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【全文公開】真剣30代格闘家鼎談〜川尻達也×大沢ケンジ×戸井田カツヤ〜<後編>

2013/10/28 14:53 投稿

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川尻達也、ついにUFCと契約!……というわけで、格闘家・川尻の頭の中を探るべく、昨年7月に行なわれた大沢ケンジ選手、戸井田カツヤ氏たちとの鼎談をここに再掲載いたします。格闘家たちが何を考えどう闘いぬいているのか? 格闘技界きっての頭脳派たちの超わかりやすい“やる側”トークの後半戦!(聞き手/橋本宗洋)

※前編はコチラです

――トイカツさんはファイトスタイルの転機ってどこかありますか?

戸井田 ちょっとやられてるんでね、最近ね。

大沢 もっとトリッキーにやりゃあいいんじゃないの?

戸井田 最初の頃はトリッキーに動いていたんですよ。そこから普通に打撃をやるようになって、普通のMMAの闘い方になってますよ。

川尻 いまはしっかり上を取って勝負するようになりましたよね。

戸井田 そういう感じだったんだけど、そこは普通にやるんじゃなくて、一本を取ることをもっと考えようと思ってね。昔みたいに。

大沢 自分の特性をよく知って、自分の長所を活かしたスタイルにしていくという。

川尻 やっぱり打撃はセンスじゃないですか。自分もそのセンスがないって思いますもん。だから試合で打撃でも渡り合えるようにしっかりやるけど、それを主力の武器にするべきじゃないなって。現に打ち合うときは戦績が良くないし。

大沢 だから現在のMMAは上を取ることが必須みたいになっていますけど、それもまた向き不向きで自分で考えなきゃいけないって感じなのかな。

戸井田 そこはしっかり向き合わないとね。上を取ることだけ意識しているとなかなか難しいから、菊野(克紀)戦の北岡くんみたいに潜ってスイープしてもいいわけだし。
大沢 考えを固めないほうがいいかもしれないですよね。柔軟性がないと新たな発想が見つけられないっていうか。

川尻 そうですね。若いときなんか、とりあえずかっこよく勝ちたいだけしか考えてなかったじゃないですか。そうなると殴りあうしかないし、グラウンドならパウンドを期待されるけど、いまグラウンドで殴れなくないですか?

戸井田 無理だよね。殴ったらすぐ立たれるから。

川尻 そうなんですよ。強く殴るためにはスペースが必要で、そのスペースを作るといまの選手はみんな立ってくるじゃないですか。そうなると固めてコツコツ殴るしかないですよね。

戸井田 「殴る」って崩すための技術だよね。相手を動かしたいときは使うけど、ダメージを与えるのはなかなかもう……。倒れたところを追い打ちでKOとかあるけど。

大沢 でも、昔は「立つ」っていう発想がなかったでしょ。寝技になったら寝技をやるって発想。

川尻 パウンド自体も昔はなかったですね。慧舟會のA3ジムに出稽古に行かしてもらってたとき、寝技じゃみんな凄く強くて、ボクはまったく敵わなかったですけど。パウンドありで寝技をやると逆なんですよ。もうバンバン殴ることができて。ボクがパウンドありきの寝技をずっとやってきた差なんでしょうけど。

戸井田 当時の慧舟會はヒザ立ちの寝技練習しかしてなかったからね。

川尻 しばらくしたらパウンドありの寝技も対応してきましたけど。そんな中でも井上カレリン(井上克也)さんはあの頃から下になったらすぐ立つことを意識してましたよね。

大沢 ノッチ(井上のあだ名)はそういう発想が昔からあった。だからそうやって技術は進化していくし、いまの「立つ」じゃないけど流行の技術みたいものもあるよね。俺、いま壁際に立たせてからの練習をよくやってるんですけど、それも岡見がソネンのところで教わって慧舟會のプロ練に取り入れて。岡見が言うには「ソネンはクリンチアッパーだけでも相当の種類を持ってるんですよ」と言ってて。あと岡見と一緒にクエストに行った磯野(元)さんが言うには、日本と同じく向こうも基本的にスパーリングが多いんですけど、ソネンは相当の数の打ち込みもやってるっていうんですよね。

――打ち込みっていうのは技の反復練習ですね。

大沢 はい。日本っていつもスパーリングばっかだから、いつもだいたい自分の形になるわけですよ。そうすると全然知らない相手と寝技をやったときに対応がしずらい。たとえばボクが川尻くんとスパーすると「川尻くんはヒールねえだろ」って感じでやるでしょ。

