があるじゃないか」と、デッカードは次第にレプリカントと人間の違いがわからなくなってくる。
しかし、ブレードランナーであるデッカードは、レプリカントを見つけて殺さなきゃいけない。
これが『ブレードランナー』のストーリーだよね?
呼びかけられたことによって「ぽんぽこタヌキ」になってしまった疑似サピエンスとしての存在は「人間になれない人間」としての悲しい運命を辿っていくという、レプリカントの物語なんだ。
しかし、この正吉の友達の、身体のデカいオッサンみたいな顔をした “権太” という狸は、「俺達の住処を奪った人間を殺す!」と言って過激な行動を取る。
幼馴染の “ぽん吉” というのは「人間と関係ないところで狸のまま暮らしたい」と思っている。
このぽん吉の気持ちを、正吉は「ずっと分からなかった」と後で言うことになるんだけど。
そこに降って湧いたのが、多摩ニュータウンの開発。
正吉は人間研究という言い訳の元に、大好きな人間を勉強して人間になろうとする。
なので、正吉は春になって狸の発情期がやってきても、メス狸の恋人の “キヨ” に「僕たちはいつまでも清らかな関係でいよう!」とか言い出すんだよ。
それくらい正吉っていうのは一生懸命、狸である自分を否定して、人間になろうとするんだけども、いくら正吉が人間になりたくても、人間は多摩ニュータウンが大事だから、狸たちはゆっくり絶滅に向かっていく。
しかし、『ブレードランナー』のレプリカントの反乱と同じく、狸の反乱も全く社会を動かさないんだよ。
結局、デッカードと同じく、正吉も恋人のキヨと逃げて、隠れて社会の中で暮らすことを選んだ。
こういうふうに、『ブレードランナー』と『狸合戦ぽんぽこ』って、実はかなり同じ話なんだけど。
やっぱり、違いは何かというと「高畑演出では、出来るだけ話が深刻にならないように描いている」ということなんだ。
1つ目の話のテーマは「なんで宮崎駿が泣いたか?」なんだけど。
もちろん、宮崎駿は自分の青春時代の労働運動とか社会運動の行く末が残酷なまでに狸の中に描かれているから感動したのかもわからない。
でも、実は「一途ないじらしいほどの思いをまるでわかってあげないドSに対して、いつまでも思い続けるドMの純情」というのが、もう宮崎さんの一番の泣きポイントなんだよね。
それは、高畑勲に認められたくて、でも相手にしてもらえない宮崎駿自身とやっぱり重なってくるからなんだよ。
しかし、高畑勲はそんな宮崎駿の思いを知ってか知らずか、この『平成狸合戦ぽんぽこ』を、どんどん宮崎駿を傷つけるような作品にしてしまうんだ。
宮崎駿はこれが得意だよね。
本当は存在しない飛行機械とかさ、本当は存在しないような谷底とか、そういうのをものすごく上手く描くじゃん?
でも、高畑勲はそれを真っ向から否定する。
「嘘の世界を信じさせるファンタジーというのは、確かに、ちょっぴりだったら子供に与えたり、大人もそれを信じて気楽になるんだったらいいけど、こんなに世の中に溢れていたら逆に害毒ですよ」というふうに、高畑勲は『ぽんぽこ』の前くらいからずーっと言ってるんだよね。
たとえば、かつての夢のない世界、貧しい世界、戦後の世界とかだったら、アニメーションというのは子供に夢を与える役に立つ、いいものである。
しかし、今や街の中にファンタジーが溢れている。
親は子供にサンタクロースを信じさせようとするし、ディズニーランドの宣伝は「いつまでも夢を忘れずに信じよう」と言っている。
でも、もう、甘い物中毒になっちゃってるみんなは、「甘い物、甘い物! ファンタジー、ファンタジー!」って求めてしまう。
何より、宮崎アニメこそ、すごい技術・才能によって、見てる人がその存在を信じてしまうという、超一流のファンタジー。
それに対して、高畑勲はこの『ぽんぽこ』で「NO!」と言ったわけだ。
狸にとっては「この妖怪大作戦をすることで、人間たちが多摩ニュータウンを作るのを止めるはずだ」と期待してたんだけども、そうじゃなくて、ただ単に人間に「面白いね」と言われるだけだった、と。
そして、高畑さんの「自分の映画のキャラである “タエ子” は、この百鬼夜行の中でも時代に沿ってちゃんと進んでいるのに、宮崎キャラだけは時代に逆行するかのように反対方向に進んでいる」という描き方。
これは「俺のキャラは少なくともファンタジーだけでなく、現実というのを踏まえているから前へ進んでいるけれど、お前のキャラは結局、全部 後ろ向きだ!」という言い方なわけだよね。
いかがでしたか?
