RIZIN.17ベストバウトの呼び声が高い元谷友貴戦を僅差の判定でものにした扇久保博正インタビュー。日本格闘技界の氷河期時代から始まったそのキャリア。TUF挑戦、そして準優勝後の離婚、ONEからのオファー…までを隠すことなく語ってくれた(聞き手/ジャン斉藤)
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――いきなりですけど、扇久保さんの入場曲はどうして吉田拓郎の「落陽」なんですか?
扇久保 吉田拓郎はボクの中で神様なんですよ。生まれたときから大ファンで。
――生まれたときからって……扇久保さんって、もしかして危ない系の人ですか?(笑)。
扇久保 ハハハハハハハ。ありきたりですけど、親父が吉田拓郎を聞いていたんです。車や家の中でもずっと吉田拓郎。「吉田拓郎以外はクソだ!」のぐらいのことを言っていて。
――生まれたときから洗脳されたってことですね。
扇久保 そうですね。そこからオヤジを超えたし、他の吉田拓郎ファンには負けないですよ。コンサートの古い音源から何からオークションで買いまくったりしているくらいなんで。まぁ、周囲で話が合う人もいないんですけど(笑)。
扇久保 まったくいないですね。「吉田拓郎が好きだ」って奴はいるんですけど、有名な曲しか知らない。それは吉田拓郎のことが好きじゃないんですよっ!(ドン)。
――あっ、超面倒くさい人ですね、扇久保さん(笑)。
扇久保 面倒くさいですね(笑)。本当にガチなファンだし、ボクの青春は吉田拓郎ですからね。安易に吉田拓郎に触らないでほしいんですよねぇ。
――浅い知識で吉田拓郎を語るんじゃないと。いやあ、面倒くさいですね~(笑)。
扇久保 ハハハハハ。ホントそんな感じです。
――入場曲は最初から『落陽』だったんですか?
扇久保 最初は違うやつだったんですよ。『人生を語らず』っていう曲で、負けてから『落陽』に変えて。
――負けて『落陽』に変えるってのも凄い。だって陽が落ちるんですよ!
扇久保 『落陽』がライブで一番盛り上がるんですよね。
――吉田拓郎ぼんやり層のボクでもそんな話を耳にしたことがあります。
扇久保 もうドカンと。オッサンオバサンが皆総立ちで盛り上がっちゃうんですよ。その光景に鳥肌が立って入場曲に選びました。
――最高潮に盛り上がって入場すると。
扇久保 グッと来ますねぇ。
――でも、歌詞の内容はサイコロ賭博でお金をすっちゃう話ですから、縁起はよろしくないですよね?(笑)。
扇久保 まあボクも歌詞の内容どおり格闘技でサイコロを転がして、何もなくなっちゃったわけですけどね(苦笑)。
――被るところあるわけですか(笑)。今回の元谷友貴戦はピンゾロの大当たりというか。判定はギリギリでしたけど、勝利を告げられる瞬間はどんな心境だったんですか?