川尻 まあヒールはないですよね(笑)。

大沢 それだと試合になったときにどこまでヒールに対応していいかわからなくなるんだよね。自分が知ってる、知らない、相手ができるできないじゃなくて、いろんな技をとりあえず体感としておけば、実戦でどこまで過敏に反応しなくちゃいけないのかがわかるようになる。ソネンはオモプラッタなんて試合で絶対に使わないのに打ち込み練習をしてるみたいなんですよ。

川尻 使わないものを知っとくって大事ですよね。

――やっぱり国によって練習スタイルの違いだったりとかあるんですか? 

大沢
 日本人は細かく考えられる強みはすげえあると思うんですよ。海外の連中は手首の向きがどうとかは細かく考えてない。だから日本人選手の技術の精度は高いです。だけど自分の得意なところばっか走っているから、 ちょっと道をそれた瞬間にパニックになると思うんですよね。

川尻 そういう人、けっこういますよね。自分の得意パターンでしか闘えない。ボクは出稽古や普段のスパーでも、相手の攻撃を潰さないようにして受けたうえで返すようにしてるんです。受ける前に潰しちゃうと、もし試合で潰せなかったときに危険じゃないですか。

大沢 それ、オレもわかる。

川尻 で、そのうえで上回れるような練習をしといて。試合になったらもう相手のパターンにさせずに全部、潰していくようにするんですけど、けっこう逆の人いますよね。練習では相手の得意なところを完封するけど、試合になったらほかのところから崩されて思うように力を発揮できないみたいな。

大沢 ボクの場合は寝技がそんなに強くないんで、出稽古に行くとだいたいやられる。だから逃げる技術だけはけっこうあると思います。

川尻 ボクもそうですよ。普通にやられますよ。だから危機管理能力が上がりますよね。あと自分が攻めるときにマネしたりとか。その繰り返しでどんどん上達していきますよね。

戸井田 じゃあ、オレが独特の寝技トレーニングをひとつだけ。ビギナーとスパーリングするときに自分が極める技を指定させるんですよ。

川尻 ああ、なるほど!

戸井田 たとえば「三角締め」とか、向こうが知ってる技でオレが滅多に使わなそうな技を指定するんです。オレはそれが不得意だけども、なんとか極めようとする。

川尻 そしたらビギナーにとってもいい練習になりますね。三角を取られないために意識をしながら動くから。

戸井田 お互い凄くいい練習になるんだよね。それはおもしろいから今度やってみればいい。

大沢 そういう練習は重要だよね。日本人はね、ホントに得意なところしか走れないケースが多いから。

川尻 職人系、多くないですか、日本のMMAの強い選手って。突き詰める人が多いですよね。

大沢 で、アメリカはとにかく目的地までどうやって近づくかみたいな感じだよね。タックルで倒れなかったら「もういいや!!」って次に進む。

戸井田 切り替えが早いんですよ。いい意味で考えてないんじゃないの。

川尻 ですね。「勝つためのこと」しか考えてないですよね。

戸井田 あと日本人は打撃、レスリング、寝技って分けて考えちゃってるけど、向こうは分けないでしょ?

大沢
 分けない。それでオレが思ったのが、ブラジルって全部、分けたうえでどれも凄くない? 

川尻 ああ、そうかもしれないですね。

大沢 打撃はきれいな打ち方で、タックルを積極的にいくヤツは少ない。だけど寝技になったら凄く強いみたいな。ブラジルはひとつひとつを全部きっちりやってる印象ですね。

川尻 繋ぎとかじゃないっていう。

大沢 うん、一個一個を凄くしっかりやっているって感じかな。柔術家で打撃がヘタだったヤツも、時間が経ってくるとすげえきれいな打撃になっていくんですよ。

川尻 ビビアーノ(・フェルナンデス)も打撃がうまくなってますよね。

大沢 日本人は得意なパターンを磨いて磨いて、そこにハマったら強いけど、ちょっとでもパターンから逸れると無理みたいな。いま日本人はそんなに成績を残してないからあんまりいスタイルではないような気がしますね。もうちょい幅を広げていかないとダメなのかなって。

戸井田 日本人選手のフィジカルはどうなんだろうな。

川尻 そこは“使い方”ですよね。ボクより力が強い人はいっぱいいるんですよ。ボクは試合では力ではあんまり勝負しないっていうか、組んだ瞬間にいかに相手に力を出させないで自分の力だけ出せるかってことを意識してるんで。自分が絶対に倒せるときしかフルパワーは使わないですよね。

