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小飼弾の論弾 #51「対談・SF作家 藤井大洋さん @t_trace (その2) リアリティのあるSF小説はどうやって生み出すんですか?」

2017/08/14 07:00 投稿

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「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
今回は、7月3日(月)に配信した、SF作家 藤井大洋さんとの対談テキスト(全3回)をお届けします。

次回のニコ生配信は、8月21日(月)20:00の「小飼弾のニコ論壇時評」。今時のニュースを小飼弾がズバズバ斬っていきます(21:00頃からは、通常の「小飼弾の論弾」になります)。

お楽しみに!

2017/07/03配信のハイライト(その2)

  • SFを作るのにWindowsは不向き
  • どのような視点で見ると、身近なものを作品にすることができますか?
  • シンギュラリティは本当に来るのか?

SFを作るのにWindowsは不向き

藤井:全然困らないですよ。どっちかっていうと、フィクションの中では、マイクロソフトのOSを触る方がめんどくさいです。

山路:どうしてなんですか?

藤井:第一には、Windowsの場合OSを壊す方法がちょっとわかりにくいですね。アイコンが並んでいる画面を出して、そこからメモリの中にプログラムを仕込んでいくかという話をしないといけない。Linuxなら黒いコンソール画面1枚だけですから、描写が楽です(笑)。あと、古いバグがたくさん残っているのはLinuxも変わんないですからね。

小飼:アプライアンスの中に入っているOSは、Linuxが圧倒的に多いわけですよ。

山路:アプライアンスというのは、OSやアプリなどのソフトウェアが組み込まれた専用のハードウェアということですね。

小飼:そうです。だからIoTといえばWindowsよりもLinuxなわけです。IoTの場合、よほどのことがない限りハードウェアなんてアップデートされないわけですよ。

藤井:プリンタとかプリンタとかプリンタとか(笑)。私は中国でプリンタに"traceroute"(通信の経路情報を取得するツール)をかけられたことがあって。

一同:(笑)

藤井:PostScriptサーバー機能を持ったプリンタのOSは、普通にLinuxですから。

山路:どういう症状になったんですか。

藤井:中国のビジネスセンターでインターネットに繋いでいる時、周りには誰もいないのに、"ping"(ネットワークの疎通を確認するために使用されるコマンド)を打ってきた後、tracerouteで経路情報を調べようとするコンピュータがあったんです。ネットワークの内側なのはわかったんで、このビジネスセンターのどこかにある……。

山路:誰もいないのに。

藤井:で、プリンタの電源切ったら止まったんです(笑)。そのプリンタが、ウイルスに侵されていたとか、そういうことだったんでしょう。

山路:小説のような。普通の人は気付かないかもしれないけど。

小飼:セキュリティを高めるのがどうして難しいかというと、人間は「何ができてほしいか」には考えが及ぶけど、「できてはいけないこと」についてはそのことが起こってから初めて気がつく生き物だからなんです。

山路:だけど今までのセキュリティホールについては、データベースがあるわけじゃないですか。新しく作られるソフトウェアは、そのデータベースに入っているセキュリティホールについてのテストを自動的に全部行うようにできないんですか?

小飼:「組み合わせ爆発」という言葉があります。例えば、三目並べなら、全部の手を書き出せるわけですよ。これが将棋とか囲碁となると、もうお手上げ。全宇宙の全素粒子をメモリとして使っても、全然足りなくなる。

山路:確かめることは理論上はできるけど、時間がかかり過ぎてできないという。

小飼:それもあります。

藤井:そういうミスというかセキュリティを、記述できるかという話もありますよね。

小飼:せいぜい境界条件をテストするに留まっちゃうんですよ。

藤井:例えば、あるファイルを実行可能なアプリケーションの最新版が存在したら、強制的にそれを立ち上げるようになっているOSは多いです。こういう振る舞いをどう定義するか?

山路:そうか、OSごとの振る舞いの違い、それこそOSの仕様書を全部持っていないといけないわけですね。

藤井:ちなみに、Mac用のSafariが出たばかりの頃、もしも悪意を持って作られたSafariと同一の識別子を持つ将来のバージョンをインストールされてしまったとき、HTMLファイルをダブルクリックするとマルウェアの方が立ち上がってしまう。この脆弱性について、Appleに報告しました。その頃はもう面倒くさくて、セキュリティホールをいちいち公開はしなくなっていましたが(笑)。
 実行するファイルについてデジタル署名が入っているかどうかダイアログを表示して、ユーザーが承認するというコードサイニングの仕組みを取り入れることはできないかと、半年くらいAppleに連絡していました。Appleの開発者にしてみれば、自分たちがずっとずっと考えていたことについて雑談できる相手がいた、くらいの気分だったんでしょうけど。コードサイニング機能がMac OS Xに実装された時、ダイアログの文言は私が考えたやつでした。

一同:(笑)

藤井:大体、誰が考えても同じものにはなりますけどね。

山路:「このファイルは、どこどこからダウンロードされたやつですが実行してもいいですか?」みたいなことを聞いてくるダイアログですか?

