福井県出身の民主党衆議院議員で若泉征三という人がいる。かつて福井県の今立町という町で4期16年町長を務めた経験を持つ。様々なアイデアを出して注目を集め、メディアにも度々登場した、いわゆる"名物町長"である。その彼が、福井で立ち上がった原子力・エネルギーに関する勉強会に深く携わっているとの情報を得た。今、再稼働問題で揺れる福井で起きている"新たな胎動"を追う。
名前:若泉征三(わかいずみ・せいぞう)
政党:民主党
選挙区:比例北陸信越
生年月日:1945年8月5日
血液型:B型
座右の銘:胆大心小(たんだいしんしょう)
趣味:映画鑑賞、読書、音楽全般、空手道
─福井県で立ち上がった原子力・エネルギーに関する勉強会とは、どういう会なのでしょうか?
「原子力・エネルギーの安全と今後のあり方を真剣に考える会」という名前で、昨秋、有志市民百数十人により立ち上げました。略称は「真剣会」です。国全体のエネルギー政策を福井の地から作り出し、全国へ発信しようという趣旨の会です。最大の特徴は、原発推進派の方も反対派の方も共に席を並べて勉強し、議論するという点です。
─それは確かに珍しいですね。名前もすごいし...。具体的には、どのような人たちが集まっているのですか?
呼びかけ人代表は、元マルハの専務で大洋ホエールズ球団社長でもあった、中央大学理事長の久野修慈氏です。彼は福井市出身で、いわゆる「財界の大物」ですが、福島原発事故を見て「日本の原子力・エネルギー政策を何とかしなければならん」と考え、この会を立ち上げました。その他の呼びかけ人は、福井県の経団連会長、農協会長、漁連会長、福井大学学長、連合福井会長、自然エネルギーNPOの副理事長、そして数人の市長の方達です。県内のさまざまな分野のトップの方が顔を並べており、従来の、このタイプの勉強会としては、異例のことだと思っています。それだけ、立場を超えて、多くの方がこの問題を考えようとする気運が高まっているんだなあと感じます。会員には、首長や地方議員の方々(原子力への考え方は多様)、自治体職員の方々、その他さまざまな職業の一般市民の方、そして脱原発の市民グループの方もいます。
─若泉さんは、どのような思いを持ち、どのような立場で参加しているのでしょうか?
私は、事務局長という立場で運営に携わっており、毎回、勉強会で司会をしています。
私は、20年近く前、今立町の町長をしているときに、町に安定ヨウ素剤を配備しました。たぶん全国初だったのではないでしょうか?しかし、「事故が起きた時のために安定ヨウ素剤を配備されると、まるで原発が危険であるかのように思われるのでやめてほしい」という圧力がかかりました。安全対策に万全を期すには、事故が起こらないようにすることはもちろん、起こったあとも被害が大きくならないように備えるのは当然のことです。そのような「当然のこと」にも圧力がかけられる時代でした。そのような経験もあり、原子力問題へは強い思い入れがありました。今、国会議員になり、日本全体の政策を考える立場になりましたが、やはり、霞が関で作られる政策は、一部の方たちの考えに沿ったものになりがちです。党や政府の立場から離れ、一市民の立場でこの会に参加し、地元福井の方々とともに考えてみようと思い、参加しました。
─真剣会では「全国へ発信すること」に重点を置かれているようですが、どのような努力をされていますか?
HP上での勉強会の報告内容を充実させています。月1回のペースで昨年11月から始まり、今年の6月2日の「第7回」が最終回でした。HPでは、1回の勉強会につき、質問時間も含めた全講演時間(100分程度)の動画がユーチューブで見ることができ、講演で使われたパワーポイント資料もすべてダウンロードできます。さらに、講演内容をA4で10ページ程度の文章にわかりやすくまとめてあり、その要旨がA4で2ページ程度にまとめてあります。実際に参加した方以上に、インターネットで勉強できるようになっています。他の同趣旨の勉強会と比べても、かなり充実しているのではないかと自負しています。
─勉強会の講師は、どのような方を呼んでいるのでしょうか?また、会の様子はどうでしたか?
