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「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・前編」
では、どんな第1話なのか?
ちょっとパネルにしてみましたので、連続して見てみましょう。
俺、アーネスト・ヘミングウェイのこの原文を、かれこれ30年間探してるんだけども、いまだに見つからないんですよね(笑)。
まさか、嘘をついているとは思えないので、どこかで本当にそんなことを言ってたんだろうけども。
じゃあ、一体どこでの発言なのか?
スペイン戦争に行った頃の文章かなとも思うんですけど、いまだに見つかっていません。
そこから、もう180度変えて、こんな写実的な絵を描いています。
「突然、藤子Fから藤子Aに変わった」くらいの変化を見せています。
そして、次の見開きです。
もう、さっそく宣言します。
「これは事実談であり、この男は実在する。この男の一代記を読者に伝えたいという一念やみがたいので、アメリカのノーベル賞作家ヘミングウェイのいう困難に、あえて挑戦するしかない。私たちは真剣かつ冷静にこの男を見つめ、そしてその価値を読者に問いたい。(極真会館空手三段・梶原一騎)」というのがドーンと来る。
だから、もう、この時点では、どう見ればいいのかわからないんですよ。
「実在する」という“この男”とは、今、どつかれてるヤツなのか、どついてるヤツなのかもわからない(笑)。
おまけに、別のペンネームで描いていた『あしたのジョー』は、力石が死んだちょっと後くらいの頑張らなきゃいけない時期。
にも関わらず、こんな新連載を開始した。
それも、これまでの少年マガジンの作風と全く違う絵柄の漫画を持ってきたんですね。
そして、いきなり「実話である」と宣言した。
それも、「いわゆる『巨人の星』とか『あしたのジョー』っていうのは、所詮、架空のヒーローである。しかし諸君、ついに本当の事を語る時がやってきた!」というような形で、ですね。
そんなナレーションとともに、薄暗い地下室が見開きいっぱいに描かれます。
冒頭から3ページ連続で真っ黒に塗りつぶしたページから始まって、次のシーンでは、徐々に何かが見えてくるように、ようやく僅かな灯りだけで照らされた薄暗い地下室が描かれるんです。
ここで、ようやっと「実在するこの男」、つまり、主人公が出てくるんですね。
「マス・オオヤマ、あんたはスーパーマンと聞くがね、こうなったら絶体絶命。手も足も出まいよ」と、マフィアの親分のような男が言う。
これによって、「この地下室の外には、きらびやかなニューヨークの夜景が広がっている」というのを表現しているんですね。
なので、こういったトリッキーなエフェクトをあまり使わない人だったんですね。なので、この第1話は、
本当に考えて考えて描いているのがわかります。
もちろん、その後のセリフも同様です。
この明らかに悪役然とした男に、「あんたはスーパーマンと聞くが、この状況から脱出できるはずはないだろう?」と言わせることで、読者に「ここから先、主人公のマス・オオヤマが、この窮地をカッコよく脱出するはずだ」と期待させるようになっています。
もうここまで来たら反撃するしかないというところに来ます。
開始直後から、ページ見開きの構成で迫力を見せていたところから、ようやっと1ページ単位のコマ構成になります。
マフィアのボスが怒って、「テレビドラマじゃねえんだ! 奇跡は絶対に起こらねえ!」と言います。
これについては、庵野秀明作品を見ているみなさんはご存知の通り。誰かが「奇跡は絶対に起こらない」と言えば、その5秒後くらいに奇跡が起こるという、この業界のお約束の流れですね(笑)。
彼らについては、このカットにしか出てこないキャラだから気にしなくてもいいです。
要するに、「このマス・オオヤマという男は、誰かを助けるために、単身ギャングの元に乗り込んでいった」ということがここで説明されています。
もともと、つのだじろうというのは、そういうのを描ける作家ではないし、それ以上に、実際の大山倍達という人は、お世辞にも美男子とは言えない顔だった。
なので、こうやって、思い切った、漫画のヒーローっぽくないリアルな画風にしてみたということですね。
実は、この左のページの大ゴマと、次の右のページの大ゴマというのは、ほぼ同じ瞬間を、視点を変えて前後から見せているんですね。
そして、最後に残った、テーブルの下に挟まってたヤツを、テーブルごとバキッと、肋骨を折るような感じで倒して、もうこれで戦闘終了なんですね。
そして、「この間、時間にしてわずか数秒」というナレーションが入る。
この辺が『空手バカ一代』の第1話のリアリティをすごく上げているところなんですね。
まず、明らかに写真から起こしたであろう写実的なカットを何枚も冒頭で見せる。
次に、「1953年6月、スパニッシュ・ハーレム」と時期と場所を特定することで、実際にあったエピソード感というのを出している。
そして、ここでのマス・オオヤマの活躍は、決して架空の漫画ヒーローのそれではなく、実際の人間にもできることだと、「顎に当てればのけぞる、しかし、腹に当てればうずくまる」と詳細に説明することによって見せている。
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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