扇久保 「勝ったかな」とは思ってたんですけど、負けもあるのかなと。
――「俺はそう思う」という感じですね(笑)。最初に読み上げられたジャッジは元谷さん支持だったじゃないですか。
扇久保 それはあるなと思ってました。自分の力を出し切っていたので、正直勝敗はどっちでもいいや!とも思ってたんですよ。
――内容に悔いはなかったと。
扇久保 試合直後、元谷選手が意外とケロっとしたのが「あれ?」って感じだったんですけどね(笑)。「これがコイツの強さなのかな」って。
――タフですよね、元谷選手も。
扇久保 自分の中で元谷友貴はとにかく勝ちたい相手で。勝てればなんでもいいと思ってたんで……久しぶりに嬉しかったですねぇ(しみじみと)。
――久しぶりに嬉しい。
扇久保 はい。久しぶりに……修斗でタイトルを獲ったとき以来ですね、こんなに嬉しかったのは。
――それまでの勝利も嬉しくなかったわけじゃないけども、ここまでの充実感はなかったってことですかね。
扇久保 やっぱり修斗での試合は堀口戦以外はボクが勝ってあたりまえな感じでしたからね。でも、今回の元谷戦は負けることもあるな……という試合だったので。ホントに……勝ちたかったですね、元谷選手だけには。
――そこまで思い入れが深かった。
扇久保 なんか気持ち悪いですけどね(笑)。堀口選手がRIZINに帰ってきたときの一発目の相手が元谷選手で。あの輪の中に入れなくて、自分の中にジェラシーがあったというか。
――扇久保さんは堀口選手が制したRIZINのバンタム級GPも出てなかったですし。
扇久保 この2人のどちらかとは戦いたいなと思っていたし、堀口選手とはRIZINでも試合ができたので、自分の中で元谷友貴という存在は引っかかってたんです。
――絶対にやらなきゃならない選手だと。
扇久保 それに修斗vsDEEPだったので。団体同士の争いってあんまり背負わない選手が多いじゃないですか。去年RIZINで元谷vs祖根寿麻があったけど、そこまで団体対抗戦という感じではなかったですし。修斗が絶対に強いんだ!……と背負ってやりましたね。
――いまは所属意識を持つのはなかなか厳しいですよね。その選手自身が背負っていても周囲がピンときてなかったり、その逆で周りが認めていても本人が背負う意識がなかったり(笑)。
扇久保 たしかに(笑)。
扇久保 強かったですねぇ。何回も立たれちゃいましたし。
――あんなに立たれるとは思ってました?
扇久保 立ってくる練習はしてくると思ったんですけど、あんなに立たれるとは思わなかったですね。元谷選手のどこを突くべきかを考えたときにやっぱりテイクダウンだろうなと。寝かせて上から殴ったり、立ち際をガブッてからのヒザを練習してたんですけど、途中からその考えが飛んじゃって(笑)。映像を見返して「なんでパウンドを打たないのかな?」と。
――それは気持ちの面で焦ってしまったということですか?
扇久保 とにかく勝ちたいから「立たせたくない」という意識になっちゃって。いきなりテイクダウンが成功しちゃうとそうなっちゃうんですよね。「これで勝てる」と思っちゃうんですよね。だいたい試合ってそうなんですよ。ファーストコンタクトで「打撃で行ける!」と思ったら打撃に拘っちゃうことがあるので。
――うまくいっちゃうと別の攻め手でいきたくないのがファイター心理というか。
扇久保 もっとパウンドを打てましたよね。元谷選手は下になっても寝技を作ってくる選手なので。ガンガン立ってくる選手だとパウンドは打ちづらくなっちゃいますけど。
――最終3ラウンドは壮絶な打撃戦。元谷選手のラッシュに全然下がりませんでしたね。
扇久保 あそこは意地でしたねぇ。ちょっと誤解される言い方かもしれませんけど「KO負けしてもいいや」「KOしてみろ!」というイメージで。パンチを食らっても痛いだけで、倒れることはないな、と。
――KOされる感覚はなかったと。
扇久保 なかったですね。疲れちゃってガードもせず避けてたんですけどね(笑)。元谷選手ももう少ししたら動きが落ちるかな……と思ったら全然そんなことなくて。同じペースで打ってきたので、ここで引いちゃダメだなと思って。
――あそこで引いたらジャッジの印象も変わっていたかもしれないですね。
扇久保 ボクの前の試合(イヴァン・シュトルコフ vsキム・フン)のとき客席がシーンとしてたじゃないですか。入場口で見てて「盛り上げないとヤバイな」と思ったんですよ。なので、1&2ラウンドは自分のペースで戦えたので、3ラウンドは打撃でいいかな、という気持ちはありましたね。元谷選手は絶対に打撃で来ると思ったし、そうじゃないと元谷選手は勝てないじゃないですか。打撃戦になったら絶対に引かないで打ち合おうと。
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あの試合は鳥肌ものの素晴らしい試合だったので、このインタビューは本当にいいですね。
扇久保選手の未来に幸あれ。