「教育」と「教養」── 子供のころに習ったこの言葉には、高齢者にとっては別の意味があるのだと、先日田舎の叔母が教えてくれました。「キョウイク」は今日行くところがあること、「キョウヨウ」は今日する用事があることなのだそうです。ボケ予防につながるから大事だと、おそらく地元の健康教室あたり聞いてきたことの受け売りなのですが、とても解かり易く、その先生はとても教え上手だと思いました。こうした知識(雑学)は、年齢に限らず、実は日々の生活の中では結構大事なことで、昨今の健康寿命をのばそうという人や認知症の家族を看ている人なら、なおさら合点のいくことだと思います。
さて、介護予防を目的とした高齢者の健康教室は全国の自治体で盛んに行われていますが、以前は大きな町でも教室の人集めに苦労しているという話をよく聞きました。ところが、最近では「参加したくても抽選になってしまい、行けるかどうかわからない」という状況なのだそうです。都市部は高齢者の数がどんどん増えているのを実感します。
抽選に当たるか不安という声の主は、今年米寿になる方です。75歳のときに市の呼びかけに応じて健康教室に通う1期生となりました。以前は、みんなで元気に長生きしようと通うのが楽しくて、互いに誘い合って応募したのだそうですが、最近は希望する人の数が増えすぎて、競争率が上がってしまうから簡単に誘えなくなってしまったと苦笑いしていました。素直に先生の言葉に従い10年続けて85歳になったのを機に、ちょうどきりがいいからやめようと思うと言うので、ここまで元気にいられたのは教室のおかげもあるのだから、もう少し続けてみてはどうかと話したところ、先の話になりました。
こうした事業が毎回満員御礼となり、健康を意識することが市民の間で高まるのはよいことですが、行政側としてはむしろ、普段閉じこもりがちな方にこうした活動へ参加して欲しいと考えているのではないでしょうか。数集めだけが目的ではないはずです。必要な人に必要なサービスを届けることが肝心です。しかしながら、高齢の人が地域で開かれる健康教室をどうして知り得たかといえば、町の公報もあるでしょうが、趣味の会や体操など他の教室で一緒の友人から教えられた、というのが少なくありません。友人・知人から聞く評判、口コミがもっとも信頼性の高い情報と考えるようです。人は公共を意識するのは教育など後天的な要因によるところが大きいと言われますが、日本人には生まれながら地域コミュニティを大事にするという本質が備わっているそうで、こういった点も加味されて、地域の交流が深められていくのだろうと思います。
ところで、高齢になって起こる日常生活の変化のひとつに、徐々に行動範囲が狭くなっていくことがあげられますが、これは健康面を考えると大変危険なことでもあります。特に車社会の地方では、こうした生活圏の変化が高齢期に顕著に現れます。冬場に多発するヒートショックは寒冷な日本家屋独特の暖差リスクに起因するといわれますが、大きな社会問題になっている、高齢者の自殺が多いのも険しい山間部にある過疎地で、1年を通して気温が低く、冬には雪の降る地域であるという研究もあるほどです。
市区町村が主体となる予防事業が、医療費や介護費用を抑制することで社会に資するのならば、孤独が健康をむしばみ、高齢者の死亡につながる暮らし方を考え直すきっかけ、つまりは人がよりよく生きるための社会的処方として、「キョウイク」「キョウヨウ」が今まで以上に必要になると思います。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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