――格闘技ってホント“頭脳労働”ですね。

大沢 いやホント考え方ですよ。ボクの打撃は、間合いの詰め方をパンチっぽく見えるようにするんですよ(笑)。そうするとボクが間合いを詰めただけでパンチへの対応をせざるを得ないくなる。それをちょっと早く反応させたりとか、いろいろ混乱させるような動きを入れるんですよ

――パンチを出さずに相手の精神を揺さぶるみたいな。っとくみたいな。

川尻 大沢さんとスパーすればわかりますよ(笑)。大沢さんに動かされてるようになりますよね。

大沢 そうそう。みんな最初の1分ぐらいは冷静なんですけど、だんだんちょっとずつハマっていくんですよ。

戸井田 前田吉郎も大塚(隆史)もハメられてるんだよな。

大沢 たぶん彼らはボクに負けた気してないと思うんですよ。

――大塚選手はそうとう愚痴ってたらしいですからね。相手のそういうコメントを聞くと術中にハマってくれたことで嬉しくなりますか?

大沢 「やっぱり伝わんなかったか!」とかですよ(笑)。

川尻
 ハハハハハ。

大沢 だって完全に試合をコントロールしてるのに試合後「なんでこいつはそんなに落ち込んでないんだ?」みたいなときがあるんですよ。

戸井田 相手どころかジャッジにも伝わってないときあるでしょ(笑)。

大沢
 そう! ボクはけっこうスプリット判定が多くて「え、負けてんだ!?」みたいな。吉郎や大塚戦のときも自分ではもう ちょっと攻められるんですけど、いまの状況だと完全にコントロールできているからリスクを背負いたくなくなってくるんで すよ。

――こうやってコントロールしているうちは絶対に負けないし。

大沢 それでいつも試合が終わったあとに「もっと行かないとダメだ」って思うんですよね。それをもう何回も繰り返してるんですもん。っていうことは直んないっていうことだね(笑)。

戸井田 俺は打撃のことはそんなにわからないけど、グラップラーに関して言うと、最初は目標は判定勝ちなんです。これは青木くんとも同じグラップラーとしていろいろ話しているといろいろ共通する部分があって、一本勝ちはあくまで結果っていうか、ご褒美。まず上をとって固めて3ラウンド、キープし続 ける。そうしてるうちに相手に「負ける」っていう焦りから隙が出てきて、その結果として一本が取れるんですよね。

川尻 ボクもいまはそうですね。

戸井田 だからとりあえずは上に取って判定勝ちっていう。相手がずっと焦らずにそのまま下にいたらそのまま判定勝ちになるし、相手が「動かなきゃ」って大きく動いてくれると隙が生まれて一本が取れるんですよ。

川尻 判定勝ちを狙ったほうが一本取れますよね。最初から狙うより。

戸井田 取れる。そこはグラップリングと違うんですよ。グラップリングはガツガツ行くと取れちゃうんですよ。でも総合の場合は相手の動きを待った結果として取れるんですよ。それがわかるようになったのが、やっぱり30過ぎてからですね。

――そういう部分で、見る側とは温度差を感じたりしますか?

戸井田 大沢のやっていることは全然伝わらないですよね(笑)。川尻くんのテイクダウンして抑え込んでることも、相当凄いことをやっているんですけどね。

川尻 ああ、そこは伝わらなくてもしょうがないなと思いますけどね。だって、やってる人じゃなきゃわかんないっすもん。

戸井田 だからピークの頃に技術番組みたいのをやって、抑え込で固めていることがどれだけ凄いんだってことを勉強させてほしかったですね。

大沢 それはね、絶対に伝わらないし、言ってもしょうがないことであって。アメリカでも寝技にはブーイングが起こるんだから。あれだけMMAが流行っている国でそういうことが起こるんだから、そこはもうやっている側の満足で。

川尻 理解してもらおうと思ったらダメですよね。

大沢 うん。

戸井田 それってボクシングでいえばなんだろうね。

大沢 ボクシングだと遠い距離からジャブだけ突いてるヤツにはブーイングが起きるでしょ。それって凄い技術なんだけど、結局、スターになるのはタイソンとかパッキャオみたいなタイプだからね。総合でもスターになるやつはそういう感じじゃない。常に勝負するっていうか。

