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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/10/31
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今回は、ニコ生ゼミ10月21日(#253)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『もののけ姫』冒頭10分の完全攻略! 2 】 アシタカの受けた “呪い” の正体


 さて、タイトルが終わると、主人公のアシタカが登場します。

 娘たちから「村の外れで異変が起きている」と聞いたアシタカが見張り台に登ると、村の境界線である “土塁” という石垣を破壊して “タタリ神” が現れます。

 ここで描かれるタタリ神は、こんな感じなんです。

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 これは、上から見た構図なんですけども。このタタリ神というのは、足が何本も生えていて、地面の上をすごい勢いで這い回っています。

 こう見ると、案外、足が長いんですよね。


 この、巨大なイノシシに蛇とかミミズのような妖怪が纏わりついたような状態がタタリ神なんです。

 6本足のようにも8本足のようにも見えるのはなぜかというと、このタタリ神が “土蜘蛛” を表しているからなんですね。

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 土蜘蛛というのは何かというと、もともとは、天皇家に従わなかった豪族や土着の部族に対する蔑称なんですよ。

 「あいつらは土蜘蛛だ!」みたいな悪口を言っていたんですね。


 そんな、天皇家の下に服(まつろ)わなかった人たちは “日本を魔界にしようとする怪物” として、源頼光によって倒されたという伝説が残っています。

 つまり、宮崎駿としては「蝦夷族の王子アシタカが巨大な蜘蛛を退治した、という話が、伝聞を続ける内に歪んでしまい、権力者たちに利用され、源頼光の土蜘蛛退治になった」という世界を描いているんです。


 こういった解釈は、宮崎駿としては一流のジョークのつもりで描いているんですけど。

 残念ながら、このジョークも高級過ぎて、僕らには伝わらないわけですね(笑)。

・・・

 この『もののけ姫』を作った頃から、宮崎駿は “高畑勲っぽく” なっていくんですよ。

 つまり「誰にも分からなくてもいいから、とにかくやっちゃうよ?」と。


 それはなぜかというと、あまりにも分かりやすく作ってしまったら、自分の中から「何かを作りたい!」というエネルギーが無くなってしまうことが分かったからなんですね。

 なので、この頃から宮崎駿は、意地悪ということでもないんですけど「やりたいことは全部やるけど、その代わり、全部は説明しない」という作り方をするようになりました。


 それ以前は逆だったんですよ。

 『天空の城ラピュタ』の頃は、自分のやりたいことを我慢してでも、全てを分かりやすく描こうとしていたんです。

 だから、ドーラも「こいつを連れて行った方が便利かもしれないねぇ」なんて、自分が思っていることまで独り言で喋っちゃうんですね。


 こういった分かりやすい表現を多用する代わりに、アニメの中で描いて良いものと、描いてはいけないものとをハッキリ分けて作っていたんです。

 ところが、『もののけ姫』からは「描いていいものや描いて悪いものなんてない! 子供達には全部見せなきゃいけないんだ! この世の中にあるエグいものも、全部見せるんだ! ……ただし、誰にでもわかるようには描かない!」というスタンスになったんですね。


 なので、この土蜘蛛の描き方も、ちょっと分かりにくくなってます。

 こういった要素も、宮崎駿としては「土蜘蛛といえば、東北地方の蛮族のことでしょ?」とか、「平安絵巻の中に蛮族退治のメタファーとして利用されているんだから、みんなわかるでしょ?」みたいに、ウィンクするように見せているんですよね。

・・・

 さて、そんなタタリ神に襲われた女の子たちを助けるために、アシタカは弓でタタリ神を退治してしまいます。

 最初に目をバーンと射て、その後、眉間をドンと一発射て、殺してしまうんですね。

 その結果、タタリ神の呪いは、アシタカの右腕に蛇のように巻き付いて、真っ黒なあざを残す。

 そういう話が、冒頭3分くらいで、すごくスピーディに描かれます。


 その後、村の長老の “ヒイ様” と呼ばれるお婆さんが現場に駆けつけてきます。

 この「ヒイ様」というのは「お姫様」という意味ですね。


 そして、ヒイ様が、ミミズとか蛇みたいなヌルヌルしたものが抜けて、今や巨大なイノシシの形に戻った神様に「いずこよりいまし荒ぶる神とは存ぜぬも、かしこみかしこみまおす。 この地に塚を築き、あなたの御霊をお祀りします。 恨みを忘れ鎮まりたまえ」と言うんですね。

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 つまり「あなた死体の位置に、そのまま巨大な墳墓を作って、ずーっとあなたの魂にお祈りを捧げます。だから、これ以上は祟らないでください」と言うわけです。

 すると、死にかけた大イノシシの神様は、いきなり喋りだすんですよ。「穢らわしい人間どもめ。我が苦しみと憎しみを知るがよい」って。

 そして、そのままドロドロと消えてしまう。


 この時の、イノシシ神の声は、メチャクチャ良いんですよね。

 これは、普通のマイクの他に、この神様の声を担当した俳優さんの喉にマイクを貼り付けて、喉の震えも同時に録音して、声と喉の震えの音とをミキシングして作っているそうです。

