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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/08/23
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今回は、ニコ生ゼミ8月12日(#243)から、ハイライトをお届けいたします。

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 ソフィーの視線の外で綿密に組まれた『ハウルの動く城』の世界 2


 『ハウルの動く城』の世界で起きた出来事を時系列順に並べてきましたが、ここからようやっと本編が始まります。

 ここから先に、劇中で語られる物語が始まるんですけど、それが終わったらどうなるのか?


 まず、「隣国の王子が故郷に戻り、サリマンは降伏文書に調印」ということが起こります。

 サリマンさんは、ここで「しょうがないわね。このくだらない戦争を終わらせましょう」なんて、余裕たっぷりに言うもんだから、まるで平気の平左みたいに見えるんですけど、彼女は “ムスカ” みたいな人間なんですよ。

 見た目はオバサンで、声は加藤治子ですけども、中身はムスカなんですよね。


 なので、彼女が送ったのは “降伏文書” なんですよ。

 だって、国土をあんなに焼かれてるんですから。


 そもそも、冒頭の港のシーンで、町のみんなから「行ってこーい!」とか「勝ってくれー!」という歓声を浴びながら出向した艦隊が、帰ってきた時には沈みかけた軍艦が1隻だけになっているような戦争なんですよ?

 こんなの、第二次大戦の末期、昭和20年頃の夏の日本とそっくりじゃないですか。

 だから、あれは「降伏条約に調印しよう」という意味なんですね。


 その結果、膨大な賠償金によって、国家の経済は破産してしまいます。

 エンディング後のハウル達が、なぜ、空に行ったのかというと「あれ以上、あの国にいても、買い物はおろか、まともな生活が出来ないから」です。

 第一次大戦後のドイツとそっくりの状態になってしまうんですね。

・・・

 そして、その数年か数十年後、再びサリマン達は戦争を始めます。

 つまり “第二次大戦” を始めるんですね。

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 これは、最後の最後、「雲の切れ目から飛行機械が飛んでいるのが見える」というカットです。


 サリマン先生が「仕方ないわ。この戦争をやめさせましょう」と言った後、この飛行機械のカットが映り、カメラが上にパンすると、今度はハウルの城が飛んでいるのが見える。

 このシーンを見て、「ああ、戦争から飛行船が引き上げているんだ」ってふうに、ついつい考えちゃうんですけど。

 よくよく見ると、空から見える地表が緑色なんです。

 ついこの間まで、国土は全て焼き尽くされていたんだから、こんな緑色の大地に戻っているはずがないんですよ。

 ということは、「これは終戦から10年後、20年後の話だ」ということなんです。


 つまり、これまた第一次大戦後のドイツと同じで、このカットは「10年後、20年後に、かつて戦争で散々やられた国が、もう一度、力を取り戻して、他所の国への侵略を始めた。

 人のやることは変わらない」というメッセージなんですよ。

・・・

 これに関しては、鈴木敏夫自身が、2005年の1月号の『サイゾー』という雑誌のインタビューで答えてます。

 鈴木さんは、インタビュアにこう聞かれます。

 「あんなにあっさり戦争を終わらせてしまうというのは、安易なんじゃないですか?」と。

 すると、鈴木さん珍しく声を荒げて、インタビュアを怒りつけます。

───

 あなたは最後のカットをどう見たの?

 飛行機が飛んでたでしょう?

 つまり、宮崎駿は「また新たな戦争が始まった」ということを描いてるんです!

 あの飛行機は「戦地から帰ってきた」んじゃないんです!

 「また戦争に向かっている」んですよ!

───

 こんなこと、鈴木さんは滅多にしないんですけども、「それはこういう意味だ!」と、ハッキリ言っているんですね。

 「サリマン達が降伏文書に調印したことで、一度は戦争も終わったんですけど、その数十年後には、また戦争が始まるんだ」と。

・・・

 これが分かりにくい理由は、「その直後に映されるハウルとソフィーの年齢が変わってないから」なんですよね。

 だから、サリマン先生が「やめにしましょう」と言った直後の光景だと、僕らはついつい思っちゃうんですけど。


 違うんですよ。ハウルはもともと魔法使いで、見た目は自由自在。

 そして、この時点でのソフィーも “魔女” なんですよ。

 魔女だから、若いままの姿をしているだけで、実は、最後の空飛ぶ城のシーンは、物語から何十年経ってるか分からないという世界を描いているんですね。


 こういった全体の流れというのがわかっていると、『ハウルの動く城』というのは、すごく壮大な物語であること、そして、そんな大河ロマンの一部分をソフィーの視点だけで切り取って見せるという、かなり実験的な映画だというのがわかると思います。


 「これをわかれと?」(コメント)


