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労働環境や待遇の改善を目指してキックボクシングに「選手組合」ができる!? 世界の強豪と渡り合える数少ない日本人キックボクサーとしてK-1MAXなどで活躍し、昨年引退した佐藤嘉洋氏がウェブを中心に展開していた「日本キックボクシング選手協会」がそれだ。選手の移籍や引き抜き、喧嘩別れなど、場外乱闘が絶えないプロレス格闘技界。選手が試合に専念しやすい場をつくるために佐藤氏は何を考え行動に移したのか――。







――DropkickメルマガのユーザーはプロレスMMAファン中心なんですが、佐藤さんがWebなどで発信されている『日本キックボクシング選手協会』の発足についてはかなり関心があると思うんですね。

佐藤 えっ、どういうことですか?(笑)。

――長年にわたり団体やイベントの隆盛や衰退を見続けてきてるので、システム刷新や組織論に興味があるというか。

佐藤 あー、なるほど。だったら皆さんも協力してくださいよ!

――協力なんてとんでもない! IGFの今後に興味があるような、すさんだ人間しか読んでいないので到底無理です(笑)。

佐藤 いやいや、始まったばかりの試みなので、ちょっとでも力になっていただければありがたいですから。

――そもそも佐藤さんはどういう組織を目指そうとしてるんですか?

佐藤 わかりやすく言うと、いわゆる選手組合に近いかたちだと思ってます。ただ、一般的な会社の労働組合のイメージからすると、社員が「ギャラを上げろ!」と主張して会社と闘うような場だと思われがちですよね。ボクはジム・団体と選手を敵対させるつもりはまったくないですし、キック界はまだそれ以前の問題にあるというか。選手とジム・団体がお互いに納得できるような基本的なルールを整備したいだけなんですよね。

──厳しい言い方をすると、現在のキックは基本的なルールすら設定されていないということですか?

佐藤 じつはそうなんです。ひょっとしたら、短期的に見たらジム・団体にデメリットが生じるのかもしれないですけど、長期的に見たらほぼ100%プラスになる話だと思うんで。それに、ちゃんとした考え方で運営しているジム・団体にとっては「当然のことでしょ」ということをやろうとしているだけだし、もし短期的にデメリットを被るジム・団体があるとしたら、そこはまともじゃないところですよ(キッパリ)。

──プレッシャーかけますね(笑)。でも、そういう厳しい状況が現実的にあるからこそ、組合的な組織をつくって改善しようということなんですね。

佐藤 いまのキックボクサーの環境というのは、本当に低いところにあるんです。だから、それをちょっとでも引き上げられれば、キックボクシング自体が全体的にアップすると思っているんですよね。もちろん、興行もやっぱりビジネスだから、黒字を出してもらわないと選手も困るし、現状の興行収益とか規模を考えると、「専業でやれるギャラを払え!」というような要求は間違っていると思います。そこで基本的にボクが整備したいのは3点なんです。

──まず3つ。

佐藤 一つは「選手に払うべきファイトマネーはきちんと選手に渡す」ということ。

──うーむ。

佐藤 当たり前のことなんですけどね(笑)。たとえば、ファイトマネーというのは、基本的にジムと選手が山分けをするわけじゃないですか。そのパーセンテージは団体によって違いますけど、本来もらうべきパーセンテージ以上にジムがもらっているケースがあったりとか。

──佐藤選手も現役時代にそういうイヤな体験をされたんですか?

佐藤 いや、自分が所属していたジムは、お金にはもの凄くクリーンだったんですよ。で、ボクはそれが当然のことだと思っていたんですけど、そしたらあんまり当然じゃないケースもあるみたいで……。それに、激励賞もジムが取っちゃう場合があるという。それが2つ目ですね。

──選手に渡さないと!

佐藤 皆さんも、試合前に激励賞として金一封が選手に渡されている光景を目にすると思うんです。それは支援者が選手に対して渡しているお金なんですけど、それなのに、ジムが取り上げてしまうというケースもあるんです。ボクは『Hoost Cup』という大会に出たことがあるんですけど、そこは激励賞の中身を抜いたカラの封筒をリング上でもらうんですよね。で、「なんで中身を抜くんだろうな?」と思っていたら、あとで中のお金がちゃんと本人に渡るように、主催者が防止策としてやってくれてたんです。

──あー、あとでジムと選手のトラブルになっても主催者は介入できない。だったら事前に防止策を打っておこうという気配りなんですね。

佐藤 カラの封筒をリング上でもらうなんて、悲しいことではありますけどね。でも、当然のことが当然と行われていないケースもあるみたいで。そして3つ目は、「ジム・団体はきちんと選手と契約書を交わすこと」です。聞くところによると、試合の契約書を見たことがない選手もけっこういるみたいなんですよ。

──多くの選手は、入会したジムでプロデビューするわけじゃないですか。そこではあらためて契約書を交わすわけじゃないけど、選手の保有権は、そのジムがなんとなく持っているというのが一般的なんですよね?