藤井:あ、英文だけです(笑)。

小飼:でも本当に、セキュリティというのは難しくて。「こんなのがセキュリティホールになりうるのか」っていうのまで、DDoSとかと重ねると……。

山路:DDoSというのは、ひとつのサーバーにいろいろなところからアクセスを集中させて、処理を止めてしまう攻撃のことですね。

小飼:そういうことですね。例えるなら、ピンポンダッシュとかノック攻撃みたいな感じです。電話がかかってきたら、それが無言電話でも「もしもし」言っちゃうでしょ? これを何回も繰り返すと、電話をかけるごとに「もしもし」を返すわけじゃないですか?

山路:すごいコストというか、疲れちゃうわけですね。

小飼:そうやってだから、ネットワークを真っ黒にしちゃう攻撃手法というのがありまして。時刻を合わせるためのNTPもそういう用途に使われることがあります。

山路:NTPというのは、時刻を正確に合わせるためのプロトコルですね。

小飼:だから、普通の定義ではセキュリティホールではないんですよ。期待通りに反応しているわけですから。こういうシグナルを送ったらこういう返事を返すっていうのは仕様として決まっているわけです。

「TCP/IPを軽く学んだけど、よく出来てるなあって思ったけどなあ」(コメント)

藤井:いやあ、よくできていますよ。

山路:それでも穴はやっぱり塞ぎきれない。それはもう、思わぬ使われ方をしちゃうからということですか。

小飼:だから今セキュリティホールを塞ぐためにやっているのは、ブラックリストをホワイトリストに変えちゃうというのばかりなんですよ。例えば、先ほどのNTPのリフレクション/アンプリフィケーションについていえば、特定のIPアドレスからのパケット以外は全部無視すると。本来ネットのサービスは、基本的に「誰が来ても同じようにするけれども」だったんですけど。

藤井:たしかにね。

「人工知能さんはなんとかしてくれないんですか」(コメント)

山路:人工知能でそういうセキュリティホールを塞ぐとか、アタックに対抗することはできないのか? ということなんじゃないかと思うんですけど。

小飼:ある程度はできるでしょう。でも、どうしてセキュリティホールがあるにも関わらず、ほとんどの場合我々はコンピュータを便利に使えているかと言ったら、ほとんどのユーザーは良心的だから。TCP/IPというかインターネットというのは、その良識を過信していたおかげで今苦労している面はありますが、はじめから性悪説で何かを進めるっていうのはすごく難しいんです。

山路:性悪説でガッチリとネットワークの仕様を決めていたら、今みたいなインターネットの発達はなかったかもしれない。

小飼:とりあえず、自由にやらせておいて、実際に問題が出てから対処すればいいじゃないかと。まあ、泥縄なわけです。

山路:でも、これからIoTとかが進んでくると、リアルなモノコントロールすることが、どんどん容易になっていくわけじゃないですか? それこそ、藤井さんのSFのネタが増えていくわけで。

藤井:はあ。ありがたいことですね。

小飼:(笑)

山路:最近だと、Galaxy Note 7が発火するという事故がありました。あの原因はバッテリーの設計不良だったわけですが、ニュースを読んで私が思ったのは、バッテリーの作りが危ういタブレットなどを事前に配布しておいて、CPUを発熱させる処理を行うウイルスをばら撒いたら、世界同時発火テロみたいなことって……。

藤井:まあ、多分できるんじゃないですかね。あんな小さいものの中にエネルギーが封入されていることには代わりがないんで。解放する方法はいくらでもありますし。

山路:じゃあ、これからリスクはどんどん高まっていく?

藤井:いや、どんどん安全になるとは思いますよ。ただ発火のリスクをゼロにすることはおそらくできない。

小飼:リチウムイオン電池が危険というなら、鉛蓄電池だって希硫酸入ってるんですよ(笑)。

藤井:このあいだ面白いコンセプトのスマートウォッチを見かけました。体温で瞬間的にしか使えないようになっているスマートウォッチ。

山路:「温度差発電」ということですか?

藤井:そう。すごく低い電力密度でも使えるようになっていて、使用するときだけオンデマンドに電源をバンバン入れるようになれば、リスクはだいぶ減りますよね。スマートフォンとか充電1時間かかるのとかほんとウザいじゃないですか。

小飼:エネルギー密度を上げれば電池は小さくなりますし、電流容量を増やせば充電も早くなるんですけども、それは事故ったときにヤバいということも意味しているので。

藤井:私もあるSF作品で、テロリストがモバイルのバッテリーをかき集めて、そいつを縛って投げると手榴弾になるというネタを書いたことがあります。たぶんそういうことがこれから起こりますよ。

どのような視点で見ると、身近なものを作品にすることができますか?

