パラエストラ千葉ネットワークの総帥、鶴屋浩インタビュー。扇久保博正、内藤のび太、浅倉カンナ……などの日本を代表するMMAファイターを輩出してきた秘訣を語ってもらった。
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――鶴屋先生が率いるパラエストラ千葉ネットワーク(柏・松戸・千葉)はトップファイターを次々に生み出していますね。
鶴屋 ありがとうございます。ようやく世間的にも名前が売れるようになったからか、最近は入会希望者も増えていますね。先日も愛知から電話があって「私、プロになりたいんです」と。22歳の女の子ですよ。
――そうやって地方からもプロ志望が集まっているんですね。
鶴屋 「明日来たい」ということで、その日のうちにアパートを見つけて。公務員をやめてこっちに出てくるみたいです。
――この時代に安定を捨てて格闘家を目指すとは!(笑)。
鶴屋 そんなことがあったと思ったら、今度は滋賀の男の子が「プロになりたいです」と。そうしたら別の愛知の子からも「プロになりたい」というメールがあって。なんでこんなに連絡があるのかといえば、じつはちょっと前にフェイスブックに「格闘家としてお世話しますよ」と書いたんです。それは仕事から何から含めて全部。
――それはつまり普段の生活から面倒を見るってことですね。
鶴屋 はい。ボクは1999年にジムを作ったので、この仕事は20年経つんですけれども、昔は夜にプロ練をやっているジムが多かったんですよ。でも、夜にプロ練をやるとガッチガチじゃないですか。一般の人が見学に来るけど、「こんな激しい練習はできるわけない」とビックリして帰っちゃう。いまは時代が変わって、夜は一般の方が楽しく練習できるクラスをやる。そして、いまプロが昼間に練習するというかたちになってますよね。ただウチで言うと、ずーっとガチガチでやっているから、プロで強い選手がいっぱい育つだけど、一般会員さんはなかなか入りづらかった。いまは1階が一般会員さん向けで、2階はプロ練と棲み分けはできてるんですけどね。そうかたちができる前は収入はジムから取るんじゃなくて、べつのところから取らなくちゃいけないなと。
――ジム経営以外の部分で稼ごうと?
鶴屋 そうです。格闘家の子たちって普段は大変な仕事をしているんですよね。たとえば引っ越しの仕事とか。そういう仕事をやりながら夜にプロ練をするのはけっこう厳しいじゃないですか。だから、その子たちに練習に集中できるような仕事を見つけてあげようと。いまパーソナルトレーニングのジムを2つ経営しているんですけど、そこで働いてもらったり、動物カフェもその1つに含まれていますかね。
――RIZINの煽りVでも紹介されたハリネズミカフェにも、じつはそういう戦略が隠されていたんですね(笑)。ティーカッププードルのカフェもやられていて。
あの名作煽りVは鶴屋先生が経営するハリネズミカフェから生まれた
鶴屋 「あれ? もしかしたら、これは仕事になるのか?」と思ってある程度考えて、「いける!」と思ったらボクはすぐに行動しちゃいますから。ただ、まあ、コロナの影響で2ヵ月ぐらいは店は閉めてましたけどね。
鶴屋 「あれ? もしかしたら、これは仕事になるのか?」と思ってある程度考えて、「いける!」と思ったらボクはすぐに行動しちゃいますから。ただ、まあ、コロナの影響で2ヵ月ぐらいは店は閉めてましたけどね。
――手広くやっているほどコロナの影響が……。
鶴屋 だんだん落ち着いてきてますけど。プロ志望をサポートする狙いも含めて事業展開してきたのはたしかです。
――鶴屋先生が展開されている会社では、何人ぐらいの格闘家が働かれているんですか?
鶴屋 まずウチには内弟子が3人いて、その内弟子はジムの指導などをやってます。あとは、たまに動物カフェに行ってもらったり、パーソナルトレーニングの仕事もしてもらったりで、まあ全部で6人ぐらいですかね。たとえば、船橋にもパーソナルトレーニングジムがあるんですけど、そこでは岡田遼と内藤頌貴の2人が入ってるんです。彼らにはそのジムの仕事を自由にやらせて、それ以外の時間は格闘技に専念できるようにしていますね。
――理想的な環境ですね。
鶴屋 いまって誰もが社会保険のある仕事を求めるじゃないですか。でも、社会保険がある仕事というのは、要するに朝から夕方までバッチリ仕事をしなくちゃいけない。そうなると、なかなか格闘技100パーセントはできないですよね。そのへんの悩みというのは、前からずっとありましたから。
――もちろん格闘技の練習は大切だけど、一方で生活の基盤をどう整えていくかと。
鶴屋 ボクも昔、治政館というキックボクシングジムに入ったときに、先生からは「プロになりたいんだったら、まずは環境を整えろ」と言われましたもん。でも、ちゃんと仕事をしている人ほど格闘技って厳しいですよ。世界チャンピオンを目指すのは難しい。おかしな話なんですけどね。でも、昼間に普通の仕事をしながらRIZINやONEのチャンピオンになるのは難しいと思います。
――だからこそ鶴屋先生がチャンピオンを目指せる環境を整備されていると。それで鶴屋先生の経歴を振り返りたいんですが、国際武道大学のご出身ですよね。
鶴屋 はい。4年間レスリングだけをやってました。大学を卒業後は消防士になるんですよ。消防士をやりながらアマチュア修斗の大会に出ていたんですけど、全日本アマ修斗で優勝したときも、ボクは朝の9時まで仕事をしてました。
――夜勤明けに修斗!
