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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/01/24
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今回は、ニコ生ゼミ01月13日(#264)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【なぜ高畑勲は『ナウシカ』を30点と評したのか? 1 】 生活描写を犠牲にしてアクションを描いている

 
 『風の谷のナウシカ』に関して、高畑勲はどう評価したのか?

 これについては今まで何度も話をしましたが、『ナウシカ』が映画館で公開された時に発売された『「風の谷のナウシカ」ロマンアルバム』という書籍の中で、高畑勲はこの作品に対して30点という落第点を付けました。

 かなり酷いですね(笑)。

――――――

 プロデューサーとしては万々歳なんです。ただ、宮さんの友人としての僕自身の評価は30点なんです。

 宮さんの実力からいえば30点。もちろん原作を映画にするという点では、まったく申し分なかったんですが、この映画化をきっかけに宮さんが新しい地点にすすむだろうという期待感からすれば、30点ということなんです。

――――――

 こんなふうに語っています。

 僕が思うに、高畑さんが許せなかったポイントは、「風の谷が描かれていない」ということと、「神の救いがテーマになっている」ということだと思うんですよね。

 これ、なぜかというと、文藝春秋から出てる『ジブリの教科書』の第1巻、『風の谷のナウシカ』の151ページに、もう少し理由が書いてあるんですけど。

 そこで、高畑さんは「現代を照らし返していない」と書いているんですね。


 どういうことかというと「現代の文明社会との関係がわからない」ということなんです。

 「風の谷って、農業で成立しているのかといえば、そうでもないように見える。これでは “世界の終わりのその先” を生きる人間たちが、いったいどのように生きて行くべきなのかという問いに答えていない。逃げている」と言ってるんですよ。

・・・

 前回も話した通り、『風の谷のナウシカ』のラストで、主人公であるナウシカは、腐海の底に清らかな世界が再生しつつあるということを知りながら、その世界への移住を拒否しているわけですね。

 つまり、「人が早くに病気で死んでしまうこの風の谷こそ、我々が守るべき共同体、世界である」と言っているわけです。


 だけど、彼女がそう結論付けるに至った “風の谷の価値” というのが、本編中では描けていない。

 「なぜ、そこまでして寿命が短い風の谷で生きるべきなのか? なんで新しい腐海の底に行かないのか?」の答えとなるはずの風の谷の生活が描けていない。

 これはなぜか?

 ハッキリ言うと「アクションをやり過ぎたからだ」と。


 高畑勲にしてみれば「 “巨神兵の戦い” なんていうのは、やってもいいけど、別にやらなくてもいいだろう? それよりは、村の生活を描くべきだ」ということなんですよ。

 たとえば、村の人達は台所でどんなふうに料理して、どんなふうに飯を食っているのか?

 どんなふうに寝ているのか?

 子供たちの部屋はどうなっているのか?

 そういうことが全く描けていない。

 「それは宮崎駿の映画としてアリなの?」と言っているわけです。


 確かに、言われてみたらそうなんですよ。『ナウシカ』って、風の谷の生活をなんにも描いてないんです(笑)。

 それに対して、「アクションを入れるくらいなら、村の日常を描くことに尺を使うべきだ!」というのが高畑勲の批判なんですよ。


 でも、そうでしょ?

 僕らはなんとなく、風の谷の日常が描かれていたように思ってるんですけど、『ナウシカ』って、そういうことを全く描いてないんですよ。

 これは、その他の宮崎アニメと比べるとわかりやすいです。宮崎アニメにはいつもある “飯を食うシーン” というのが、あのマズい “チコの実” を食べるところしかないことからもわかる通り、全く描けてないんですよね。

・・・

 しかし、風の谷の日常をゆっくり描くというのは、『カリオストロの城』でのトラウマがある宮崎駿には出来なかったんです。

 思い出してください。

 『風の谷のナウシカ』というのは、宮崎駿が、東宝のアニメ映画の歴史に残るくらいスベった『カリオストロの城』という映画の後に作られた作品だということを。


 この興行的な失敗によって、宮崎駿は「全く、アニメ映画でこんなに客が入らないのは初めてだ!」と東宝の重役から散々言われて、その後、何年間もアニメ業界から干されることになりました。

 つまり、宮崎駿としては、『カリオストロ』の次の映画で、そんな怖いことなんて出来ないわけですよ。

 「言いたくないんだけど、日常をゆっくり描いたら『ホルス』と同じになってしまう」と(笑)。


 かつて、宮崎駿が高畑さんと一緒に作った『太陽の王子ホルス』というアニメ映画では、あまりにもたっぷり日常描写を描いたあまり、東映漫画映画史上、最悪の興行成績になったんですけども。