戸井田 五味みたいにわかりやすい選手だよね。

大沢 ボクも最初はそういうわかりやすい選手に憧れていましたもん。

川尻 
オレも(笑)。やっぱりかっこいいファイターになりたいじゃないですか。気持ちよく勝ちたいっていうか、打撃ってとくにすっきりしやすいですもん。

戸井田 まあたしかにウルトラマンが抑え込みで勝っちゃったら絵にならないよね(笑)。

大沢 本当はスペシウム光線で勝ちたいんだけど、ちょっとずつちょっとずつ諦めて現実的なほうに行くんですよ。

川尻 自分でいろいろと経験して「俺、こういうスタイルは合ってないんだなあ」とか考えて。

大沢 時々スペシウム光線をバンバン出せるヤツがいるんですよ。理想と現実が合致する選手。それはもうね、持って生まれたものだからホントに羨ましい人ですよね。

――そのミラクルな選手って誰になるんですかね。

戸井田 いっとき五味。いまだとアンデウソンじゃないの。結果としてそこの境地にいったんだろうね。「こうやったほうがKOしちゃえるしラクじゃねえか」ってやってるうちに。

大沢 技術的なことはわかるわけじゃないですけど、アンデウソンとボクの考えてることは似てると思うんです。俺、練習だとアンデウソンだからね!(笑)。

――練習のアンデウソン(笑)。

川尻 ハハハハハハ! でもアンデウソンの動きってスパーみたいですよね。プロと一般の会員さんがやってるような感じ。それをなんであのレベルでできるのか。

大沢 いろんなことをやって相手の気を紛らわせて、相手の意識が行っていないところを突く。「よく試合中にそれやれんな」みたいな。相手としたら相手が一定の構えじゃなかったら、やりづらいと思うんですよね。

川尻 
違う選手と闘ってるようなもんですよね。

大沢 そう。1試合のなかでいろんな選手とやってるような感じにさせられる。

川尻 5Rだからできるというのもありますよね。アンデウソンって1Rと2Rは別人じゃないですか。アンデウソンって最初の1Rは相手との間合いを探るっていうか、そこまで全力でやらない。

大 沢 岡見が言うには、アンデウソンがステップを刻み始めたら手が付けられないって。その前に勝負しないと。ステップが始まったら「動きを見切られた!」みたいな(笑)。

戸井田 今回のソネン戦も2ラウンドでしょ。最後はソネンがバックブローを失敗してボディへのヒザが凄い効いちゃったんだろうけど、もう心が折れた感じだよな。効いた感じじゃなくて。

大沢 チェールの心を折るって、ハンパじゃないですよ。

戸井田 あそこでヒザを出す必要がないじゃん。反則のリスクがあるわけだから。普通だったらパンチだよね。

川尻 相手はパンチを意識してるけど、ヒザは意識してなかったから余計に効いたんですよね。

大沢 アンデウソンはパターンに癖がないよね。ああいう選手になれたらね。楽しくてしょうがないんじゃない?(笑)。

戸井田 しかし、どんな練習してるんだろう。どうなったらああなるの?

川尻 ミット打ちを見たら、けっこう普通ですよね。

戸井田 ブラジル人って、普通のミットだよね。

大沢 あれは技術的な練習より、メンタリティというか、ものの見方から生まれたんじゃないかな。サッカーでも「日常の練習でそんなことやる?」みたいなプレイをやったりするじゃないですか。ギリギリの状態で日本人がやらないようなトリックプレー。そういうことをやれる文化なんじゃないですかね。

川尻 ブラジル人に生まれないとダメなんですかね?(笑)。

大沢 でも、アンデウソンでも試合前は緊張してるから、おそらく最初から相手を飲んでないと思うん ですよ。勝てるか勝てないかわからないような状況のなかで、それを作りだせるメンタリティがあるんじゃないのかな。それを教えてほしいですよね。アンデウ ソンだって、最初は絶対緊張しているはずですよ。だから最初は見ていくんだと思うんです。

戸井田 そして一気に追い込める。

大沢 たぶんね、アンデウソンはいい言葉を持ってるんですよね。その言葉を聞いて、それを常々思えばああいうふうになれるんじゃないのかなあ。劇的に性格を変えてくれるような言葉を。

川尻 スイッチを押せる言葉が。

大沢 でも、たいしたことない言葉だったらガッカリするよな。「なんか気づかせてくれよ!」みたいなね(笑)。
――3人の言葉から格闘技が頭脳労働であることがわかりました!

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