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80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト
斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 
今回のテーマは
さらばストーンコールド、トリプルH、テイカー!! レッスルマニア38です!
 


Dropkick「斎藤文彦INTERVIEWS」バックナンバー


【お家騒動】シェイン・マクマホンがWWEをクビに?

AEWはWWEのライバルになりえるのか


■ドラマが現実化するプロレス版・星野源&新垣結衣は?




■ロード・ウォリアーズの衝撃

追悼! 佐山タイガー最大の難敵・初代ブラックタイガー

■全女消滅後の女子プロレス新世界

■木村花さんはドウェイン・ジョンソンのようなスーパースターになるはずだった

■女子プロレスの景色を変えた女帝・ブル中野

■マッハ文朱が女子プロレスというジャンルを変えた


■新日本プロレスの“ケニー・オメガ入国妨害事件”という陰謀論

■WWEvsAEW「水曜日テレビ戦争」の見方

■WWEペイジの伝記的映画『ファイティング・ファミリー』


AEWチャンピオンベルト盗難事件

■「ミスター・プロレス」ハーリー・レイスの偉大さを知ろう


■ウルティモ・ドラゴンの偉大なる功績を再検証する


■都市伝説的試合映像ブレット・ハートvsトム・マギー、ついに発掘される
 

【追悼・爆弾小僧】すべてはダイナマイト・キッドから始まった


■“怪物脳”に覚醒したケニー・オメガ


■怪物デイブ・メルツァーと『レスリング・オブザーバー』


■新日本プロレスのMSG侵攻は「WWE一強独裁」に何をもたらすのか


■怪物ブロック・レスナーを通して見えてくる「プロレスの作り方」


■追悼・マサ斎藤さん……献杯はカクテル「SAITO」で


■皇帝戦士ビッグバン・ベイダーよ、永遠に

■ジャイアント馬場夫人と親友サンマルチノ、2人の死――

■ベルトに届かず…されど「世界に届いた中邑真輔」のレッスルマニアを語ろう 

■ステファニー・マクマホン、幻想と現実の境界線がない生活

■ロンダ旋風、中邑&ASUKAダブル優勝!! ロイヤルランブル1万字総括

■アメリカンドリーム、ゴールダスト、コーディ……ローデス親子それぞれの物語

■ジェリコvsケニー実現で考える「アメリカから見たプロレスの国ニッポン」


■みんなが愛した美人マネージャー、エリザベス!

■職業は世界チャンピオン! リック・フレアー!!

■怪死、自殺、大事故……呪われた鉄の爪エリック一家の悲劇

■ミスターTからメイウェザーまで! WWEをメジャー化させたセレブリティマッチ

■WWEの最高傑作ジ・アンダーテイカー、リングを去る

■『1984年のUWF』はサイテーの本!
■伝説のプロレス番組『ギブUPまで待てない!!』 

■ジェイク“ザ・スネーク”ロバーツ…ヘビに人生を飲み込まれなかった男


■追悼ジミー・スヌーカ……スーパーフライの栄光と殺人疑惑

――
今月のテーマはWWE年間最大の祭典レッスルマニアです。

フミ 今大会で38回目の開催となるレッスルマニアは盛り上がりました。私事でたいへん恐縮ですが、新型コロナの時代になって2020年、2021年、2022年と3年連続でレッスルマニアの現地取材をミスってしまいました。

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現地取材があたりまえだったことが羨ましいです! コロナ情勢も変わってきていますから、来年は行けそうですかね。

フミ
 もう何がなんでも行こうと思っています。来年のレッスルマニアも4月1日と4月2日の2日間の日程でロサンゼルスのSoFiスタジアムで開催されます。

――
今回のレッスルマニアも仕掛けが盛りだくさんでしたね。

フミ
 レッスルマニアは毎年「史上最大」を煽っているんですが、今年は例年以上にそういう手法の宣伝になっていました。

――
ボジョレーヌーヴォー解禁の「ここ数年で一番のでき」なんて煽りじゃないですけど(笑)。

フミ
 今年のレッスルマニアには“ストゥーペンデスStupendous”というサブタイトルがつけられていた。ストゥーペンデスとはイタリア語由来の単語で「巨大な」「とてつもない」「驚くべき」「膨大な」「途方もない」という意味です。この単語がレッスルマニアのロゴの下にドカンと記されていました。