 なので、その息遣いも込みで、ものすごく不気味な感じに「穢らわしい人間どもめ」という声になっています。


 イノシシの神様は、そう言うと、ドロドロと溶けてしまうんですけども。これもまた、いやな溶け方です。

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 溶ける時に、ニヤリと笑ってるような歯が見えるんです。

 ここら辺の表現も、宮崎さんは全好調ですね。


 宮崎さんは、Aパートから作画を開始しているので、序盤のAパートBパートの描写は、本当に「美しい」としか言いようがないんです。

 前半1時間は、本当にすごい作画です。


 イノシシの神様は、そのままは溶けて骨だけになり、最後の「呪ってやる!」という呪詛の言葉によって、アシタカは呪いをかけられたことになります。

・・・

 さて、その日の夜、村の社(やしろ)の中で、会合が開かれます。

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 この社の内部を見てもらうと分かるんですけど、部屋の壁の中央の部分に出っ張りがあります。

 これは何かというと “御神体” なんですね。

 この御神体に張り付くように、高床式の社が建てられているんです。


 この出っ張った岩の正面の位置に机があるのわかりますか?

 すごく低いテーブルがありますよね?

 このカットでは、アシタカの影になっていて、ちょっと見えにくいんですけど。


 つまり、普段、神様に仕えているヒイ様は、この岩に向かって座っているわけです。

 だから、この岩が御神体であることがわかります。


 このシーンの最後にアシタカが髷を切り落とすシーンがあるんですけど、そこでも、髷を切り落とした後、この机の上に置いて、一礼して去っていきますから、やっぱりこれが御神体だとわかるんですね。


 なぜ今、この御神体を説明しているのかというと「この村は岩を祀っている」=「巨石文明がまだ残っている場所である」ということだからです。

 実際に、日本でも、青森あたりで “ストーンヘンジ” のようなものが出土してます。

 なので、アシタカの村が、今で言えば東北のかなり奥の方にあるというのがわかります。

 そして、彼らは “大和朝廷に服(まつろ)わぬ人達” なんですね。


 日本人が巨大な岩を祀っていた時代というのは、仏教渡来の遥か前なんですよ。

 仏教のように、人間が作ったものであったり、人そのものであったり、修行した偉い人を祀っているのを拝むというのは、縄文的な世界から言うと邪道なんですね。

 「本当にすごいものは自然の中にあるものであって、人間程度のものを拝んでどうするんだ!?」とか、「人間が作った程度のものを有難がってどうするんだ!?」というのが、縄文人の世界観なんです。

 で、ありがなら、ものすごいカッコいい形の土器とかを作るという。

 縄文人って、ちょっと独特のメンタリティを持っていたんですけど。

 なので、彼らは巨石を神体として拝んでいるんです。


 そして、部屋の奥にも、縄文土器が見えます。

 この巨石文化という以前に、ここに縄文土器があることからもわかる通り、彼らは “縄文人の生き残り” なんですね。

 ちょうど『もののけ姫』が作られていた1980年代から90年代に掛けて「アイヌであったり、もしくは東北の方に住んでいた蝦夷という一族達は、縄文人の生き残りではないか?」という説が、日本の考古学界では騒がれていたそうなんです。

 これについては、僕もよく分からないんですが、現在では主流の説ではなくなっているそうなんですけども。

 宮崎さんは完全にそれに乗っかって物語を作っています。

 なので『もののけ姫』というのも、縄文人の話だと思ってください。

・・・

 さて、「傷を見せろ」と言われたアシタカが、包帯を取ると、腕の傷がこういうふうに見えます。

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 この傷痕の残る腕を見せるカットでは、バックにこれ見よがしに縄文土器が描き込まれています。

 この縄文土器を見せることによって「はい、彼らは縄文人ですよ」と分からせているわけなんですけど。

 その他に、もう1つの機能があるんです。


 このタタリ神によって出来たアシタカの腕のウネウネしたアザと、後ろの縄文土器の模様、そして、最初にタタリ神が出てきた時に彼の身体中を這っていた蛇のようなウネウネは、どれもよく似ているんですよ。

 そして、クライマックスに出てくるデイダラボッチも、身体の中に縄文的な模様がずっと動いています。

 このデイダラボッチの設定資料を見ると「夜空が歩いてるようでもあり、歩く縄文土器のようでもある」と書いてあるんですね。


 何が言いたいかというと、呪いを受けたアシタカの腕について、映画を見ている僕らは「これによってアシタカが苦しんでいる」とか、「これのせいでアシタカはもうすぐ死ぬ」と考えて見てしまうので、どうしてもそっちの方に引っ張られてるんですけども。

 この、土器と一緒に見せられているアシタカのアザの模様というのは “縄文の神々のサイン” なんですね。

 つまり「アシタカは呪われたと同時に、神々によって聖痕を与えられた」というサインでもあるんです。


 彼は、この呪いによって、もちろんタタリ神にもなるんですが、ものすごい力を得ることもある。

 アシタカは、このあざを受けてから、おヒイ様から「アシタカヒコ」と呼ばれるようになります。

 この「ヒコ」というのは、古代の王子の尊称です。


 ヒイ様というのは、この国の “宗教的な” 中心です。

 要するに、この呼び方は「アシタカヒコこそがこの国の将来の長となる人物である」と認めているということです。

 つまり、『もののけ姫』とは「その国の将来の王が、呪いであり聖痕でもあるものを与えられた」という話になっているんです。

 
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