2011年に大相撲を揺るがした八百長問題に巻き込まれて力士を引退、その後はプロレス転向を果たした岡本将之(元・将軍岡本)が日馬富士騒動を解説する!! 四股名・霧の若として10年以上も土俵に立ち続けた男の目には、このたびの混乱はどうように映っているのか――?
――日馬富士騒動が新聞やテレビで連日報道されていますが、相撲界に10年以上いらした岡本選手は、このニュースを聞いたときにどう思われたんですか?
岡本 まず最初に思ったのは「貴ノ岩関がよっぽど失礼な態度を取ったんだろうな」って。まずそこですね。そうでもしないと横綱が下の人間にあそこまで手を出すことってありえないんですよ。
――身内同士のケンカと思われた騒動は、世間を巻き込んで大騒動に発展していきましたね。
岡本 被害届が出たら日馬富士関は引退するかもしれない。ただ、そこは横綱審議委員会が世論の動向を伺いながら決めると思ってたんです。
――ところが日馬富士関は自ら進退の決着をつけました。
岡本 自分から引退届を出すとは思わなかったです。横綱審議委員会が世論の声にガマンできずクビにするだろうなと思ってたんですけど……。
――岡本選手としては日馬富士関の決断は意外だったんですね。
岡本 まだまだ相撲を続けたいだろうなとは思ってたんで。でも、騒動の過熱ぶりを見て無理だと判断したんでしょうね。そこでしがみつくくらいなら男らしく……っていう。あの方はモンゴル人だけど、日本人っぽいですから。礼儀もうるさいけど、しっかりした方なので。
――岡本選手は相撲現役時に日馬富士関と接点はあるんですね。
岡本 ボクの一年下なんですけど、日馬富士関が酒癖の悪いイメージはないんですよ。親しくしていたわけではないので、深くは知りませんが、ご一緒させてもらったときは全然普通でしたね。酒を飲んでいても、ちゃんとしていたし。
――だから事件の報を聞いたときに「貴ノ岩関がよっぽど無礼な態度を取ったんじゃないか」と。
岡本 現場で何があったのかはわからないですが、ニュースを聞いてそう思いました。さっきも言いましたが、横綱って自分から手を出すことってないんですよ。朝青龍関は別ですけど。
――さすが朝青龍です!(笑)。
岡本 横綱本人が手を出すことはよっぽどのことなんです。基本的に何かあったら周りが手を出すんです。
――角界にかぎらずですが、縦社会のトップって下の人間に直接、手を出さないところはありますね。
岡本 テレビの情報だけを鵜呑みをすると、貴ノ岩関は日馬富士関に怒られたわけじゃない。白鵬関に対して失礼な態度を取った。だから周りにいた日馬富士関が手を出した。白鵬関と日馬富士関はほぼ同期なんですけど、白鵬関のほうが先輩横綱。先輩横綱に失礼な態度をとった、だから怒ると。ただ、やり過ぎ感は否めないですよね。いまの風潮だと、いかなる理由があれど手を出したことは悪いわけですから。
――相撲では10年前に暴行死亡事件が起きましたし……。
岡本 だから世論は「日馬富士が悪い!」というムード一色になると思ってたんですけど、そこで日馬富士関がスパッとやめてしまったことで微妙になっていきましたよね。あと正直、貴乃花親方の動きが不可解すぎるところもある。ここまで世論が真っ二つに割れるとは思わなかったです。
――岡本選手は貴乃花親方にはどういうイメージを持ってるんですか?
岡本 ボクが相撲に入ったときはすでに横綱だったんですけど、関わり合いがほぼなかったんですよ。ただ、あの人は凄いストイックなんだなって。何をやってもストレートな人という印象はあります。周りの噂や情報に流されない。自分がこうと思ったらそのまま突き進む。あそこまでの大横綱になれたのもその一途さがあったからでしょうね。貴乃花親方って引退後に激ヤセしたときがあったじゃないですか。
――病気なんじゃないかって騒がれましたね。
岡本 あのとき支度部屋で夏場なのにモモヒキを履いてストレッチをちゃんとやっていて、凄く小さいお弁当を持ってきてて。「あれしか食べないの??」って驚くほどの少量。その姿を見たときに「だからあんな大横綱になれるんだな」って。
――何事にも自分の信念を持って動くんですね。
岡本 今回の行動も自分自身で考えてるかどうかは知りませんが、こうと決めたら真っ直ぐですね。一度走り出したから引くに引けないんじゃないかと思いますけど、あの精神力はハンパないですよ。普通の人じゃ折れます。ただ、さすがに折れたのか協会への協力を約束したみたいですけどね。
――相撲と世間ではルールが違うことを是とする人もいれば、否定的に捉える向きもありますね。「世間と違うからいいのに」と「世間と違うんだからダメなんだ」と。
岡本 そりゃ違いはあるでしょ。そこはどこの業界だってあると思いますよ。世界が違えば景色も違うし、そこに外から口を出すとおかしくなることもありますよね、とくに相撲界は。
――その世界観と貴乃花親方の相性が悪かったということですか?
――政治的な動きに見えるし、貴乃花が協会に不信感があるとも見えますね。
岡本 協会と話し合いをしたくないのはわかるんですけど、協会もべつに警察の事情聴取を受けるなと言ってるわけじゃないですよね。一般常識でやりたいなら、相手の都合も合わせないと事は進まないんじゃないかって。貴乃花親方が被害届を出したことは悪いことではないんですけど、出し方があるだろうとは思います。相撲協会に不信感を持ってるのであれば、それはそれでいいんですけど、ひとつやり方を変えればすべて筋は通ったんですよ。相撲協会に事件があったこと、被害届を出すことを伝えたうえなら筋が通ってます。なのに被害届を出したことを協会側に隠していたわけじゃないですか。そこが読めない。相撲協会が隠蔽体質だって言うけれど、貴乃花親方の行動によって逆にオープンにもできなくなったこともありますしね。
――どうしても相撲協会は隠蔽するんじゃないかというイメージがついて回りますね。
岡本 相撲協会も場所前になぜ発表しなかったのかと思いますが、話を聞こうとした両親方から「知らない」「わからない」と言われれば協会として不正確すぎて発表できないのも間違ってないと思うんです。
――いろんな事件があって、いままでの相撲協会のイメージが先行しちゃってるというか。
岡本 イメージ先行は強いですよね。そこはしょうがないですよね。あとやっぱり貴乃花親方は日本人の大横綱だったのでみんな味方するんですよ。
――一部の報道では、モンゴル人同士の飲み会をやることでナアナアの関係になってしまい、無気力相撲に巻き込まれることを貴乃花親方は嫌ったんじゃないかともされてますね。
岡本 そこらへんは貴乃花親方が公式にコメントしてないからわからないですけど、そんなこと言ったら日本人だってナントカ県人会とか繋がりはあるじゃないですか。普段の付き合いもアウトになりますよね。前・鳴戸親方なんかは「出稽古に行くな」と禁止してましたけどね。出稽古先でナアナアになるから「出稽古にも来るな」と。
――そこまで徹底してたんですね。
岡本 だから稀勢の里関は出稽古できなかった。いまはやってますけど。そこは師匠がどう考えるかなんで、部屋ごとにルールを作ればいいんですね。
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