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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/02/01
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今回は、ニコ生ゼミ1月21日(#214)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『ゼルダ』の世界を歩いてみよう! 『ブラタモリ』的なゲームの楽しみ方・前編

 今日は、「ブラタモリ」的な手法で『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ワイルド』の風景の中を歩いて話をするという、“ブラゼルダ”という話をやってみようと思うんですけども。

 この話を聞くに当たって、「ゼルダとはどういうゲームなのか?」みたいな予備知識は、一切必要ありません。

 なんせ“ブラゼルダ”ですから。


 戦国時代の話とか日本の歴史を知らなくても、まあ、遺跡を見ているだけで、なんとなく面白いのがブラタモリという番組。

 それと同じように、今回は「ゼルダというゲームがいかに面白いか?」ではなく、「ゼルダという世界が、どういうふうに見れば楽しいかのか?」という話をやってみようと思います。

・・・

 去年の12月くらいに「山登りが楽しい」とか、「物理現象が楽しい」とか、ゲームとしての『ゼルダ』の魅力を話しました。

 それに対して、今回は、先週に予告した時点では、SFとして話してみようかと思ってたんですよ。

 たとえば、ゲームの中に出てくる“ガーディアン”という敵のロボットみたいなものがあるんですけど。

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(フィギュアを取り出す)

 これは、上下を裏返せばわかるんですけども、“火焔式土器”をモチーフにデザインされているんですよね。

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 そして、この「登場するメカに火焔式土器っぽい意匠を取り入れる」というイメージの元は、おそらく『風の谷のナウシカ』に出てきた土鬼(ドルク)の“飛行ガメ”なんでしょう。

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(パネルを見せる。『風の谷のナウシカ』より、土鬼の飛行ガメ)

 日本人がこういったSFとかファンタジーモノを作ろうとした時に、西洋的なイメージばかりを持ってくると面白くならない。

 そこで、こういった火焔式土器のようなイメージを持ってきたところが、やっぱり、宮崎さんのすごさだと思うんですね。


 『ゼルダ』についても、ファンタジー世界に火焔式土器をそのまま持ってきたのもすごければ、さらに、それを上下逆にして脚を生やして、ゲームの世界の中で動くロボットとして使ってしまうというところが、見せ方として上手いなと思ったんですけどね。

・・・

 SFとして話すと、まあ、なんか、こういう話になっちゃうんですよ。

 でも、これでは、あくまでも“ゲームとしての『ゼルダ』を楽しめている人”を対象とした話になっちゃうんですね。

 なので、切り口を少し変えてみようと思ったんです。


 なぜかと言うと、ゲームというのは映画みたいに深いテーマを語ることが出来ないメディアだからなんですね。

 前回、前々回に『ラピュタ』を扱ったんですけど、なぜ、あんなふうに語れたのかというと、みんなが気がついていないテーマが作品の中に、いっぱいあったからなんです。

 だから、「宮﨑駿がやろうとしていた事を、僕らは、案外 気がついていないよ」っていう話も、いくらでも出来たんですよ。

 でも、ゲームというのは、そこまでテーマを深くは出来ない。
 そのかわり、“語り口を狭くする”ことが出来るメディアなんですね。


 狭く語るというのはどういうことかというと、たとえば宮﨑駿は『天空の城ラピュタ』を作る時、最初は「完全にパズーの視点だけで作りたい」と言っていたんですよ。

 つまり、「場面転換というものをほとんどせずに、パズーが自分の体験を通して目にした光景だけで、全てのストーリーを語りたい」ということなんですけども。

 やっぱり、それで映画を作るのは無理があるんです。

 ところがゲームというのは、語り口を狭くすることで、「その世界を見せる」ではなく、「その世界を体験させる」ということが出来るんです。


 『ゼルダ』もそうですし、『ドラクエ』なんかもそうなんですけど、こういったゲームでは、ほとんどの画面は“プレイヤーの分身である主人公の目を通して見た世界”になるわけですね。