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/04/16
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今回は、ニコ生ゼミ04月07日(#276)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【『平成狸合戦ぽんぽこ』解説 1 】 『ぽんぽこ』は『ブレードランナー』と同じ話」
じゃあ、『平成狸合戦ぽんぽこ』その1。
先週、「なぜ、宮崎駿は泣いたのか?」という話をしたよね?
『平成狸合戦ぽんぽこ』というのは、僕が思うに、お話としては『ブレードランナー』なんだよ。
今日はね、これだけね覚えてくれたらもう大丈夫。
今日はね、これだけね覚えてくれたらもう大丈夫。
同じテーマを表と裏から見たら、表が『ブレードランナー』なんだよ。
どっちも同じく「人間になりたくて、人間から拒否されて、やがてテロに走るか、あるいは人間の中に紛れて暮らすことを選んだ、人間じゃないものの話」なんだ。
このプロットを、眉毛つり上げて、しかめっ面で語ると『ブレードランナー』になるんだよ。
で、これを頬を緩めて馬鹿話として語ると『平成狸合戦ぽんぽこ』になるんだ。
同じような話なんだよ。
人間そっくりに作られたレプリカントは奴隷として酷使されていた。
しかし、人間とレプリカントの本当の違いとは何か?
しかし、人間とレプリカントの本当の違いとは何か?
優しい青年セバスチャンに助けられたプリスは、セバスチャンを利用することにまるで躊躇がない。
なぜかというと、レプリカントには感情移入能力がないからだよね。
だから、彼らは他人を「かわいそう」とは思わない。
けれども、同じレプリカントであるレイチェルは「自分はレプリカントなのではないか?」と疑って、不安になってデッカードを頼ってくる。
その時、自分を助けるためにデッカードが怪我をしたので、レイチェルはデッカードを抱きしめてしまう。
「あれ? 感情移入能力があるじゃないか」と、デッカードは次第にレプリカントと人間の違いがわからなくなってくる。
しかし、ブレードランナーであるデッカードは、レプリカントを見つけて殺さなきゃいけない。
これが『ブレードランナー』のストーリーだよね?
