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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「人類はAIでなく機械に職を奪われる? その2」

2018/08/14 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/08/14
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今回は、ニコ生ゼミ8月5日(#242)から、ハイライトをお届けいたします。

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 人類はAIでなく機械に職を奪われる? その2


  “人工知能” という概念が生まれたのは1950年代。

 まあ、「元を辿っていくとデカルトだ!」と言う人もいるんですけど、概ね1950年代と言われています。


 第2次大戦で発明された “原子爆弾” と “コンピューター” 。

 この2つから生み出された鬼子みたいなものなんです。


 原子爆弾の破壊力の計算や、大砲を撃った時の弾道計算を行わせるために、コンピューターというのが開発されたんですけど、これが本格的に発達した1950年代には、わりとすぐに人工知能という言葉が生まれて、その可能性が議論されるようになりました。

 これが “第1次人工知能ブーム” です。

 これまでの歴史上、人工知能ブームというのは3度訪れています。


 その1回目が1950年代。「これからはコンピューターで何でも出来るのではないか?」、「未来は全て機械で計算できるようになるんじゃないか?」と言われていた時代です。


 その後、1980年代後半から90年代前半に掛けて、“第2次人工知能ブーム” が起こります。

 IBM社の “ディープ・ブルー” というコンピューターが、人間のチェスのチャンピオンを破ったことを契機に、一斉に人工知能ブームが起こりました。


 当時、日本では “第5世代コンピューター” の研究というのをやっていた時代ですね。

 なぜ、「ディープ・ブルーがチェスで人間に勝った」ことが、そんなに大事なのかについては、後で話します。実は、人工知能とチェスには、切っても切れない関連があるんですよね。


 そして、現代2018年は、ちょうど “第3次人工知能ブーム” ということになっています。

 “シンギュラリティ” とか “ディープ・ラーニング” とか、そういうことを言っている第3次ブームですね。


 しかし、第1次、第2次ブームの度に、人類は人工知能に対して「これ、行けるんじゃないか!?」と大いなる期待を持ち、その後、「やっぱりダメだったか……」という苦い失望を繰り返しているので、「今がちょうど第3次ブームの頂点で、これから先に似たような失望が来るんじゃないか?」と言っている人もいます。

 そして、2018年の8月現在、人間に匹敵する、人間を超える、もしくは人間に近づくような人工知能は生まれていません。

・・・

 1960年代に、マービン・ミンスキーという人が「あと30年で人工知能は完成する!」と言いました。

 この人は、マサチューセッツ工科大学で人工知能研究所を作った、本当に賢い人なんです。

 どれくらい賢いかというと、僕の大好きな『われはロボット』などの作品を書いたSF作家のアイザック・アシモフが、「自分より賢い人間に生涯2人だけ会ったことがある。1人がマービン・ミンスキーで、もう1人がカール・セーガンだ」と言ったくらい賢いんですよ。

 ……まあ、こんな例えをしてもSFファンにしかわかりませんよね(笑)。


 これがマービン・ミンスキー教授です。

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 彼は、映画『2001年宇宙の旅』の監修も担当しています。

 つまり、あの映画に出てくる “HAL” という人間を殺しちゃうAIの生みの親でもあります。


 しかし、1970年代になっても、80年代になっても、彼が予想したような人工知能の流れは来ず。

 マービン・ミンスキーは、「あと30年!」「あと30年!」というふうに、70年代になっても80年代になっても延々と言い続けました。


 マービン・ミンスキーには子供が3人いたんですけど、これが、彼の娘のマーガレット・ミンスキーです。

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 彼女もメチャクチャ頭が良くて、大学で人工知能に関する教授になりました。

 そして、父親の後を継いで、この人も「あと30年!」と言い続けているんですね(笑)。


 つまり、昨今よく言われているような「あと30年で人工知能にすごく大きい波が来る!」とか、「人間の言葉を100%理解するAIが誕生する!」という言説は、実はこのマービン・ミンスキー教授が1960年代から言い始めたことなんです。

 現代では、この「30年」というのを少し早めて、「20年後には~!」とか「15年後には~!」って言ってるんですけども。

 実は、現代のAIというのは、マービン・ミンスキーが60年代にこれを言いだした時代のAIから、抜本的な進化をとげてはいないんですよね。


 いや、“進歩” はしてるんですよ?

 でも、数学上の進歩というのが起こり得てないというのが、現状だと思います。


 ただ、面白いのは、マービン・ミンスキーが人工知能の可能性を語りだした直後に「人間はコンピューターに支配される!」という言説が現れたということなんです。

 では、なぜ、人工知能ブームが起こると、すぐに「仕事がなくなる!」とか「機械に支配される!」みたいな本が、本屋さんにいっぱい溢れるようになるのか?

