「岡田斗司夫の母vs税務署(12)」
大阪府堺市の片田舎、大阪府立大学の真正面に、ついに岡田邸が完成した。
鉄筋コンクリートでタテヨコ高さ共に10メートル、という巨大なサイコロみたいな建物だ。
半地下の一階には外からの入り口がない。
二階の正面玄関から入って、隠し扉の階段を降りる構造だ。
階段を一階側から外すと、もう誰も侵入できない。
重厚なマホガニー材と革でできた豪奢なリビングは、スイッチ一つで鋼鉄製シャッターが窓に降りる。
食料庫には三年分の食料が備蓄され、外からわからないように地下には巨大な飲料水タンクが埋まっていた。
つまり・・・
「げ、原爆シェルター!?」
「アホ!人に聞かれたら襲われるやろ!」
父は、オカルトにはまると同時に、まわりの人間を信用しなくなった。
まず、近所の人を信用しなくなった。
住み慣れた旧家は住吉区墨江東という大阪の下町。
壁1枚で仕切られた長屋の一軒だった。
自分の家も貧しかったが、周りも似たようなものだ。
そんな環境で、一軒だけいきなり爆発的に景気が良くなったのだ。
今までどおりの付き合いが続けられるはずがない。
家屋を改築すれば、工事の音がうるさい、日当たりが悪くなったと文句を言われる。
住み込み従業員のために新たに長屋を借りたら、出入りがうるさい、礼儀がなっていない、と陰口をたたかれる。
メーカーの納品で車が停めるだけで邪魔だと怒鳴りこまれる。
近所に内職を頼めば、仕事を受けてもいない人から安い工賃でこきつかう守銭奴だ、と噂される。
石ころの入った泥団子を窓めがけて投げられる事件も頻発するようになった。
信用していた男性社員も全員辞めて、唯一の同志は、父の弟・豊おっちゃんと、その妻・艶子おばちゃんだけ。
弟だから信用しているのではない。
豊おっちゃんのデザインセンスは、プロで通用するから、一緒にやっているというスタンスだ。
信用できるのは自分たち家族だけ。
親切によってくる人間に油断してはいけない。
お金目当てに違いない。
金回りがよくなってからの両親は、常にそういう不安をかかえていた。
だから、SF大会の準備で僕の実家を使っていた時は、友達が僕をいいように利用しているだけではないかと、ずいぶん心配したようだった。
SF大会のために、母に借金を申し込んだときがその心配のピークだった。
「学生の遊びやろ?なんでそんなにお金がかかるの?」
「アニメ作るのには材料費とか絵の具代がいるねん。あとで絶対に返すから」
「なんでアンタが立て替えるねん?他に偉い人おるん違うの?武田君とか?」
「僕はプロデューサーやねん。アニメの最高責任者やねん」
「斗司夫、お前は騙されてる。みんなにエエように使われて、小金をせびられてるんや!」
両親は断言した。
困ったなぁ。
いよいよ今夜から徹夜で作業がはじまる。
庵野秀明・赤井孝美・山賀博之のアニメ三人集も今夜から僕の部屋に泊まり込みになるのだ。
このままでは彼らと、キョーレツな僕の母は正面からぶつかってしまう。
どうする、俺?
以上、『岡田斗司夫の ま、金ならあるし』よりお届けしました。
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