気候変動問題 (2013/09/12) | |
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米国のオバマ大統領は、6月25日に気候変動問題について演説し、気候変動は人為的な原因ではないと主張する人々を批判し、新設火力発電所に対して設けられているCO2排出基準を稼働中の火力発電所にも適用することなど、温室効果ガス削減に向けて積極的な姿勢を示した。提案された気候変動対策では、2020年までに05年比でCO2排出量を17%削減することを目標とする。これまで米国は、経済や雇用への影響を懸念する声が強く、拘束力のある削減目標を設定することはできなかった。京都議定書にも批准せず、12年までの削減目標の義務を負わなかった。09年1月に発足したオバマ政権の下で、09年6月に、05年比で20年までに17%、50年までに80%削減を目標とする気候変動対策法が下院を通過したものの、上院での審議が難航し廃案となった後は、気候変動対策の議論は下火となっていた。 最近オバマ大統領が気候変動問題に積極的な姿勢を示した背景には、シェールガスが安価で大量に生産できるようになったことがある。また、温室効果ガスも連邦大気浄化法による規制対象になるという環境保護庁の判定に基づき、議会の承認を得ず、CO2排出規制が可能となったことも背景として挙げられる。 発電部門からのCO2排出は米国全体の3分の1を占めているが、石炭火力を廃止しガス火力を増大させることで、CO2の削減は容易になったといえるだろう。シェールガスのおかげで、米国では、CO2削減による経済や雇用への大きな負の影響を懸念する必要はなくなってきている。すでに、発電部門での石炭火力のシェアは、08年の49%から12年の38%に減じている。 欧米では、自国の経済に不利な影響が生じても、理念に基づき気候変動政策が展開されることはない。EUも20年までに再生可能エネルギーのシェア20%,CO2排出量20%削減およびエネルギー利用効率20%向上という野心的な目標を掲げている。ただしその背景には,ロシアへの化石燃料の依存度を低下させるという政治的意図がある。EUにおける石油の輸入依存度は80%強、ガスの輸入依存度は約60%であるが、輸入されるガスの半分、また石油の3分の1はロシアからのものである。EUでは,気候変動問題はエネルギー・セキュリティの問題と密接に関連している。 わが国では、現在、今年11月にポーランドで開催される第19回気候変動枠組条約締約国会議に向けて、20年までの削減目標に関しての議論が行われているが、理念先行ではなく、国益をしっかりと踏まえた上で議論してもらいたいものだ。 著者:矢島 正之 慶應義塾大学大学院特別招聘教授 1947年 生まれ 国際基督教大学大学院卒、電力中央研究所に入所。現在、同研究所研究顧問、学習院大学経済学部特別客員教授。 専門は公益 事業論、電気事業経営論。著書に、「電力自由化」「世界の電力ビッグバン」「電力改革」など |
エネルギーフォーラム コラム 9月12日号
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