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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/05/22
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今回は、ニコ生ゼミ5月13日(#230)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『パシフィック・リム』解説 2 】 デル・トロが監督を引き受けるまで


 だからといって、デル・トロ監督は、ゴッホのように ただ模写をしたというわけではないんですよ。

 『パシフィック・リム』というのは「俺なら怪獣や巨大ロボットこう作るよ!」という、主張のあるアレンジがかなり強い作品なんです。


 というのも、ギレルモ・デル・トロ監督という人は、『パシフィック・リム』に関しては、もともと監督の予定ではなかったんですね。

 もちろん、製作元のレジェンダリーフィルムとしては「いや、デル・トロが作ってくれたら一番いいんだけどな」と思って、企画書を渡したりしてたんですけど。

 それに対して、デル・トロ監督は当初は「メッチャ魅力的だけど、俺、時間がないわ」と答えていたそうです。

 なぜかというと、当時のデル・トロ監督は、『狂気の山脈にて』という、ものすごく作りたかった作品の準備をしていたから時間が無かったんですね。


 なので、「プロデューサーだったらやってもいいよ。シナリオには口出しをさせて」って、軽くプロデューサーをする予定だったんですね。

 デル・トロ監督というのは、そのずっと前から『狂気の山脈にて』を映画化するために、もう睡眠時間も割いて、というか、1日3,4時間しか寝ずに準備をしていたそうなんですよ。

・・・

 この『狂気の山脈にて』という作品は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという第2次大戦前に活躍したアメリカの幻想作家の代表作と言われている長編ホラー小説です。

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 ラヴクラフトというのは、この写真ではちょっと分かりにくいんですけど、ものすごい変人の作家で、とにかく書いた小説が少ないんです。

 だからといって、「書くのが遅い」んじゃないんですよ。

 彼は、友達からの手紙とか、あとはファンレターが届いたら、それらに全て返事を書いてたそうなんですよ。

 なので、「生涯に書いた小説の量より、友達に書いた手紙とか、ファンレターに書いた返事の方が何倍も多い」と言われてるような人なんです。


 おまけに、小説の校正を頼まれることが多かったんですね。

 アマチュア同然の人とか、いろんな人の書いた小説を読んで、その中にスペルのミスがあったら直したりとか、そういった校正の仕事をやってたんですよ。

 ところが、その校正の仕事でも、だんだんと気分が乗ってくると、全部 書き変えてしまったりして、「これ、もう、ラヴクラフトのオリジナル小説じゃん!」ということもあったそうなんですけど(笑)。


 にもかかわらず、校正料としては、わずかなお金しか受け取らなかった。

 なぜかというと、生まれがお坊ちゃんだったからなんですね。

 お坊ちゃんなもんだから “貴族趣味” というのか、「貴族というのは生活のために働いたりしない」という信念があったんですよ。

 そのおかげで、どんどん貧乏になって、もう本当に人生の半ばくらいからは、奥さんが働いて生活費を稼ぐという「どこが貴族なんだ?」みたいな状態になってくるんですけども。


 なんか、そんな状態になっても自分の貴族趣味というのを貫き通して、評価されずに死んじゃった作家なんです。

 だから、その死後に、ファンの人とか友達の作家が「ラヴクラフトっていうのはすごい人物だから、なんとかその作品を残したい!」と言って、“アーカム・ハウス” という名の、ラヴクラフトの過去の作品を出版するためだけの出版社を作って、そこからやっと再評価が始まりました。

 そんな、死後に再評価されたという作家です。

・・・

 この『狂気の山脈にて』というのは、マサチューセッツ州の “アーカム” という架空の土地にある、“ミスカトニック大学” という架空の大学の調査隊が南極に調査に行くという話です。

 このアーカムもミスカトニックも、ラヴクラフトのクトゥルフ神話には必ず出てくるような定番の名前なんですけど。

 すると、調査隊は南極の永久凍土の下に、数千万年前かあるいは数億年前の不思議な生き物の死体を見つけます。

 まだ生きているようなものもあれば、完全に化石化したようなものもあったんです。

 それらは、人類の歴史以前に地球を征服をしていたという “旧支配者” という存在だった。

 そして、侵略者である “ク・リトル・リトル” …

 …この本の中でそう呼んでいるのでそう言いますけど、ク・リトル・リトルと旧支配者の戦いを表す壁画が、そこら中に残っていた。

 そして、「彼らの末裔は、まだこの世界に生き残っているかもしれない」という、恐怖みたいな話で終わるという小説なんですよ。

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 これが、人類以前に地球を支配していたとされる旧支配者です。