対して、『平成狸合戦ぽんぽこ』というのは、どんな話かというと。
「狸さん狸さん遊ぼじゃないか」と呼びかけることによって、僕らは狸を無意識に人間扱いした。
その結果、単なる野生動物が、人間が好きで人間の文化に憧れてイタズラする「ぽんぽこタヌキ」という不思議な存在になってしまった。
その結果、単なる野生動物が、人間が好きで人間の文化に憧れてイタズラする「ぽんぽこタヌキ」という不思議な存在になってしまった。
呼びかけられたことによって「ぽんぽこタヌキ」になってしまった疑似サピエンスとしての存在は「人間になれない人間」としての悲しい運命を辿っていくという、レプリカントの物語なんだ。
今、『平成狸合戦ぽんぽこ』というのは『ブレードランナー』と似ているっていう話をしているんだけど。
『平成狸合戦ぽんぽこ』の主人公は “正吉” という狸なんだ。
この正吉は子供の頃から人間の生活に憧れてきた狸であって、夜中に1人でブランコに乗ったり、人間のひな祭りを見てて羨ましそうにしてたりして、とにかく人間になりたくて仕方がない。
この正吉は子供の頃から人間の生活に憧れてきた狸であって、夜中に1人でブランコに乗ったり、人間のひな祭りを見てて羨ましそうにしてたりして、とにかく人間になりたくて仕方がない。
しかし、この正吉の友達の、身体のデカいオッサンみたいな顔をした “権太” という狸は、「俺達の住処を奪った人間を殺す!」と言って過激な行動を取る。
幼馴染の “ぽん吉” というのは「人間と関係ないところで狸のまま暮らしたい」と思っている。
このぽん吉の気持ちを、正吉は「ずっと分からなかった」と後で言うことになるんだけど。
そこに降って湧いたのが、多摩ニュータウンの開発。
正吉は人間研究という言い訳の元に、大好きな人間を勉強して人間になろうとする。
なので、正吉は春になって狸の発情期がやってきても、メス狸の恋人の “キヨ” に「僕たちはいつまでも清らかな関係でいよう!」とか言い出すんだよ。
この辺りは、近代主義というか、キリスト教主義なんだよね。
人間観、理性で振る舞うことが人間らしいということで、狸的な本能を押さえて、より人間的に理性的に振る舞おうとしてしまうんだよね。
人間観、理性で振る舞うことが人間らしいということで、狸的な本能を押さえて、より人間的に理性的に振る舞おうとしてしまうんだよね。
それくらい正吉っていうのは一生懸命、狸である自分を否定して、人間になろうとするんだけども、いくら正吉が人間になりたくても、人間は多摩ニュータウンが大事だから、狸たちはゆっくり絶滅に向かっていく。
その後、狸は化ける力を使って人間を怖がらせようとして、ついに過激派の権太達は工事現場で人間を3人くらい殺すんだよね。
何人かに重症を負わせて。
何人かに重症を負わせて。
しかし、『ブレードランナー』のレプリカントの反乱と同じく、狸の反乱も全く社会を動かさないんだよ。
結局、デッカードと同じく、正吉も恋人のキヨと逃げて、隠れて社会の中で暮らすことを選んだ。
こういうふうに、『ブレードランナー』と『狸合戦ぽんぽこ』って、実はかなり同じ話なんだけど。
やっぱり、違いは何かというと「高畑演出では、出来るだけ話が深刻にならないように描いている」ということなんだ。
・・・
こういった狸たちの「人間になりたい!」という憧れを見ても、人間たちは「あっ! 狸だ! かわいい! 餌をあげたい!」と、そんなことしか思わない。
そんな人間達と狸達のすれ違いが切なくて、この辺りが宮崎駿が試写会で泣いた1つのポイントだと思うんだけど。
1つ目の話のテーマは「なんで宮崎駿が泣いたか?」なんだけど。
もちろん、宮崎駿は自分の青春時代の労働運動とか社会運動の行く末が残酷なまでに狸の中に描かれているから感動したのかもわからない。
でも、実は「一途ないじらしいほどの思いをまるでわかってあげないドSに対して、いつまでも思い続けるドMの純情」というのが、もう宮崎さんの一番の泣きポイントなんだよね。
それは、高畑勲に認められたくて、でも相手にしてもらえない宮崎駿自身とやっぱり重なってくるからなんだよ。
しかし、高畑勲はそんな宮崎駿の思いを知ってか知らずか、この『平成狸合戦ぽんぽこ』を、どんどん宮崎駿を傷つけるような作品にしてしまうんだ。
たとえば、高畑勲は『ぽんぽこ』を “アンチ・ファンタジー” として作ってる。
ファンタジーというのは、この世界の中ではあり得ないような冒険とか、魔法とか、ドラゴンとか、本当はないものをまるで存在しているかのように描くわけだ。
宮崎駿はこれが得意だよね。
本当は存在しない飛行機械とかさ、本当は存在しないような谷底とか、そういうのをものすごく上手く描くじゃん?
