UFCに日本人選手を送り込むマネジメントといえば、シュウ・ヒラタ氏が有名だが、今回の「スペシャルトーク」に登場する石井史彦氏も腕利きのひとりである。現地在住でシーザー・グレイシーアカデミーやAKAなど幅広いネットワークを持ち、情報収集に余念がなく、熱心なロビー活動により電撃的に参戦が決まった日本人選手も数多い。そんな石井氏に「至近距離から見た北米MMA」の真実を語ってもらった。
やはりアメリカの契約社会を理解してないといけません。ファイトビジネスは「試合に勝てばいいんだ」という考え方だけではダメなんですけど、選手はキャンプや試合に集中したほうがいいから、そこはボクたちがサポートする。
――石井さんがマネジメントしている選手はどなたになるんですか?
石井 いまUFC、 ONE FC、 ROAD FCと契約しているKID選手、堀口恭司、朴光哲、徳留一樹、ストラッサー起一、福田力、BJ(小島伸一)、手塚基伸選手たちですね。ほかにも数名海外のプロモーターに提案をしている選手がいます。
ーーそんなに担当していたら、ずいぶんと稼いでるんじゃないかですか(笑)。
石井 いやいや、そんなことはないです(苦笑)。ご存知だと思いますけど、いくらUFCと言ってもPPVマッチじゃないとファイトマネーは10万ドルは超えないですし、マネジメント料として3~5割も取ってるなら、話はべつですけど。たとえばファイターが億稼ぐようになったら、マネジメントも職業として成り立ってると言えると思うんですけど。ボクがマネジメントしている選手はまだ前座の試合じゃないですか。早くチャンピオンになってもっと稼いでもらいたいです(笑)
――今後UFCがアジア市場に積極的に進出するということでマネジメントの状況は変わってくると思いますか?
石井 そもそも日本人選手って海外団体に対してもそうなんですが、マネジメントに対する認識が外国人選手とはちょっと違うのではと感じます。
――といいますと?
石井 こういう言い方をすると怒られるかもしれませんが、事情をよくわかってないと思うんです。たとえば日本だと「UFCに出ても儲からない」という言い方をされる方がいるようですが、いやいや全然稼げますよ、と。ただし「勝てば」の話ですが。
――要は強い奴が稼げる場だ、と。たしかに勝てばファイトマネーは倍になりますね。
石井 そうなんです。そこはべつにどんな職業でも同じじゃないですか。その仕事のスキルが低かったら稼げないわけで、格闘技なら強い奴が優遇されるんですよ。たとえばギルバート・メレンデスのファイトマネーは20万ドルと報道されていますが、UFCのライト級ではトップクラスですよね?
――たしかウィンボーナスなしの契約ですが破格ですよね。
石井 それは彼がストライクフォースで勝ち続けたからいきなり破格の契約を結べたんです。あとボクがマネジメントしている堀口選手のファイトマネーも公開されていますが、それとはべつにスポンサーからも収入を得てますし、一回の試合で百万単位のファイトマネーを手にすることってUFC以外では相当厳しいと思うんですよね。
――三賞ボーナスも5万ドル近くもらえたりするわけですからね。
石井 それに今後勝ち続けてメインカードに昇格すれば、契約内容も当然変わりますし、どんどん条件は良くなります。そうやってファイターが安心して闘っていける環境を作るのが我々マネジメントの仕事になるんですね。
――一般的には試合交渉が主な目的に見えがちな職業ですね。
石井 それだけならマネジメントの意味がないですし、選手の中には「なんでマネジメントにお金を払わないといけないの?」と思う人もいるでしょう。そこはマネジメントの価値をどう見るかということです。ボクの場合だと選手や友人から頼まれたらマネジメントしますけど、こちらから積極的にリクルートするというかたちはまったく考えてないですね。無理にビジネスにしたことでお互いが嫌な思いはしたくないですし。
――すべて任せてくれる選手なら、ということですね。
石井 たとえば福田選手の場合はAKAで知り合って「じゃあUFCを目指そう!」という軽い話から始まってるんです。そこで彼がボクを信じてくれてたのかどうかはわからないですけど(笑)、その流れでマネジメントをするようになって。そうしたら福田選手の繋がりから徳さん(KID)から「UFCと話をしてくれないか」と相談があって。
――福田選手とKID選手は大学レスリング部の先輩後輩の間柄ですね。