 これは、僕の好きな田辺剛さんという漫画家がコミカライズしたイラストなんですけど、わりと珍しい精密に描かれたイラスト画です。


 この5つのヒトデみたいな触手の先に目玉があって、後ろには羽があって空も飛べるという、本当にすごいバケモノなんですけども。

 彼らは、人類よりも遥かに優れた文明というのを持っていて、地球上を支配していました。

 それと戦っていたク・リトル・リトルというのがこいつですね。

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 タコみたいなおばけみたいなヤツ。

 これらが戦争をやっていたんですね。


 さっきも言ったように、デル・トロ監督が本来やりたかったのは、実はこっちの映画なんですね。
 
 この『狂気の山脈にて』という「第2次大戦前に南極探検隊が行ったらこんなすごい遺跡があった!」という話をやりたかったんです。

・・・

 この映画版『狂気の山脈にて』の製作プロジェクトは、とにかくすごかったんですよ。

 まず、プロデューサーがジェームズ・キャメロン。
 主演がトム・クルーズ。

 これらが、もう、全部決まってたんですよね。

 その上、主演トム・クルーズでプロデューサーがキャメロンだから、もう金もちゃんと集まってたんですよ。

 本当に制作に入る直前まで行ったんですけども。


 しかし、ここで問題が起こります。

 まず、「デル・トロ監督がやりたいイメージを、そのまんまの形で実現するとなると、間違いなくR指定になる」というふうに言われました。

 つまり、18歳以下は見れないような映画になってしまう。

 おまけに、制作費が1億5千万ドルも掛かる。

 1億5千万ドルを掛けたR指定の映画なんてありえないわけですよ(笑)。


 それで、ユニバーサルスタジオと散々揉めに揉めて、数ヶ月間、「本当に作るか、延期するか、辞めるか?」という話し合いが続いて、デル・トロ監督はとことん疲れていました。

 結果、「スケジュールだけを決めよう。いついつまでにどうするか決まらなかったら、もうやらない」というふうに言ったんです。

 まあ、デル・トロ監督としては、実は「それでもやるんじゃないか?」と心の中で思ってたそうです。

 なので、「とりあえずスケジュールだけ決めてくれ」と言ったんですね。


 ところが、運命の日。2011年3月4日の金曜日だそうです。

 これ、なんでわざわざ金曜日と言ったのかというと、そこからの週末のデル・トロ監督の心の動きがなかなか切ないからなんです。

 2011年の3月4日金曜日に、ついにユニバーサルスタジオから「じゃあ、もう『狂気の山脈にて』はやらない」という決定が届いたんですよね。


 金曜日というのは、「これから週末、何しようか?」って、アメリカに住んでいる人は考えるんですよ。

 それと同じく、週末が楽しみだったデル・トロ監督は、その報を聞いてメチャクチャ落ち込みます。

 「この週末、もう本当にメチャクチャ落ち込んで、マジで自殺を考えた」と言っています。

 なぜって、何年も準備して、人生の全てを掛けて、このものすごく変な “人類が発生する何億年も前の怪物同士が戦う話” を映画にしようとしていたのに、それがダメになったんですから。

 それが3月4日の出来事です。

・・・

 ところが、その翌日の3月5日の土曜日。デル・トロ監督がまだ落ち込んでいるところに、レジェンダリーフィルムの重役たちがやってきて、こんなことを言ったんです。

 「デル・トロさん、手が空いたそうですね。『パシフィック・リム』の監督をやりませんか?」と(笑)。


 それを聞いたデル・トロ監督は、「いい加減にしろ!」と。

 「俺は人生で最大級に落ち込んでいるというのに、なんで、このロボットと大怪獣が戦う映画の話を持ってくるんだ! 確かに、俺もプロデューサーをやると言ったけども!」って追い返したんですけど。

 その後、土曜日曜と過ごしてるうちに、「こんなに落ち込んでたら、マジで俺は死んでしまう」と思って、この『パシフィック・リム』について、真面目に考えようかと思い始めたそうです。

 本人の言葉によれば、「死にたくなるような落ち込み半分。盛り上がり半分で、大変、落ち着かない土曜日曜を過ごした」そうです(笑)。

・・・

 そんなこんな、「もう死んじゃいたい!」という落ち込み半分と、「あれ? でも、この『パシフィック・リム』って案外良いんじゃないの?」っていう盛り上がり半分で土日を過ごしたデル・トロ監督。

 ついに3月7日の月曜日、朝一番にレジェンダリーフィルムに行って、「監督、やります」ってサインしちゃったそうです。

 これでもう、ゴーサインが出て、ここから後のデル・トロ監督は、とにかくノリノリで、「『狂気の山脈にて』でやろうとしていたことを、この中に入れてやる!」と言っていたそうです。

 こうして、ギレルモ・デル・トロ監督は、予算200億円の、巨大怪獣と巨大ロボットが戦う映画を作ることになりました。

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