 その意見に関しては、僕もその通りだと思います。

 「確かに、宮崎駿はやり過ぎてる」って(笑)。


 ここに関しては、正直、明らかにバランスが狂っちゃってるんですよ。

 というのも「恋愛モノだということで切ってしまっても、これくらいのことはわかるだろう」という理由の他に、「もっと無意識の領域で作った『千と千尋』などの作品で矛盾点をいっぱい突かれて嫌だったから、本当は全部考えてるんだけど、何も考えてないことにしよう」と思い切っちゃったというのがあるからだと思うんですけども。


 さっきから言ってるように、『ハウルの動く城』というのは、ものすごく綿密に設定が組まれた作品なんです。

 だけど宮崎さんは、それを一切説明しようとしていない。


 宮崎さんとしては「恋愛モノには、そんなの不必要でしょう? だって、第2次大戦中の恋愛ドラマを描こうという時に、第二次大戦に関する膨大な知識なんか必要ないじゃん! カッコいい恋愛が描ければ、それでいいじゃん!」って言ってるんです。

 だけど、いくらなんでもこれは説明しなさ過ぎだと思います。

 「これだけのプロットを作ったんだから、ちゃんと言ってよ!」って思うんですけどね。

・・・

 最後、魔女のソフィーと魔法使いのハウルは、空飛ぶ城で、自分たちだけは歳を取らずに優雅に暮らします。

 「地上には干渉しない」ということですね。

 ここでのソフィーは、黒いリボンが示す通り、魔女になってるんです。


 空を飛ぶ城でのラストというのは、『ラピュタ』と逆なんですよ。

 『ラピュタ』で「人は大地に帰らなければいけない」と言った宮崎駿が、20年後には「もう、空で暮らしたらいいじゃん!」って言うくらい考え方が変わってきているんです。


 『ハウルの動く城』の中では、重力は必ず “老い” の象徴として使われているんですよね。

 だから、歳をとると身体が重くなるし、魔力が失われていくと荒れ地の魔女も階段も登れなくなっていく。

 必ず、人が老いることと身体が重くなることをワンセットで語っているんです。


 じゃあ、なんで最後に城が飛ぶのかというと、「老いの世界からも解放されたハウルたちは、いついつまでも空の上で幸せに暮らしました」という究極のハッピーエンドを描こうとしたからなんですね。

・・・

 同時に、ちょっと見逃していけないのがここです。

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 これは、最後のハウルの空飛ぶ城を俯瞰で映したシーンなんですけど、1つだけ不自然なものがあります。

 本を読んでいるお婆ちゃん。

 犬のヒンと遊ぶ子供のマルクル。

 その横には洗濯物が干してあるという、一見すると自然に見える光景です。

 でも、端の部屋に立っている “旗” だけが不自然なんですよ。


 この旗には、りんごの木みたいな木が描いてあるんですけども。

 これだけ、別にここになくてもいいものが描いてあります。

 しかも、妙に意味ありげなんですよね。


 僕、「これ、何かな?」って思ったんですけども。

 その答えは、あんまり深く考えなくてもよかったんです。

 これは “ダジャレ” なんですよ。


 この旗に描いてあるのは「りんご」ですから、これはつまり「隣国」の旗なんですね。

 どういうことかというと、「いずれ私は帰って来ます」と言った隣国の王子様が、このシーンの時点では帰ってきていて、この部屋に住んでいるということなんですよ。


 ソフィーというのは、最後、自分の気に入った人全員を自分の家の中に取り込んで “家族” にしてるんです。

 本来だったら、家族っていうんだから、妹とかお母さんも呼べばいいのに。

 だけど、それらを全てを除外して、自分が好きだと思った人、キスを与えた相手のみを家族として、この時間が止まった幸せな世界の中で、永遠の時を生きる。

 つまり、これは宮崎駿の「それが女の子の究極のハッピーエンドでしょう?」っていうメッセージなんですよ。


 だけど、この平和な日常を描いた風景の中に、隣国の王子様まで描いちゃうと、流石にものすごくエグいことになるので、ここでは旗だけを見せているんです。

・・・

 ここまででプロットから全体構造の説明を終わります。

 やっとこれで無料放送が終わりなんですけど。

 後半の有料放送では、「実は『ハウルの動く城』というのは、ソフィーを含めた3人の魔女に振り回されるハウルの物語である」ということを話します。

 つまり、「サリマン先生、荒れ地の魔女、最後はソフィー。この3つの魔女とハウルがどのように関わってきたのか? どんな男の物語なのか?」というのを説明しようと思います。


 最初にも話した通り、僕はこの作品を、ルパンについて行ってしまったクラリスの話でもあり、もう1つの『まどマギ』でもあると考えていますので、そこら辺を解説しようと思います。

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