 それまで見えていたものから別のものを見せようと思うと、その度ごとに主人公を移動させなきゃいけなくなるから、映画みたいに簡単に場面転換するわけにもいかない。

 そういった、すごく狭い覗き口から世界を見ることになるので、逆に言えばゲームの中での“体験”の度合いがすごく高いんです。

 これについては、もうちょっと後で詳しく説明します。

・・・

 実は僕が思うに、こういう作り方って、宮﨑駿の目指しているある種の理想じゃないかと思うんですよ。


 宮﨑駿って、一時期、新たにコンピュータグラフィックスを取り入れたりして映画を作ろうとしていましたよね。

 今では、それをやめて、全て手描きでアニメを作ると言っているんですけども。


 宮﨑駿が『ラピュタ』の時にやりたかった「主人公の視点だけを見せる」というドラマを作るのであれば、僕は、CGでなく、ゲームの製作をすべきだと思うんですよ。

 『ゼルダ』の新作でもなんでもいいんですけども、宮﨑駿がやりたかった「できるだけ狭い視点の中で、主人公が成長する話」をゲームという形で作れば、それは、確実に宮﨑駿にとって、もう一度、何かを作るきっかけになる。

 さらに、その作品を通じて、世界に与える影響も大きい。


 アニメ界だけでなく、映像作品としてもそうですし、体験モノとしても、明らかに次のステップにいける作品になると思うんです。

 なので、「宮﨑駿は、ゲーム開発をすべきだな」って思ったんですけど。

 まあ僕は僕で『ゼルダ』を語る時に、SFとして語るだけではなく、もうちょっと広い物語として語った方が面白くなるなと思いました。

・・・

 さて、宮﨑駿とくっつけて考えると、今回の『ゼルダ』というのは『風の谷のナウシカ』なんですね。

 本当に「ナウシカがいなくなった100年後の世界」なんですよ。


 ナウシカがいなくなってから100年後の世界で、土鬼の神聖皇弟が人類を抹殺するために、巨大モンスターとして蘇った。

 ナウシカの子孫であるゼルダ姫は、トルメキア城に捉えられて逃げることが出来ない。

 そんな中、主人公のリンクという少年は、全ての記憶を失った状態で目覚めてしまった…
 …という話で考えると、すごくわかりやすいんです。

 今回のゼルダのストーリーにおける最大の肝は100年前の大戦争なんですよ。


 だけど、僕が こういうふうに語れるのは、ゼルダを一度、最後までクリアしたからなんですね。

 これはクリアして初めて持てる視点なんです。


 僕もゲームを攻略している最中は、なんかもうゲームを進めることで頭がいっぱいになっていたんですよ。

 「とりあえず良いアイテムを入手したい!」みたいなことだけを考えて、冒険の中で訪れる遺跡なんかも、急いで通り過ぎてしまっていたんですよね。

 だって、最短で先へと進みたいわけだから。


 でもクリアするためにゲームをやるというのは、海外の遺跡に行ったんだけど、観光写真を撮るスポットだけを回って、観光土産を買うためにお店を回って、というのと全く同じことなんですよ。

 そういうことを、クリアするまでの僕は『ゼルダ』の中でやってたんですね。

 でも、『ゼルダ』って、そういうゲームじゃないんです。

 もっと、アニメとか映画のように、というよりは、それ以上に深く読み込むべきものなんですね。


 今日の話について、みなさん、「ネタバレになるんじゃないか?」と思うかもしれませんが、大丈夫です。

 なぜかというと、ゲームをやっている時は絶対に、こんな事を思いつかないから(笑)。

 というか俺ね、今の自分の中にある知識を持って、このゲームを最初からやりたかったって思ってるんですよ。

 なので、まだこのゲームをやってない人も、僕のこの話を聞いた上で、ゼロからやった方がきっと面白くなると思います。

 でないと、普通のゲームのつもりで進めちゃうから。


 そうすると、たぶん、任天堂のスタッフが考えた世界の10分の1も楽しめないんですよ。

 今日は、そういうふうに確信できたので、必要な予備知識としての『ゼルダ』というのをやってみます。

・・・

 さっきも少し言いかけたんですけど、『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ワイルド』の一番面白いところはどこかというと、100年前の大戦争なんですよね。