 あれと同じになってしまう。

 「日常というのを描こうとしたら、いくらでも時間が掛かるし、映画の尺も3時間を越えてしまう!」と。その通り、一度、日常描写を盛り込んでコンテを描いたら、本当に3時間近くなっちゃったんですね。

・・・

 『手塚治虫文化賞20周年記念ムック漫画のDNA、漫画の神様の意思を継ぐ者たち』という本の中に、鈴木敏夫のこんな証言があります。

――――――

 宮さんって、実はしめきりをすごくきちんと守る人なんですよ。

 『ナウシカ』を連載していた時も、遅れたことは一度もない。

 それは高畑さんの影響なんです。

――――――

 「宮崎駿は高畑さんの影響で締め切りを守る人になった」と。

 でも、これは「高畑さんが締め切りを守っていたから、それを見習った」という意味では全然ないんですよ。

――――――

 僕が出会う前、若い時に二人は組んで『太陽の王子ホルスの大冒険』っていうアニメーションを作ったんですけど、高畑さんは1年で完成させる予定を3年まで延ばした(笑)。

 会社と大喧嘩して、出来ないんなら制作中断だ、って言われた時に、宮さんは泣いちゃったそうなんです。

――――――

 「1年の約束だったはずなのに、3年も掛けて完成しないんだったら、もうこの映画は作らない! 制作中断する!」と言われた時に、宮崎駿は「俺達は確かに頑張って会社と戦ったけども、制作を中断させるために戦ったわけじゃない! 俺たちは何のためにここまでやってきたんだ!?」と思って、マジで泣いてしまったそうなんですね。

 ところが、そのワンワン泣いている宮崎駿を不思議そうに見ていた高畑勲は、こう言ったそうです。

――――――

 でも、高畑さんは『ここまで作ったんだから、絶対また再開するよ』って平気な顔で。

 宮さんは『この人は一体なんなんだ』って思ったそうです。

 その時にね、もし自分にしめきりのある仕事が来たら、絶対に守ろうって決めたらしいんですよ。

――――――

 そんな、クオリティを追求するために多くの人に迷惑をかけ続ける高畑勲の姿を見て、宮崎駿はその時ハッキリ「怖かった」と言ってます。

 「信じられないにも程がある。こんなことは俺にはできない。この人は、もう、人間じゃない。怖い」と。

――――――

 だから宮さんは今でも、このままでは間に合わないとわかると、締め切りを守るために、壮大なシーンを削ってしまう。

 後に『エヴァンゲリオン』を作り、『シン・ゴジラ』を作った庵野秀明がスタッフのひとりとして『ナウシカ』に参加していたんですが、彼はいまだに『自分があのシーン(巨神兵と王蟲が肉体戦を繰り広げるシーン)を描きたかった』と口惜しそうに当時を振り返ります。

――――――

 こんなふうに、鈴木敏夫は語っています。

・・・

 この、宮崎駿の「スケジュールのためには泣く泣く短くするし、必要なシーンも削る」という、こういう気持ちは合理的な判断じゃないですか。

 だけど、こういったことを泣く泣く行う気持ちというのが、高畑勲には一切、理解出来ないんですよ。

 だから、『かぐや姫の物語』の制作にも、平気で8年も懸けてしまえるし、それで制作中断と言われたら、元が怠け者だから「制作中断、うーん、それは仕方がないな」と思えてしまうんですね。

 なので、高畑勲にとっての『風の谷のナウシカ』というのは、「スケジュールを守る、あとは観客の興味を惹くなどというために、アクションシーンは入れたんだけど、その代りに日常生活は削ってしまった。そういった “不必要な妥協” で作品の質を落とした」と。

 だから、30点なんですよ。


 ちなみに、ロマンアルバムに掲載された高畑勲のこの感想を目にした時、宮崎駿はその本をビリッと引きちぎるくらい激怒したんですけど。

 しかし、たまりかねて鈴木敏夫に八つ当たりしに行った時、逆に「あなたはそんなの百も承知で『ナウシカ』を作ったんでしょ? そして、高畑勲から30点と言われるような妥協をしたおかげで、高畑勲が作った『ホルス』と違って、大ヒットしたじゃないですか! あなただって客が入って嬉しかったでしょ!?」と言い返されて、その瞬間に、またワンワン泣いちゃったんですね。


 「妥協の果てに得た栄光に、あなた自身も喜んでたじゃないか!」と、後ろからグサッと突かれて、「あんたがそんなことを言うのか!」と泣いてしまったんです。

 この辺の宮崎駿のエピソードが、僕は大好きなんですけど(笑)。


 でも、高畑さんからダメ出しされたもう1つのポイントというのは、もっと深刻だったんですよ。

 今のはスケジュール的な問題であり、いわゆるプロデューサー的な問題なんですけど。もう1つのポイントは “内面的な問題” だったんですよね。

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