石井 試合交渉だけならマネジメントとはいえないと思うんです。たとえば税金。よく「アメリカだとファイトマネーから30パーセントも取られて大して残らない」と言う選手もいますが、ちゃんと手続きを踏めばそんなに取られませんよ。凄くもったいない。
――選手の皆さん、いますぐ石井さんに相談しましょう(笑)。
石井 ボクやシュウ(・ヒラタ)さんはアメリカに住んでるから向こうの税制の理解があるんですが、それでも「知らないこと」は数多くあってそこはズッファから教えてもらったりしてるんです。で、ズッファが言うには、ボクとシュウさんが担当する日本人選手しか使ってない制度もあったりしますからね。
――では、選手も知らないことだらけになるんでしょうね。
石井 やはりアメリカの契約社会を理解してないといけません。ファイトビジネスは「試合に勝てばいいんだ」という考え方だけではダメなんですけど、選手はキャンプや試合に集中したほうがいいから、そこはボクたちがサポートする。試合の交渉から始まって、税金、医療、すべてを引っ括めてのマネジメントなんです。だから、選手とイベントのあいだに入って、お金をただ搾取していると勘違いしないでほしいんですよね(苦笑)。
――では、そこの誤解が少しでも解けるようなお話をお願いします(笑)。今日はUFCのイベント開催前後の動きを教えていただきたいです。
石井 わかりました。まずUFCの場合は試合5日前に現地入りするんですね。最寄りの空港へ着いたらUFCのスタッフが車でピックアップしてくれるんですよ。
――選手に帯同するセコンドの旅費はUFCが持つんですよね?
石井 それは選手の契約内容によって変わってくるんですけど、基本的に最初の契約で無条件でついてくるのは選手1人にコーナー1人の経費ですね。ホテルは一部屋。タイトルマッチになると二部屋、コナーも2人と変わってくるんですけど。そこは契約社会なのですべてのことは言えないんですよ。あとはマネジメント会社やスポンサーが部屋を取ってくれるケースもありますし。それでホテルに着いたらまず体重をチェックさせられるんです。やはり試合5日前ですから4日後にウエイトイン(公開計量)があるわけじゃないですか。その時点で体重がかなりオーバーしてるようだとワー二ングが出るんですよ。
――事前に注意喚起されるわけですね。
石井 体重オーバーで試合が飛んだから大変ですからね。それが終わるとすべての書類の確認になります。まずバウトアグリーメントと言いまして、つまり試合契約書ですね。それはズッファとのあいだでは取り決めてあるんですけど、コミッションも交えた三者間契約を交わすんです。UFCはすべてアスレチックコミッションの認可のもと試合を行なうわけなので、同時にファイター、そしてコーナーマンのライセンスの確認も行なわれます。
――つまりコーナーに付くにはライセンスを取得しないといけないんですね。
石井 日本人選手の場合、どうしても初めて試合をする州が多いですから、MMAライセンスやコーナーライセンスを申請しないといけないんですよ。その有効期限は一年間。ちなみに日本やシンガポールにはコミッションがないですから、そうしますとUFCはグロバールライセンスと言うんですけど、ネバタ州のコミッションに準拠してライセンスを発行するんです。
――今回UFCシンガポール大会でライセンスを取った人は2014年内の一年間、マカオや日本であるとかコミッションがない地域で有効になるわけですね。
石井 細かいことをいうとライセンス料もかかるわけですね。州によって値段が違ったりするわけですが、グロバールは無料だったはずでネバタ州は25ドル、コーナーは50ドルとか。そして、もうひとつの重要なのは保険の契約書です。当然ながらケガしたらズッファがお金を払ってくれるということと、それが何日後までに申請すればいいのか。あと個人情報の開示に関する書類。ケガをした場合、ズッファの持ってる個人情報を医者に提示しますよという書類にサインさせられるんですね。そして、先ほども話しに出た税金等の書類のサインですね。それがひとつのパッケージになっていてサインさせられるんです。
――……この段階でマネジメントの必要性を感じますね(笑)。
石井 話はまだ始まったばかりですよ(笑)。<パート2はコチラ>
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