 100年前の大戦争ではゼルダ姫を中心に、超絶的な剣士であるリンクや、巨大ロボットを扱う4人の英雄たちなど、とりあえず正義の味方も全部 揃っていた。

 おまけに悪の側にも、復活したガノンとか、敵に乗っ取られてしまった巨大ロボットとか、殺人マシーンであるガーディアンなんかが肩を並べている。


 このガーディアンというのは、まあ、メチャクチャデカくて、目からビームが出たりと、すごく強い。

 これは“巨神兵”だと思ってください。

 
 そんな巨神兵が何千何万とワラワラと現れて、人類を襲って、文明世界を破壊していくんです。

 この100年前の大戦争こそが絵的に一番面白くなる場面なんですけども、ゲームの中で この部分は“昔語り”でしか出てこないんですよ。

 つまり、『ナウシカ』のような「腐海で巨神兵が復活した! でも、王蟲が向こうからやってくる! さあ、どうなるのか!?」みたいな描写は、100年前、つまり、ゲームの中では描かれない所で、全て終わってしまっているんです。

 「なんでこの場面を描かないのか!?」って、ついつい思っちゃうんですけど、実は、これこそが『ゼルダ』の優れている所なんです。


 古今東西、いろんなゲームがあるし、“ビジュアルがすごいゲーム”というのもいっぱいあるんです。
 だけど、それらの多くは、すごい映像を見せようとしちゃってるんですね。

 そして、すごい映像を見せようとする限り、つまり「段取りに沿って絵を見せて行くことで観客の感情を揺さぶる」という仕組みで勝負する限りは、映画には敵いっこないんですよ。

 すごい映像を見せようとすればするほど“ハリウッド映画の出来損ないみたいなゲーム”になってしまうと僕は思うんです。

 その点、今回の『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ワイルド』では、この映像的にすごく盛り上がることになるはずのシーンを、「見せたいところはそこじゃない」と、全て切り捨てているんです。

・・・

 では、今回の『ゼルダ』で何をしているのかというと、100年前の大戦争という一番すごい出来事を、あくまでも過去の出来事として置いておき、“そういった全ての記憶を失ってしまった主人公のリンク”というのを出発点にしているんです。

 僕は、このやり方ことが“体験を伝えるメディア”であるゲームとしては、最もふさわしいやり方だと思うんですね。


 映画というのは映像を伝えるメディアです。
 それに対して、ゲームというのは体験を伝えるメディアなんです。

 こういった特殊な関係性があるからこそ、このゲームを体験することを通じて、リンクが少しずつ過去の出来事を思い出していくように、プレイヤーはこの世界を知っていく。

 そして、その結果、100年前のものすごい出来事をありありと感じることが出来るようになるんです。


 このゲームのラストで、ヒロインであるゼルダ姫との会話があるんですけど、その時の彼女の台詞が、とんでもなくすごいんです。

 なぜかというと、ゲームをクリアするまでの体験を通じて、彼女のことを、あたかも生身の人間であるかのように感じるからなんです。

 ゲームの中の世界で、走って、歩いて、ご飯を作って、矢を射って、野生の獣を獲って、また食って、悪いヤツと戦って…

 …というふうにやっていくうちに、最初は単なるゲームのキャラだと思っていたはずのゼルダ姫に対して、「本当に会えた!」という気持ちが生まれるんですよ。


 このゲームは“体験を伝える”ということに成功しているんです。

 だからこそ、ゼルダ姫との本当に何気ない最後のやり取りが、メチャクチャ重く、心に響いてくるんです。

 
 ものすごく感動しますよ。


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