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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/01/23
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今回は、ニコ生ゼミ01月13日(#264)から、ハイライトをお届けいたします。

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 クシャナとナウシカ2人の物語である『風の谷のナウシカ』


 じゃあ、『ナウシカ』のオープニングの始まり辺りから、ちょっと話をしたいんですけども。

 そうなんですよ。今日は無料放送のうちに、『ナウシカ』のオープニングの話と、なぜ高畑さんが「ダメだ」と言ったのかという話と、『耳をすませば』の話の前半部分をやらなきゃいけないので。


 ということで、前回、説明した “アバンタイトル” の続きです。

 アバンタイトルというのは、アニメのオープニングタイトルの前の部分で展開される、ちょっとしたドラマ部分のことを言うんですけども。


 ユパが「また村が1つ腐海に沈んだ」と呟いたあと、「この世界の歴史はこういうふうになってますよ」という文言が表示されます。

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 この後、オープニングが始まるわけですね。

・・・

 このオープニングっていうのは、「タララン、タンタン、タタタタン~♫」という音楽に合わせて、「そこまで何があったのか?」という、この世界が腐海に飲まれるまでの歴史を、タペストリーの形で見せてくれます。

 そのタペストリーというのが、有名なこれですね。

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 これは、布の上に描かれた水彩画です。

 実はこれ、アニメ本編が完成した後で作られたんですね。

 宮崎さんが、自分の全ての作業が終わってから、水彩絵の具で描いていたそうです。


 『ナウシカ』のDVDのオーディオコメンタリーに、庵野秀明さんと片山さんとの対談が載っているんですけど、その中で庵野くんが「これ、宮崎さんが自分で描いたの?」と聞いています。

 庵野くんは、自分の作業の分が終わったら、途中で大阪に戻ってしまったので知らなかったんですね。

 すると片山さんが、「自分の作業が全部終わってから、俺らが撮出しとかでヒイヒイ言ってる時に、一人一番楽しそうに、鼻歌を歌いながら描いてたよ」と言うんです。

 ……まあ、そこまで憎々しげに言わなくてもと思うんですけど(笑)。


 さて、この『風の谷のナウシカ』のオープニング。

 実はこれ、今言った通り「作業が全て終わった後で描いたもの」なので、宮崎駿としては、アニメを全部作り終えた時点で振り返りながら描いているわけですね。

 ところが、絵コンテはそうではなくて、アニメを作る前に描いている。

 なので、完成品と絵コンテとの間には、微妙な差があるんです。

・・・

 これが、同じシーンの絵コンテです。

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 まあ、同じようにも見えますよね。

 ナウシカを象徴する風の谷の世界と、トルメキアを象徴する曲がりくねった2つ頭の蛇がそれぞれ描かれているんですけど。

 でも、デザインがちょっと違います。


 何が違うかというと、完成版では、トルメキアを象徴する蛇の2本の頭が、両側から “一本の剣” に向かって舌を出している。

 もしくは、炎を吐いている。こういう印に変更されているんですね。

 あんまり大した違いじゃないように見えるんですけど、これね、全然違うんですよ。


 実は、宮崎さんは、コンテ描いた時点では、この通り「風の谷の印が上に、トルメキアの印が下に」という配置にするつもりだったんですけど、アニメを全部作り終わってタペストリーを描く段になった時に「このタペストリーの画面の、ナウシカとトルメキアの位置を逆転させたい」と言い出したんですね。

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 どういうことかというと、風の谷を象徴する青い部分には、わかりやすく女の人が描いてあるから「これはナウシカを表している」ということが伝わるんですよ。

 だけど、このトルメキアを象徴する赤い部分については、元の配置では逆さになっているので、クシャナ王女を表す “剣” というのが伝わりにくい。

 だから、上下の位置を入れ替えて、剣を見やすくすることで「この映画はクシャナとナウシカの2人の話だ」という意味合いを強く出したかったわけですね。

 ところが、鈴木敏夫に「今更それは。そもそも『風の谷のナウシカ』という話なんだから、ナウシカに焦点を当てましょうよ」と言われて、渋々、元に戻したということが書いてあるんですけど。

・・・

 そうなんですよ。宮崎駿としては、本当は逆さまににしたかったんです。

 というのも、この『ナウシカ』という映画を作っているうちに、「これはナウシカの話であると同時に、クシャナの話でもある」ということに気付いたからなんです。


 このクシャナとナウシカという2人のキャラクターについて、宮崎さんは、映画を作り終わった後でのインタビューに対して「同じ盾の表と裏」と言ってるんですね。

 つまり「1つの人格を2つに分けた存在だ」と。


 こういった「1人の人間の中での矛盾する気持ちというのを対立するキャラクターとして登場させて、本人の中での悩みというのをセリフとして外面化させる」という手法は、映画ではよく行われることなんですけども。

 「どうしたらいいんだろう?」「こうすればいいだろ!」「いや、でも、そんなことをしたら……」みたいな葛藤というものを映画として伝える場合、実際にセリフや演技にしないと伝わりにくいから、ある人間の内面における悩みというのを、それぞれ1人ずつキャラクターにして、それを戦わせることでドラマというのを作って行くんですね。


 こういうことを、オープニングの絵コンテを描いている段階では、宮崎駿も意識していなかった。

 ただ単に、紋章として描いていたんですけども。

 映画を作り終えて、最後にタペストリーを描く段になってきて、それをすごく意識するようになってきたというわけですね。


 これは、クシャナというキャラクターの存在感が、自分の中でどんどん大きくなってきたからです。

 「実は『ナウシカ』というのは、風の谷とトルメキアという立場は違えど、同じ悩みを持った2人の王女の話なんだ」と。

 ここら辺については、まあ、後半で話をしようと思います。

・・・

 この話からもわかる通り、「作者は何を思って作ったのか?」ってよく言われるんですけど、それを考えてもあんまり意味がない場合もあるんです。

 なぜかというと、宮崎駿自身も「何のためにこの映画を作るのか?」とか、「この映画で何を言いたいのか?」と聞かれた時に、「そんなことがわかったら苦労はないですよ!」って、よく言ってるんですね。


 もう本当に、絵コンテの段階では、まだまだ手探りなんですね。

 最後、映画を全部作り終わって、タペストリーを描く段になってから、ようやっと「そうか! 俺はナウシカとクシャナの話を作りたかったんだ!」と分かるから、「このタペストリーを逆転させよう!」と言い出すことになるわけなんですけど。

 この通り、作り手自身も、作っている最中になんとなく掴むというのが、映画のテーマであるという部分もあります。

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