鶴屋 その大会がね、たしか綾瀬かどこかで近くだったから間に合ったんですよ。仕事終わりで急いで車を走らせて参加した覚えがありますね。でも、先ほどの話のとおり、それではなかなかプロにはなれないんですよね。そのジレンマはずっとありました。だから、7年ぐらい消防士としていろんな免許も取らせてもらって、消防署としては「これからこの人に現場で頑張ってもらおう」というときに「やめます」と。
――それはおもいきりましたねぇ。しかし、あの時代にシューティングに情熱を持つって相当のマニアですね(笑)。
鶴屋 ボク、昔からマニアなんですよ。シューティングに関しても大好きでしたから。その頃のボクは治政館でキックボクシングをやりながら、ちょっとだけPUREBRED大宮にも通ってました。でも、千葉からジムまで2時間ぐらいかかるんですけど、当時は練習場所に時間をかける人が多くて。山田学さんも栃木から東京まで数時間かけて通ったりしてたと聞きました
――当時は練習できる場所は限られてましたね。
鶴屋 そのときに中井祐樹さんと知り合って。格闘技界に全然知り合いがいなくて、話せる人は中井さんぐらいだったんですよ。
――その頃のPUREBREDって、どなたがいたんですか?
鶴屋 そのときは、まだ佐山(聡)先生がいました。
――佐山先生と中井さんがいた時代は、かなり貴重な空間ですね。
鶴屋 そのあとにエンセン(井上)さんが来て、ボクはエンセンさんの柔術クラスも受けたことはあります。
――となると、ちょうどシューティングにブラジリアン柔術の技術が入り込む時期だった。当時は、佐山さんの「打・倒・極」のシューティングと、ブラジリアン柔術が融合していく時期で。選手もどこか2つに分かれるようなこともあったと思うんですが、鶴屋先生はどちらを目指していたんですか?
鶴屋 ボクは完全にシューティングです。柔術よりも、そっちをやりたいという気持ちのほうが強かったです。でも、柔術の登場はやっぱりショッキングではありました。ちょっと年代が前後しますけど、『格闘技通信』でアルティメット(UFC)の大会が開催されるという記事を見て、まあその頃は普通にケン・シャムロックが優勝するだろうなと思っていたんです。そうしたらシャムロックが道衣を着た無名の男に負けたというから「何が起きたんだろう?」と。
――その無名の男がホイス・グレイシーだったわけですね。
鶴屋 それは凄い衝撃を受けました。そのホイス・グレイシーが「兄は自分よりも10倍強い」と言って、それでヒクソンが出てきたんですもんね。その頃、中井さんたちが彼らを迎え撃っていたじゃないですか。ボクはそれをリアルタイムで見てまして「凄い世界だなあ」と。
――UWF系には興味はなかったんですか?
鶴屋 ……ええっとね、これって『Dropkick』の取材ですよね? “ドロップキック”ということは、プロレスの話もしていいんですか?
――むしろ、どんどんお願いします!
鶴屋 あのー……、ボクはね、プロレスに関してもの凄いマニアなんですよ。もともとボクはプロレスラーになりたいという夢があって、実際に全日本プロレスに2日間だけ入ったこともあるんです。
――あっ、そうだったんですか!
鶴屋 ……これ、他人に言うの初めてですよ。
――ありがとうございます!(笑)。「2日間だけの全日本プロレス入門」は気になります!
鶴屋 ボクは小学生のときからずーっとプロレスラーになりたくて。で、高校3年生のときに全日本プロレスの会場に行って、百田(光雄)さんにお願いしたら「道場に来なさい」と。そのとき道場にいたのは、折原(昌夫)さんや小橋(建太)さん、あとは菊池(毅)さん。初日からいきなりスパーリングですよ。一応ボクも高校でレスリングをやってましたからなんとか戦ってたんですが、最後は小橋さんに足をベキべキっとやられてしまいまして。
――うわっ、入門初日に!
鶴屋 もう凄かったです。頑張って2日目も行ったんですよ。そしたら、また小橋さんに足をベキベキベキっと……。
――また小橋さんですか!(笑)。
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面白かったです。こんな感じで色んな名門ジムの取材記事を見たい!