グルグル映畫館は僕の実兄である前田一知さんがドラマーを務めるバンドで、その縁からツアーを一緒に回らせてもらったり、hideさんのイベントでご一緒したり、アルバムのレコーディングやミックスをさせてもらったりした。
とはいうものの、僕が天野さんと過ごした時間はおそらく6/1の参加アーティストの中で、最も短い部類に入ると思う。サシで話をしたという事も、おそらく一度位しかない(その時は主にラーメン二郎の話でした)。にもかかわらず当日は僕がグルグルで一番好きな歌を歌わせてもらえるので、ありがたい事である。代表曲とかではないので、かぶらなかったんだろう。僕はその曲に思い入れがある。
「最低なふたり」という僕がレコーディング・ミックスを担当したアルバムの収録曲で、少し昔の話であまり記憶が定かじゃないんだけど、おそらくレコーディング前に天野さんが吹き込んだデモをデータで送ってもらったんだと思う。音質は良くはないし、いわば寝起きでラジカセ(では絶対ないけど、雰囲気)に弾き語りを吹き込んだような、そんなデモだったと記憶している。
♪ままごとみたいに生きては来たけど
おちる所までおちてはみたけど
努力が足りぬと皆はいうけど
でも、幸せがぎりぎり♪
天野さんの裸の声と、歌詞・メロディーのリフレイン、デモならではのある種投げやりさを含んだ演奏が、独特の雰囲気を織り上げていた、絵で例えるなら、くしゃくしゃの黄ばんだ紙に、固めの尖った鉛筆で薄く細くスケッチをしたような、そんな音源だった。僕は酷く感動してしまって、その曲が大好きになった。(たしか直後の自分のライブでも歌ったんじゃないかと思う)
アルバムに収録されているテイクは「80'sっぽい変なゴージャスさ」にしたいという要望のもと、僕が聴いたデモとは随分違うものになっている。それはそれで(目指した表現なわけだから)あるべき姿になったわけだし、デモと本チャンがある程度変わるのは良くある話だ。レコーディングの醍醐味とも言える。それでも僕はデモを聴いて胸が震えたという極めて個人的な体験から、そこに紐づけられた思いを手放せないでいる。
デモ音源の持つ力というのは、考えてみれば相当に強い。何の為にデモを作るのかというと「こういう曲ですよ」というのを、まずメンバーや共同制作者に分かってもらう為である。そこには「遠くまで届かなくてもいいから、身近な人にまずわかってもらう」という荒削りなエキス、コアが詰まっている。子供が書く、おかあさんの似顔絵みたいな感じである。いや違うか。まあともかく。
そして、デモの持つ寿命の短さもまた良いのだと思う。基本的に本チャンが出来てしまえば送り手にとっても聴き手にとっても用なしになるわけで、そのはかないライブ感が特別な感興を付与するのだ。だからデモ集みたいな感じで後にリリースされて聴くものは(良くボックスセットとかでありますけど)、良いと思えるものが少ない。きっと聴き手のライブ感が違ってしまっているからだろう。(中にはXTCのHomespunみたいな、いいのもあるけどね)
つらつらと書き連ねてきたけれど、何が言いたかったんだろうな。ようするに、明後日は一生けんめい歌います、という事でしょう。デモの天野さん風でもなく、本チャン風でもなく、自分なりに。それが僕のするべき事だ。
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グルグル映畫館リバイバル公演「月に行った猫~追悼 天野鳶丸~」
日程:2014年6月1日(日)
会場:TSUTAYA O-EAST
開場 / 開演:17:00 / 17:30
adv.¥4,000 / door¥4,500 [※1DRINK別途]
ローソンチケット:72858
e+:http://eplus.jp/sys/main.jsp
ぴあチケット:226-199
出演
入場順:1.ART POP WEB先行(S1〜)→2.O-EAST店頭(A1〜)→3.ぴあ/ローソン/e+(各B1〜)→4.当日券
主催/企画:グルグル映畫館
制作:ART POP ENTERTAINMENT
協力:AMG
問い合わせ:ART POP :045-650-2155(平日12:00〜19:00)
http://www.artpop.org
コメント
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デモという独特の世界観に触れられるのは身近な人だけ。
CUTTくんの心に留まり、後にCUTTくんに歌い継がれる事になるこの曲のMixを当時他の誰でもないCUTTくんにお願いされたという事の意味。作り手天野さんからしたらきっとこの曲の行く末、未来を見越しての事だったんでしょうね。
歌われた分だけ進化がある。
変わらないものがココにもある。
…遺してくれたものの偉大さ故、素敵な事です。