エネルギーのパラドックス (2014/02/17) |
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エネルギーの分野に限ったことではないが、世の中には一見常識的に正しいとされていることが、視点を変えたり、タイム・スパンを変えたりした場合に、必ずしもそうではなくなるパラドックスが往々にして存在する。エネルギー分野では、まず、既にこの欄でも若干触れたが、地表面積当たりのエネルギー密度が非常に低い、フローの太陽光を直接・間接に利用する再生可能エネルギーは、化石燃料や原発の何割かを代替するほど普及させれば、必然的に直接的な生態系大破壊をもたらし、全くグリーンどころではなくなるという重大な「環境負荷のパラドックス」がある。しかし、今回はこの話ではない。
昔から知られているのが、「ジェボンズのパラドックス」である。これは、省エネを鋭意進めると、使用側のエネルギー・コストも同時に下がるので、中長期的にはかえってエネルギー需要全体が増加するというパラドックスである。例えば、燃費効率を改善したボーイング787のような新世代航空機が普及すると、その運航コスト低下につれて格安航空会社が繁盛するようになって、それまで飛行機に乗らなかった層が大勢乗客になり、かえって航空燃料需要が増加する、と言うようなことだ。このパラドックスは、これまでの世界の歴史では完全に該当した。エコポイントなどによる省エネタイプ製品への買い替え促進策も、このパラドックスを内包しているだけでなく、そもそも世の中の最大のエネルギー需要分野は、モノの製造とそれにかかわる輸送なので、既存機器の寿命前に新製品に買い替えれば、社会全体として省エネにならないという「買い替えのパラドックス」もある。
さらに、国全体のエネルギー原単位を改善しようとしてソフト経済化を追求すると、重厚長大産業は、安価だが環境負荷が大きい石炭依存の途上国に移転して、地球全体としてかえって温暖化効果ガスの排出量が増える可能性という「オフショア・ウェッジのパラドックス」も存在する。
このように、エネルギー問題をめぐっては、目先やイメージ的には良さそうなオプションであっても、中長期的、ないし社会全体としては、逆の結果になったり、無効化される可能性が常にある。エネルギーというのは、社会の根底を支える事柄であり、常に長期・複雑な性格を持つので、眼光紙背に徹する洞察力が必要なだけでなく、結果が狙い通りにならないかもしれないとの謙虚さが、エネルギーの問題を考えるには必要だろう。
石井 彰 エネルギー・環境問題研究所代表
1950年生まれ。エネルギー・環境問題研究所代表。上智大卒。日本経済新聞記者を経て、石油公団に入団。ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所所長などを歴任し、現在石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)上席客員研究員。著書に「エネルギー論争の盲点:天然ガスと分散型が日本を救う」「石油資源の行方」など
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