でも、高畑勲はそれを真っ向から否定する。
「嘘の世界を信じさせるファンタジーというのは、確かに、ちょっぴりだったら子供に与えたり、大人もそれを信じて気楽になるんだったらいいけど、こんなに世の中に溢れていたら逆に害毒ですよ」というふうに、高畑勲は『ぽんぽこ』の前くらいからずーっと言ってるんだよね。
たとえば、かつての夢のない世界、貧しい世界、戦後の世界とかだったら、アニメーションというのは子供に夢を与える役に立つ、いいものである。
しかし、今や街の中にファンタジーが溢れている。
親は子供にサンタクロースを信じさせようとするし、ディズニーランドの宣伝は「いつまでも夢を忘れずに信じよう」と言っている。
「そんなこの世の中に過剰にあり過ぎるファンタジーを、これ以上、自分たちが作ってどうするんだ?」と。
「世の中のみんな痩せててひもじかった頃には、砂糖や甘い物がよかったかもわからないけども、今さら砂糖をドカドカ入れたものをこんなに作ってどうするんだ?」と。
「世の中のみんな痩せててひもじかった頃には、砂糖や甘い物がよかったかもわからないけども、今さら砂糖をドカドカ入れたものをこんなに作ってどうするんだ?」と。
でも、もう、甘い物中毒になっちゃってるみんなは、「甘い物、甘い物! ファンタジー、ファンタジー!」って求めてしまう。
何より、宮崎アニメこそ、すごい技術・才能によって、見てる人がその存在を信じてしまうという、超一流のファンタジー。
それに対して、高畑勲はこの『ぽんぽこ』で「NO!」と言ったわけだ。
・・・
「もう、こんなものは溢れすぎていて害毒だ!」と言ったくらいだから、『ぽんぽこ』の中にも、宮崎駿に対する本当にかなりアンチの感じが入っているんだ。
たとえば、『ぽんぽこ』の山場として出てくる “妖怪大作戦” というシーンで、狸がいろんな妖怪を生み出すんだけど、その中にジブリのキャラも混じっている。
しかし、この妖怪大作戦というのは、結局、社会を変えることが出来ない。
人間たちに「面白かったね」と言われるだけなんだ。
人間たちに「面白かったね」と言われるだけなんだ。
狸にとっては「この妖怪大作戦をすることで、人間たちが多摩ニュータウンを作るのを止めるはずだ」と期待してたんだけども、そうじゃなくて、ただ単に人間に「面白いね」と言われるだけだった、と。
これは「社会を変えよう!」を合言葉にアニメを作ってきた宮崎駿、高畑勲自身や、東映動画と、その血をまともに受け継いでいるスタジオ・ジブリの全否定なんだよね。
たとえば、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』を通じて、「子供達はもっと野山の中で遊んでくれ!」と言っても、『天空の城ラピュタ』で言ってるように「大地と一緒に暮らしてくれ!」と言っても、子供達はワーッて喜んで映画館に殺到する。
親はDVDを買って、毎日毎日それを子供に見せる。
「宮崎さん、ありがとうございます。うちの子は『ラピュタ』をテレビで見せていると、いつも大人しくていい子になるんですよ」って、こんなことが起きてしまう。
「宮崎さん、ありがとうございます。うちの子は『ラピュタ』をテレビで見せていると、いつも大人しくていい子になるんですよ」って、こんなことが起きてしまう。
そして、高畑さんの「自分の映画のキャラである “タエ子” は、この百鬼夜行の中でも時代に沿ってちゃんと進んでいるのに、宮崎キャラだけは時代に逆行するかのように反対方向に進んでいる」という描き方。
これは「俺のキャラは少なくともファンタジーだけでなく、現実というのを踏まえているから前へ進んでいるけれど、お前のキャラは結局、全部 後ろ向きだ!」という言い方なわけだよね。
そんな「今の子供達に素晴らしいファンタジーを提供するというのは、害になるだけ」という、高畑の強烈なメッセージが、このジブリキャラ登場シーンに表れている。
でなかったら、こんなものを高畑勲が自分の映画の中に出すはずがないんだよね。
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