佐藤 そうです。で、弁護士に聞いてみたら、書面じゃなくて口頭でも、一応契約は成立するみたいなんですよね。でも、口頭であれば、どうにでも曲解できますし、お互いが都合のいいことが主張できますから。

──それはトラブルの元になりますね……。

佐藤 じつは一昨日、協会発足に向けた第1回の会合をして、いろいろ意見を出し合ったんですけど。結局、契約書一枚で解決することがかなり多いんですよ。だから、まずは選手との契約のあり方をしっかり考えたほうがいいんじゃないかな、と。なんか、聞くところによると、PRIDEでもわりと口頭での契約が多かったみたいですね。

──そういう話は聞きますね。

佐藤 何千万円というファイトマネーが発生する試合でも、口頭でやってたケースがあったみたいで。だから、PRIDEもK-1もイベントとしてはトップにいきましたけど、スポーツマネジメントという点では、まだまだ低いレベルにあったのかなと思いました。

──トラブルの理由でいえば、選手が他団体に出るときや、ほかのジムに移籍するときの契約ですよね。キックボクシングは、ジム移籍が難しいイメージがあります。

佐藤 キックボクシング業界は村社会的なところがあるので、契約書を交わしていない現状としては、個人的感情がもの凄く大きく作用していると思います。「あの団体の○○が嫌いだから、あの選手を使いたくない」「話し合いをしたくない」とか。すべてとは言わないですけど、ビジネスよりも個人的感情のほうが大きく動いているところが垣間みれるというか。だから、そのためにもやっぱり書面って大事だなと思っていて。ボクがK-1MAXと契約していたときのような、公的に通用する契約書を通例にすべきだと思っています。

──契約書がない以上、極端な話、選手とジム・団体とは、心のつながりしかないですもんね。

佐藤 こういう話を持ち出すと、「ウチと選手は信頼関係で結ばれているから必要ない」と言う人も多いと思うんです。でも、信頼関係で結ばれているのは“いま”でしかないでしょ、と。たとえば、デビューしたてで、師匠に心酔している選手がいたとしても、やっぱりチャンピオンになっていろんな人と付き合うようになると、そのチャンピオンならではの景色が見えるだろうし、現状に対して疑問に思うこともきっと出てくると思うんですよ。

──そのときに感情のすれ違いが起こってくるわけですね。

佐藤 そこで書面も何もなくて感情だけで動いていると、そりゃトラブルになりますよね。もし契約書があれば、ジム側は「あなたとは何年契約で結ばれているので、それを破棄していくのであれば、違約金を払ってください」となるじゃないですか。選手に対しても「これだけ契約が残っているから、この期間は頑張ってやっていこう」という抑止力になるだろうし。そういうことを話していると、結局紙一枚でなんとかなることがもの凄く多いんです。

──たとえば、契約の書類というのは、どのくらいの枚数になるんですか?

佐藤 いや、ホント数枚ですよ。ボクのK-1MAXの試合契約も、そんなに分厚い契約書ではなかったですから。どんなことが書いてあるかは、守秘義務があるんで言っちゃいけないんですけど、本当に数枚。で、会合で意見が出たのは、おそらくジムの会長とかは契約書をつくるノウハウがないんじゃないか、と。だから契約書のひな形をつくってしまおうということだったんですよね。

――組合からジム側に方法論を提案してあげるんですね。

佐藤 ボクシング業界ではそういうのがあるみたいなんで、それを参考にしながら、数字や名前の部分だけ書けばいいひな形をつくればいいね、と。

──ただ、そういうものを提出されただけで態度を固くするジムもありそうですよね。

佐藤 たしかに一方的にやるとそれはトラブルになっちゃいますよね。でも、ボクはジムに対してもメリットをたくさん探したいと思っていて。というのも、最近はわりとそういう移籍問題が起こっているじゃないですか。

──移籍問題も野球やサッカーのように、きちんとビジネスになっているジャンルの場合は当たり前の出来事ですし。団体間の移籍ですけど、MMAがビジネスになっているUFCではフリーエージェントの権利をファイターが主張できます。

佐藤 サッカーだって、ある種の“人身売買”ですけど、ある意味参考にするべきだと思うんですよ。チームだって「いかにコイツを高く売ってやろうか」という感じで育てている面もあるわけじゃないですか。ボク自身は、最初から最後まで同じジムでしたけど、もうちょっとそれが緩和されてもいいんじゃないかなって。そうじゃないヤツがトラブルで干されるのはおかしいし、ボクはもっと多様性があっていいと思うんですよね。

──そこは「師匠と弟子」という概念から脱却しないと、ちょっとそれはできないかもしれないですよね。

佐藤 いや、それはそれで、あってもいいんですよ。でも違うモデルケースはすべて排除するというのが違うと思うんです。たとえば、性格も悪くて、コミュニケーション能力もないけど、もの凄い天才で、少なくともファンは魅了されている。そういうヤツを排除してしまうのかという話ですよね。で、ボクはスポーツの定義ってすべて一緒だと思っていて、その競技における能力が極めて高いのであれば、べつにそいつの人間性はどうでもいいんじゃねえかなって。その人間性に惹かれるかどうかは、ファンの勝手ですから。だから、バシッと紙で数字を決めておいたほうが、お互いのためになると思うんですよ。

──いまのままだとトラブルが起きると、選手を解放しないジム側が悪者扱いされがちですね。

佐藤
 ジムの言いぶんも充分わかるんですよ。こんだけ手塩にかけて育てた選手を、ほかのジムにパッと取られて試合されたら、それはたまらんという気持ちはあると思うんですけど、だったらそのぶん移籍金というかたちでお金をもらう、と。お金の問題じゃないと言うでしょうけど、裏切られて0円より、裏切られて300万円もらえたほうが、気は晴れるじゃないですか。

──たとえば、選手にとっては、そこのジムに残りたいけど、ジムによって出られるイベントが限られてしまうケースもありますよね。

佐藤 まさに、その状況にある選手が一昨日の会合に来たんです。

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