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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「【『かぐや姫の物語』解説 補足】 高畑勲の作家としてのホームポジション」

2018/06/27 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/06/27
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今回は、ニコ生ゼミ6月17日(#235)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『かぐや姫の物語』解説 補足】 高畑勲の作家としてのホームポジション

 5月にやった『かぐや姫の物語』の解説について、こんなお便りが届きました。

――――――

 実は私、大学、大学院で古典文学を専攻していました。
 
 だから高畑さんの「かぐや姫」は公開当時からとても興味深かったです。


 とくに「これはすごい!」と思ったシーンが姫が琴を弾く場面です。

 岡田さんは、「姫は異性の前ではスキルが上がるので、翁がやってきたら琴を弾きこなせてしまった」と解釈してらしたのですが、わたしは別の解釈をしました。


 姫が弾いていた琴は、琴は琴でも、“キン”(琴)の琴という、古典文学の世界では、天人の末裔であるとか皇族とか、要するに特殊な血筋の人間でしか弾くことができない、ある意味で幻の楽器みたいなもので、我々が「琴」と聞いてイメージするような “ソウ”(箏)の琴とは全然 別の楽器なんです。

 それを姫がさらりと弾きこなしたというのは「姫が天女の生まれ変わりだ」ということを暗示する演出だと、わたしは思いました。

 「いやー、すごい。さすが高畑さん」と、感心するのと同時に、「王朝文学を学んできた自分にはかろうじて分かったけど、一般の人には絶対分からない、えげつない演出をするなー」と映画館でぞっとした思い出があります。

 本当に高畑さんの映画はえげつないですね。

 そこがわりと好きですが。

――――――

 そうなんです。

 僕らが「琴」と言われた時にイメージするのは、正しくは “ソウ” という楽器なんです。

 つまり、琴には、“キン” と “ソウ” というのがあり、元々のキンというのは、もう僕らは、ほとんど見ることができないんです。


 いわゆる女の人がやっているようなあの楽器は、弦の間に橋みたいなのが入って、音階を調節する楽器なんですけど、かぐや姫が弾いてるのは、1枚の板に真っ直ぐな糸だけが張ってあり、それを胡座をかいた足の上に乗せて弾く、キンという楽器だそうです。

 これについては、『かぐや姫の物語』のメイキング本の中にも書いてありました。


 録音の時に、ミュージシャンの人が来たんですけど、そこに用意されていたのが “ソウ” だったんですよ。

 いわゆる、現代でも使っている普通の琴が置いてあった。

 なので、高畑さんに、アニメの監督だから知らないんだろうと思いながら「これね、実は違う楽器なんですよ」というふうに言ったら、高畑さんが「そうなんですよ。 これは違うんですよね。 “キン” でなければ」と言ったそうなんですよ。

 「わあ、すごいな、この監督。 知ってるんだ」と思って、その後、二人で相談したそうです。


 この2つの楽器の何が違うのかと言うと、現代も伝わっている “ソウ” という楽器は、音が響きすぎる、鳴りすぎるそうなんですね。

 それに比べて、かぐや姫が使っていた時代の “キン” というのは、もっとくぐもった音だそうです。

 なので、結果、しょうがないから弦の下にタオルを何枚か敷いて、音があまり反響しないようにして、かぐや姫が琴を鳴らすシーンを作ったそうなんですけども。


 それをちょっと思い出して、「本当にすごいな、あのオッサン」というふうに思いました。

 高畑アニメに関しては、本当に研究すればするだけ深みがあるんですよ。

・・・

 今のアニメの作り方、映画の作り方、たぶん、小説も漫画もそうなんですけども、二極化してるんですね。

 つまり、“高畑さんっぽい” というか “分かる人には分かる” というような、深みというのをずーっと作っていくような。

 作者としても「まあ、ついて来れる人だけついて来てくれればいいよ。 初心者にもわかりやすくはしてるけど、実はその奥にもいろいろと考えて用意してるんだけど」という作り方。


 意外にも、『進撃の巨人』はそういう作り方をしてるんですよ。

 あとは『約束のネバーランド』もそうかな?

 他にも『HUNTERXHUNTER』なんかもそうなんですけど。


 それに対して、「漫画とかアニメの役割というのは、とにかくわかりやすいことであって、テーマとかも、できるだけセリフとして直接表現するし、とにかく間口を広げて、できるだけ沢山の人にわかって貰おう」という作り方。

 このどちらかに二極化してるんですね。

・・・

 映画作家というのは、どちらかというと前者のタイプが多くて「分かる人に分かればいい」ってしがちなんですけども。

 テレビドラマって逆なんですよ。

 「とりあえず見てる人 全員に分かってほしい」という文法で作るんですね。


 なので、結果として、テレビで活躍している人が映画を撮ると、ほぼ失敗するんです。

 これはもう、「ほとんど例外なく」と言ってもいいくらいです。

 僕も好きだったテレビであんなにイケてた人が、映画を作ると深みがなくなってしまう理由は、テレビと映画が本質的に持っているものが違うからです。


 テレビというのは、全てを明らかにして、分かるようにして、その分かるものの連続で何話も何話も話数を掛けて、ゆっくり見せて行くものなんです。

 『真田丸』もそういう作り方ですよね。


 しかし、そういう やり方は、こと映画に来ちゃうと「含みがなくて面白くない」ものになってしまうんです。

 宮藤官九郎にしても誰にしても、とりあえず、僕がテレビで好きな人っていうのは、全員、映画に行くとダメなんですけども、そこら辺が原因じゃないかと思っています。

・・・

 そういう意味では、高畑勲に関しては「映画ではやり過ぎになる」んですよ。

 でも、テレビアニメとして『赤毛のアン』とか『アルプスの少女ハイジ』とか『母をたずねて三千里』をやった時には、ドンピシャなんです。


 “高畑ボリューム” っていうのかな?

 それが映画になると、もう、カルピスの原液状態で、「いや、高畑さん、そこまで作っておいて、『かぐや姫の物語』って、お話はクソつまんないですよ」というふうに思っちゃうんですけども(笑)。


 作家によって “ホームポジション” というのがあると思うんですよね。

 すみません、つい「つまんない」とか言っちゃったんですけども。


 いや、高畑さんの『火垂るの墓』にしても『かぐや姫の物語』にしても、ストーリーだけ見れば絶対に弱いんですよ。

 だけど、それをテレビシリーズに持ってくると、ストーリーが弱くても、何話も何話も使えるから、すごいものを伝えられる。


 たとえば、『母をたずねて三千里』なんて、言ってしまえば「イタリアのジェノバにいた、10歳にもなっていないような少年のマルコが、大好きなお母さんに会いたい一心で、一生懸命に海を渡ってアルゼンチンまで行って、さんざん苦労してお母さんに会えた」というだけの話なんですよ。

 だけど、これをテレビで50回に分けてやったらどうなるのかというと、ものすごいことになるわけですね。

 本来、高畑さんというのは、そっちに向いてる作家なんですよ。

 それなのに、50話も掛けて、1年連続のテレビシリーズに使うような情熱を、たった2時間くらいの枠の中に込めてしまうと、『かぐや姫の物語』のような “沼” みたいな作品が出来ちゃうんですよ(笑)。


 やっぱり、正直に言って、僕は「高畑さんはテレビの作家であった」と思います。

 その点、宮崎駿はテレビでも映画でもどちらでもいける、ちょっと稀有な才能を持っていたというふうに思ってます。
  
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