山路:視聴者から藤井先生に質問が来ています。

「藤井先生は、自分にとって身近なものを作品にしていると感じます。どのような視点で見ると、身近なものを作品にすることができますか? ちなみに私はいま、介護職員をしています」(コメント)

 創作の仕方とか、あるいは作品のネタをどういうふうに見つけるか、という質問ですかね。藤井先生は、すごくITに詳しかったり、テクノロジー全般に相当興味がおありじゃないですか? そういう自分の詳しいジャンルから、創作につなげていく秘訣は何でしょうか。

藤井:身近なものとかディテールとかも関係なく、物語を考えるところからですね。私は、誰かが仲間を集めて問題を解決するとか、そういう大きなストーリーをまず考えます。ディテールを作っていく段階で初めて身近なものが生きてくるんですけど。

山路:ほおーっ。

小飼:こういうガジェットをどう組み合わせるとこういう話になるではなくて。まず話があって。その話を進めるために、こういうガジェットがあるに違いないと考えるわけですね。

藤井:そうですね。必然的にガジェットがどんどん登場してきます。今も、私小説的なやつを書いてるんですけど。かつてTwitterに憧れていたエンジニアがTwitterに幻滅する。そして、Twitterが中国に進出することになった時、マストドンを完全に暗号化してTorを使ったリレーサーバーを作り上げて対抗する……という話です。

小飼:そういう実装が欲しいという人はいるかもしれない。

藤井:私が欲しい(笑)。

小飼:(笑)

藤井:まあ、ガジェットというか、設定としてのTwitterの歴史やマストドンは、ストーリーとすごく密接な関係はあるんですけど。やっぱり、ストーリーというか、ドラマのほうが先にありますよね。どんなに薄くても先にドラマがある。ドラマの筋が一本でもあれば、身近なものをいくらでもネタにできます。

小飼:なるほど。

山路:たまたま藤井先生の場合は、そういう身近なネタというのが、テクノロジーだったという。情報ばかり集めていても作品ができるということではなくて、まず自分が面白いと感じられるような物語の骨格を作る。

藤井:そうですね。ただ、骨組みの段階で面白いかどうか分からないことは多いです。それでもこの話を面白くするというふうに決めて、登場人物の設定を作ったりとか、物語の展開に手を入れていったりとか。そんな感じです。

山路:作家さんによって小説の作り方は違うと思うんですけれども。キャラクターを作ってこれを転がしていく方もいらっしゃいますね。

藤井:無理、無理。ぼくはできないですね。

小飼:作家もいろいろなんですよねえ。新井素子先生にはビックリしました。あの人の脳内には本当にキャラクターがいるんですよ。だから彼らのことを眺めて描写さえすればお話ができあがるという。その話を聞いて、「俺に作家は絶対無理……」と思いましたね。でも、藤井先生みたいに、演繹的にまず物語を作り、その物語に沿って歩いていくといろいろなものが映るので、それを今度は描写するというやり方もある。

藤井:そうですね。

小飼:この方法は分かる。できるかどうか分からないけれども。分かる(笑)。
 マンガだと、連載を無理やり引き伸ばされるのは当たり前でしたからねえ。北斗神拳って一子相伝のはずなのに、なんで兄弟がいるんだよとか。キン肉マンのゆでたまご先生がすごいことを言ってました。「来週の話は来週のオレたちが考えてくれるはずだ」って。すごい世界だなあ(笑)。

藤井:マンガに代表されるようなシリアル(連載)の作品と、結末があるパッケージの物語では、おそらく作り方が根本的に違いますね。

小飼:たしかに。

山路:いまの藤井先生が、文芸カドカワに連載されている『東京の子』は、展開を締切ごとに考えているんですか?

藤井:どう終わらせるというのは決めてはいるんですけど、通らなきゃいけないルートをどう通るかというのは、毎回毎回ヒーヒー言いながら考えています。

山路:藤井先生は、エンジニアの方向に行っても不思議ではなかったと思うんですけれども。

藤井:いやあ、そんなことないですね。僕はちゃんとはプログラムを書けないので。

小飼:元プログラマー、元エンジニアで小説を書いている人も多いですよ。僕がインタビューしたチャールズ・ストロスとかも。

山路:『アッチェレランド』の作者ですね。

藤井:日本人だと宮内悠介さんも。彼はMSXのマシン語なんかをちゃんと書ける本物のプログラマーです。

山路:考えてみたら、森鴎外だって医者だったり。

藤井:そう。エンジニアですからね。森鴎外がメディカルエンジニアとして優秀だったかどうかは分かりませんっていうか。

小飼:脚気で何人殺したんだ、あの辺の人たちはとか。当時、脚気という症状は世の中に溢れていたけれども、どうすれば止まるのかというのは分からなくて。ビタミンBが足りないというのは、のちほど分かったんですけど。

藤井:麦飯の効果を否定し続けたという話もありますね。

シンギュラリティは本当に来るのか?

山路:SF作家同士でシンギュラリティの話とか出たりもするんですか。

藤井:それは、しますよ。

山路:シンギュラリティというのは、人工知能がものすごく発達して人間よりももっと知性的な存在になるといったことですね。レイ・カーツワイルは2045年あたりにシンギュラリティが来ると言っていますが、藤井さんはシンギュラリティに関してどういう立場なんですか?

藤井:多分、人間はシンギュラリティが来ていても気づかない。

山路:来ていても気づかない?
 

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