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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「“不条理” の化身としての初代ゴジラ」

2018/12/21 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/12/21
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今回は、ニコ生ゼミ12月9日(#260)から、ハイライトをお届けいたします。

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 “不条理” の化身としての初代ゴジラ

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 ゴジラというのは、口から “白熱光” というのをバーっと吐くんですけど。

 後のシリーズになると、それもアニメーションになって、青白く光るものを吐くと「あれは、ゴジラの放射能火炎だ!」とか言われるようになるんですけど、第1作の『ゴジラ』の時には、そんな名前も何もついてないんですよ。


 ゴジラが口を開けるシーンの撮影のためには “ギニョール” っていう、小さいぬいぐるみみたいなものを作っているんです。

 大きい着ぐるみでも、もちろん口を開けることは出来るんですけど、ゴジラの着ぐるみ自体はゴムで出来ていて、かなりカチカチの材質だったんですよ。

 そんな着ぐるみでは全く動けないから、しょうがないからナイフでゴムの着ぐるみのそこら中に切れ目を入れて、なんとか動けるようにしていたほどです。

 なので、口に関しても、そう簡単にパクパク開かないわけですね。

 なので、ギニョールと呼ばれる、下から手を入れるマペットみたいなものを作って口を開いて、その口の中からスプレーをシャーッと噴射して、そのスプレーに斜め横からライトを当てることによって、まるで白い息というか、何かを放射しているように見せているんです。
 
 そして、その放射しているものが当たると、次は特注で作った鉛製の鉄塔のミニチュアがグニャリと曲がる。これは、高温の風を当てることで表現しています。


 これらは全て、後のゴジラシリーズで生まれるお約束の「放射能火炎のシーン! 背中が光ります! 口からパーッと出します! すると、景気のいい爆発がドンドンと起こります! ゴジラ、強いぞー!」というシーンとしてではなく、「海から上がってきた怨念のようなものが、口から何かを吐き出すことによって、周りのものを溶かしてしまうエゲツなさ」というのを描こうとしているんです。


 そもそも「なんで口から何かを吐いたら、鉄が溶けるのか?」という説明も一切なしにやってるんですよ。

 つまり、「強い」という表現じゃないんですよ。

 この時のゴジラというのは「敵わない」とか「不条理」というものの塊なわけですね。

・・・

 お話に関しても一切の説明がないんですよ。

 これは実は『シン・ゴジラ』も同じなんですけど。


 「なぜ、ゴジラが東京を襲うのか?」、「なんで毎晩、夜になったら上陸してきて、東京をひとあたり破壊すると、朝になる前に理由もなく海に帰って行くのか?」について、全く答えが出されない。

 怖いでしょ、これ?(笑)


 ゴジラというのは、アメリカによって行われた太平洋での水爆実験で生まれたんですよ。

 水爆実験の結果、身体中がケロイド状になっているんです。


 もともとは水性爬虫類、水中で生まれて、水中で生きて行くものですから、もっとヌルっとした姿だったはずなのに、水爆実験のせいで、身体中にコブのような鱗のようなものが出来てしまった。

 でも、そんなに水爆実験を恨んでいるんだったら、アメリカを襲えばいいはずなんですよ。

 しかし、東京を襲ってくるんです。


 そんな存在が、夜になると現れて、東京の街を破壊するだけ破壊して、何も言わず帰っていく。

 その原因に関して、この映画の中では何も教えてくれないんですね。

 だから、みんな、そういった不条理を耐え忍ぶことになるんですよ。

 「これも我々が受ける罰なのだ」というように。

 ここらへんの、説明されない怖さというのがジワジワくる映画なんですよ。

・・・

 『もののけ姫』の話にちょっと戻っちゃうんですけど。

 だいぶ前に『もののけ姫』を見た時に、僕は「ああ、これは宮崎駿が作った『ゴジラ』なんだ」と話しましたけど、そう考えると、ちょっと納得が行くと思うんですよ。

 『ゴジラ』というのは、基本的に『もののけ姫』の冒頭に出てくるものと同じ “タタリ神” なんですね。

 だから、呪う相手というのは誰でもいいんです。


 別に、エボシ御前に撃たれてタタリ神になったからといって、イノシシの神はエボシ御前に復讐するわけではなく、そこから本州を東北の方へと怒りでもって駆け抜けて、その結果、アシタカたち蝦夷の暮らす村を襲いました。

 それと同じなんです。


 タタリ神というのは戦う対象ではないんですね。

 そうではなくて「その怒りをどうか鎮めてください」と、ただただお願いして、お祓いをして、帰って頂くものなんです。

 「もし、死んでしまったんだったら、その場所に塚を築いて、いついつまでもお祀りする」というような対象なんですね。


 この第1作の『ゴジラ』というのは、最後は結局 “オキシジェン・デストロイヤー” という、科学者が作った勾玉のような存在で、芦沢博士という生贄を捧げることによって、ようやっとお祓いすることが出来た、鎮めることが出来た、という お話なんです。

 「海に帰って頂くことが出来た」と。


 タタリ神だから、当然のことながら、人間が作ったミサイルや大砲というものが通用しない。

 そういうふうに出来ている。


 1954年の夏に公開されたというのも、ホラー映画というか、お盆のお化け映画のような流れで公開されているんです。

 まあ、ピッタリ夏に公開されたわけではないんですけどね。

・・・

 つまり『もののけ姫』というのが「かつて神であった存在が獣に転落する時代」というのを描いたのだとすると、『ゴジラ』というのは「みんなが忘れていた古代の神が復活して、自分たちを忘れていた人間に罰を与え、そして帰って行った」という話なんですね。

 だから、基本的に『ゴジラ』という映画に対して、当時の日本人が持っていた怖さというのは、ちょうど1970年代にウィリアム・フリードキンが『エクソシスト』という映画を発表した時に世界中に与えた衝撃に、かなり似てると思うんです。


 『エクソシスト』というのも、プロテスタントが中心のアメリカの中で、そういえば、カソリックの中には、こうした悪魔祓いというものがあった。

 私達はそれを忘れていたんだけど、そうやって封印していた部分には「お前らが信じている神には、こういった裏側があるんだぞ!」というふうにドンと突きつけられたような怖さがある。


 『ゴジラ』も同じなんですよ。

 戦争を忘れて、繁栄に向かっている日本。「もうすぐオリンピックがやってくる!」と言われていた日本に対して、「お前らの繁栄の影には、戦争によってこんなことがあっただろ!?」というふうに、急に昔のやったやましいことがバッと現れる。

 それも巨大な姿になって現れるから、人間に敵うはずがないじゃない。


 だから、お祓いして、海に帰って頂こう。

 こういう流れになっている映画だったんです。

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