 それが、今回の最初のテーマである「機械に仕事が奪われる?」というお話です。

・・・

 さて、ここからは話がちょっと古くなります。

 時は19世紀末、1882年イタリアのジェノバの話です。


 1882年というのは、ちょうどガウディがスペインでサグラダファミリアの建設を始めた年なんですけど。

 まあ、それくらい古いとも言えますし、わりと最近でもあります。


 この年、イタリアのジェノバに暮らしていた9歳の男の子が「学校を辞めて働こう」と決意しました。


 ……すみません。

 とはいえ、これは実在の人物ではありません。

 マルコ・ロッシ君という『母をたずねて三千里』の主人公です。


 『母をたずねて三千里』というのは、『ハイジ』が大ヒットした後、別の人が1年間『フランダースの犬』を作っている中、1年間休憩した後で、宮崎駿・高畑勲コンビが作った長編アニメシリーズです。

 いや、高畑勲は監督だから、この場合「高畑・宮崎コンビ」と言わなければいけませんね。

 宮崎駿は画面設計を担当していました。

 僕はこれを、高畑・宮崎コンビの最高傑作だと思っています。


 この『母をたずねて三千里』の原作は、昔の小学校の学級文庫によく置いてあった『クオーレ』という、イタリアの子供たちの道徳の本です。

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 これは「イタリア人の子供なら、だいたいみんな読んでいる」と言われる本なんですけども。


 高畑勲は、その中に収録されていた40ページくらいしかない短編小説を、無理矢理全50話くらいに引き伸ばして、1年間のアニメシリーズに仕上げました。

 これを1年間のシリーズにするために、高畑勲は、『ハイジ』でやった時以上に徹底的に、19世紀末のイタリアの風俗を調べ上げたんです。


 興味のある人は『クオーレ』を読んでみてください。

 あっという間にマルコとお母さんは再会を果たしてビックリしますから。


 日本人がよく知っている『母をたずねて三千里』の物語というのは、高畑勲のオリジナルだなあと思いますよ。


 ちなみに、この『母をたずねて三千里』は、宮崎・高畑コンビの最後の作品でもあります。

 その後にも、『赤毛のアン』などで、宮崎駿が高畑さんのアニメを手伝うこともあったんですけど、本格的にガップリ4つに組んだのは、これが最後です。

・・・

 この19世紀のイタリア・ジェノバで、マルコ・ロッシのお父さんのピエトロ・ロッシは、貧しい人たちへの病院を経営していたんです。

 でも、病院を経営していただけで、彼は医者ではないんですよね。

 “事務員” なんですよ。


 僕も、アニメを見ていた時は、病院を経営してるんだから、てっきり医者だろうと思ってたのに、「貧乏だ、貧乏だ」ってずっと言ってて、なんでだろうって思ってたんですけど。

 なぜかというと、病院の経営を任された事務員で、医者のワガママを聞きながら、なんとか経営をしていたからなんですね。


 さて、この病院が経営破綻して、どうにもこうにも倒産しそうになったので、マルコのお母さんであるアンナ・ロッシは、アルゼンチンのブエノスアイレスに出稼ぎに行くことになってしまいます。

 なぜ、アルゼンチンなんていう、南アメリカの遠い所まで出稼ぎに行くのかというと、実は19世紀後半から20世紀の頭まで、アルゼンチンというのは世界で最も豊かな国だったんですよ。


 当時のアルゼンチンは、農産と牧畜によって農業大国として、かつての豊かなアメリカと同じように大成功していて、「そこに行けば誰もが金持ちになれる」と言われる国だったんですね。

 なので、マルコのお母さんも、奉公に行ったんです。

 まだ9歳の子供だったマルコ・ロッシ君はお母さんを恋しく思います。


 ところが、お母さんが旅立ってから数ヶ月もすると、それまでアルゼンチンからしょっちゅう届いていた手紙が、だんだんと滞るようになってきて、やがてパッタリと届かなくなってしまいます。