――
それくらいの意気込みのレッスルマニアだったんですね。

フミ 2日目のメインイベントのローマン・レインズvsブロック・レスナーは「レッスルマニア史上最大の決戦」と謳われていました。レッスルマニアのメインイベントといえば、もちろん史上最大の決戦ですが、WWEヘビー級王者のブロック・レスナーとユニバーサル王者のローマン・レインズの王座統一戦は、タイトルマッチのスケールとしても“史上最大の決戦”だからその看板に偽りはなかった。

――
そんなレッスルマニアの2日間なんですけども、その前日から見どころがあったそうですね。

フミ
 前日に“ホール・オブ・フェイム”、WWE殿堂入りの式典がありました。今年はジ・アンダーテイカー、ベイダー、スタイナー兄弟、シャーメル、“ウォリアー・アワード”部門でシャド・ガスパードの5組が殿堂入り。金曜夜の『スマックダウン』の枠を使ってのテレビ番組として2時間の作りになっていたんですが、後半1時間はアンダーテイカーが独り占めした。

――
さすがWWE最大のスーパースターのひとりですね。

フミ
 興味深かったのは、アンダーテイカーがいつもの“墓掘り人”のコスチュームではなく、髪の毛をまとめて後ろで結んで黒のスーツ姿で登場してきたことでした。いわゆる正装です。そしてマーク・キャラウェイ、ジ・アンダーテイカーと本名で紹介されました。アンダーテイカーは「レスト・イン・ピース」がキャッチフレーズの基本的にはあまり喋らないキャラクターなのですが、今回は「あれ、こんな地声だったんだ」とみんなが驚くくらい、マーク・キャラウェイの肉声で長いスピーチしました。

――
アンダーテイカーは誰もが知ってるけど、その声は聞いたことがない人が大半なんでしょうね。

フミ
 このセレモニーには毎年、殿堂入りするインダクティーを紹介するインダクターがそれぞれつくんです。数年前、スタン・ハンセンが殿堂入りしたときのインダクターはかつて死闘を繰り広げたベイダーだった。今回、リング上からテイカーさんを紹介したのは、ビンス・マクマホンでした。

――
最高級の待遇!

フミ
 あくまでも別格ということですね。まずビンス御大が出てきて、テイカーさんがこれまでレッスルマニアの大舞台で闘った20数名のWWEスーパースターズの名前をひとりずつリストアップしていったんですが、一度も噛まず、よどみなく、しかもかなり早口で全員を紹介したのはさすがビンスでした。そしてテイカーさんが登場すると、スピーチを始める前にアリーナ全体から「サンキュー、テイカー!!」という大コールが巻き起こったので、さすがのテイカーさんもちょっと涙くんで、声をつまらせてしまった。それでなかなかスピーチが始まらなかったんです。

――
墓掘人の目にも涙……。

フミ
 テイカーさんは「今日はアンダーテイカーとしてではなく、オレの声で本当のことをみんなに伝えていく」と前置きしてから、まず「アンダーテイカーをずっと演じるためには、3つの犠牲が必要だった」と語った。それはファミリー、ヘルス(健康)、プライバシー。この3つを犠牲にすることで“架空の人物”アンダーテイカーは成立していたということですね。

――
つまり普通の生活と引き換えに……ってことですね。

フミ
 テイカーさんはみずからの活動期間をレッスルマニア7(1991年)からレッスルマニア38(2022年)、つまり今回のHOFセレモニーまでというふうに数えていました。そのあいだのレッスルマニアにはほぼすべて出場していますからね(1994年、2000年の2大会は負傷のため欠場)。

――
それもすごいキャリアですね。

フミ
 2014年(レッスルマニア30)にブロック・レスナーに敗れるまでレッスルマニアで21連勝という前人未到の大記録を築きました。スピーチの中では自分が信頼する人たちとして、ステファニー・マクマホンとシェーン・マクマホン、親友だったゴッドファーザー、プライベートで仲の良かったブライアン“クラッシュ”アダムス、マネージャーだったポール・ベアラーらとの思い出を語った。そしてビンスについては「最初は自分のことをあまり買ってくれていなかったんだけど、アンダーテイカーのアイディアの実現に向けて、誰よりも尽力してくれたのはビンス自身だった」と語った。アンダーテイカーとして成功していくためには3つのモットーがあった。1つはパーセプション・イズ・リアリティPerception is Reality。「認識が現実だ」という言葉があって、どういうことかというと、自分が伝えたかったことがその通りに相手に伝わるとは限らない。しかし、みんながそう思ってくれたことが現実になる。それが現実なんだという意味ですね。アンダーテイカーがアンダーテイカーとして成立したのは、みなさんが自分のことをアンダーテイカーとして認識してくれたからで、だから自分もまたアンダーテイカーになることができたんだということですね。
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