 それと同時に、お父さんに仕送りしていたお金も来なくなってしまうんですね。


 マルコは、すごく心配して、友達だったエミリオ少年に頼んで、瓶洗いの仕事を紹介してもらいます。

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 これが瓶洗いの仕事を貰いに行く場面なんですけど。

 手前にいる太った男の人がジロッティーさんという、瓶洗い業の元締めですね。


 マルコ少年は、この人に「僕も働けます!」と言いました。

 隣ではエミリオも推薦してくれています。

 しかし、ジロッティーさんからは「子供がな、そんなに働けるもんじゃない。瓶洗いってのは大変なんだ」と言われてしまいます。

 でも、マルコは子供なりにすごい頑張って、中庭中に置いてあった空瓶をゴシゴシ洗って、ジロッティーさんをビックリさせます。

 
 ジロッティーさんも「これだけ働けるんなら使ってやろう」ということで、1882年のイタリア・ジェノバの港町で、わずか9歳のマルコくんは、学校に通いながら、放課後は瓶洗いをして、お父さんにお金を渡そうということになりました。

・・・

 しかし、第9話「ごめんなさいお父さん」の回で、とんでもないことが起こります。

 マルコくんは、お母さんの手紙が届かないことを心配して、ついに学校を辞める決意をしたんですね。


 マルコくんは9歳ですから、まだ小学生ですよ?

 にも関わらず、「もう小学校に行かない!」と言い出して、友達のエミリオも心配するんですけど、お父さんにも秘密で勝手に学校を辞めちゃうんですよ。


 そして、不思議なことに誰も出勤していないジロッティーさんの店に1人で行って、置いてあった瓶を全部 洗います。

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そして、やって来たジロッティーさんに「見てください、ジロッティーさん! もう100本近く洗っておきましたよ! 僕はこれから学校には行かずに、ずっとここで働きますから、もっとお金をください!」と言うんです。

 しかし、ジロッティーさんはすごく暗い顔をしています。

 なぜかというと、“瓶洗いの機械” が発明されてしまったからですね。

 
 「くだらないことを思いつくヤツがいたんだ。瓶洗いの機械が発明されてな。その機械があると1時間に何百本も瓶が洗えるっていうんだよ。もうこの店もおしまいだ」と。ジロッティーさんの瓶洗い業は、もう店ごと倒産してしまったんですね。

 もう、人間が瓶洗いをする時代でなくなってしまったんです。


 イタリアというのは誇り高き工芸の国、いわゆる職人の国だったんですけども。

 そんな誇り高き職人の国にも、19世紀末になる頃には、産業革命の波が押し寄せてきたんです。


 その結果、こんな小さな港町のしょーもない仕事まで、瓶洗いの機械の発明によって消滅してしまい、ジロッティーさんは失業してしまったわけですよ。

 ジロッティーさんは、1リラというわずかな退職金をマルコに渡して「これがお前に渡せる最後の金だ」と言います。


 ジロッティーさんって、なかなか立派な大人だと思うんですよね。

 自分の店も潰れてしまって、お金に困っているというのに、「もう仕事は終わりだ! 辞めだよ!」と言って、マルコを追い返しても良かったはずなのに、せめて1リラだけでもお金を渡してくれるんです。

 だけど、マルコは、たった1リラしか貰えないことに腹を立てて、「もう仕事はくれないんですか!?」とか、「クビなんですか!?」ってぶーたれて店を飛び出して行くんです。


 このように、『母をたずねて三千里』のマルコ少年というのは、かわいらしさと憎たらしさが共存しているようなキャラクターなんですよね(笑)。

 ただ、アニメ作品としてよく出来ているから、ちゃんと見ていられる。こういうところが『三千里』の良さなんです。

・・・

 これは別にイタリアだけに限った話ではありません。

 たとえば、チャップリンは1936年に『モダン・タイムス』という映画を作りました。

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 この『モダン・タイムス』の中では、大量の歯車の中でチャップリンが働いています。

 つまり、アメリカも同じだったんですね。


 それまでは、誰もが職人としての誇りを持って働いていたのに、いつの間にかベルトコンベアみたいなものが生まれて、運ばれてくる部品を次から次へとネジで留めるだけの仕事をすることになった。

 『モダン・タイムス』で、チャップリンは、最終的に機械の中に挟まれて、どこかに連れて行かれてしまうんです。


 チャップリンはギャグとしてこれを作っているんですけど、こういったイメージは、当時のアメリカ人、もしくは世界中の手工業をやっている人達の実感だったのだと思います。


 かつては、みんなと喋りながら、もしくは、時には歌いながら職人として仕事をしていたのに。

 工場によっては能率を上げるために詩を朗読したり、もしくは音楽を掛けたりするのも当たり前だったんですけど。


 段々とそれがなくなってきて、ベルトコンベア式の流れ作業になっていった。いわゆる “機械の奴隷” になっていった時代なんです。

 この「機械に仕事を奪われる!」という恐怖は、19世紀の後半から20世紀前半まで、メチャクチャ大きかったんですよ。

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