できるかぎり客観的で冷静に話をして下さる方で、専門性の高い方をお呼びしています。
第1回の講師は、元原子力安全委員長の松浦祥次郎氏でした。福島事故直後に、草創期の原子力研究者を集めて、国民への陳謝と政府への提言をした方です。
第2回は、原子力安全保安院の審議官を務めた経験を持つ、日本原子力学会原子力安全部会長の阿部清治氏でした。長く当局側にいた方なので、こちらが心配して、「ここまで言ってよいのか」と感じるほど、安全規制や防災体制の問題点を細かく指摘し、説明してくれました。お二人とも、個人的には原子力の継続を望むと断ったうえで、「原子力を続けるかどうかは、社会全体で決めるべき」との見解をはっきりさせています。原子力の推進側に長くいた方として、難しい立場にいる中、誠意ある態度を示して下さったと感じています。
第3回は、いまやカリスマとなった原子力コスト研究の大島堅一氏でした。いつものように、熱い想いを内に秘めつつ、論理的な話を展開して下さいました。
第4回は、環境エネルギー政策研究所の主席研究員である松原弘直氏に来ていただきました。華々しい活躍をしている所長の飯田氏のような派手さはありませんが、自然エネルギー全般に関し実直にわかりやすく話して下さいました。
第5回は、事故があった福島第1原発がある大熊町の渡辺町長に来ていただきました。大変な状況の中、お呼びしてよいのか躊躇しつつお願いしたところ、快く引き受けて下さいました。当事者ならではの、事故後の生々しい様子等を聞くことができ、非常に貴重な講演になったと思います。また、福井県出身の三屋裕子氏をお呼びし、ご自身がなされている被災地での支援の様子を話していただくとともに、渡辺町長から上手に話を聞き出していただきました。
第6回は、風力、太陽光、小水力発電を実践してきた、主に技術者の方達です。穏やかな口調ではありますが、自然エネルギーなど見向きもされなかった時代から取り組んできた方達には、やはり、にわか仕込みの自然エネルギー論者とは違う凄みを感じました。
第7回(6月2日)は、弱冠20代で、原子力立地地域の研究で注目を集める社会学者の開沼博氏と、立地市町村長で唯一、脱原発を唱え、気を吐く東海村の村上村長という組み合わせでした。お二人とも、廃炉後の立地地域をどうするのか?経済や雇用は?という問題を極限まで突き詰めて考えていますので、当会の呼びかけ人や会員との議論は白熱しました。原発推進派の方も脱原発派の方も一緒になって、必死に考えました。
─勉強会が終了し、今後は、どのような予定なのでしょうか?
6月30日に、真剣会としての提言案を議論し、できれば7月半ばごろまでに政府に提言書を渡すとともに、全国の皆さんに向けて提言したいと考えています。政府がこの夏に実施するとしている「国民的議論」に一石を投じることができれば、と思っています。
今のエネルギー政策に関する議論は、「将来のある時点の電源構成割合の選択肢をどうするか?」という点だけに絞られ、かなり混乱していると感じています。本来は、どのような事実に基づき、どのような考え(価値観)を持って判断し、将来どのような姿を目指すのか、ということが大切なはずです。さらに、その判断がどのような影響を及ぼし、それにどのように対処するのか、という点まで、合わせて考えなければなりません。このような考え方が整理されたうえで、電源構成割合を出すべきなのですが、今の政府の審議会では前段の作業が抜けています。私たちの会は、この前段の作業に重点を置き、提言を作っていきます。
原子力・エネルギーの安全と今後のあり方を真剣に考える会
http://fukui-sinken.jimdo.com/
また、勉強会の実施結果一覧は下記のとおりです。
第1回 2011年11月23日(水)
講師:松浦祥次郎氏(元原子力安全委員会委員長)
演題:「日本の原子力安全―これから何が必要か?―」
内容:①日本への原子力発電の導入の経緯、原子炉のしくみ
②原子力安全確保策、その問題点及び今後必要なもの(技術面、社会面、思想面)
第2回 2011年12月17日(土)
講師:阿部清治氏(日本原子力学会原子力安全部会長/元原子力安全・保安院審議官)
演題:「福島第一原子力発電所の炉心溶融事故-なぜ起きたのか?-何が今後の課題か?-」
内容:①福島原発事故の原因・状況・今後必要とされる対策
②安全規制・原子力防災の問題点、規制当局の独立性
第3回 2012年1月14日(土)
講師:大島堅一氏(立命館大学国際関係学部教授)
演題:「日本の原子力政策と各電力源の本当のコスト」
内容:①交付金を使った原子力推進体制、核燃料サイクル・放射性廃棄物の処理処分計画のしくみや問題点/②各電力源のコスト比較
第4回 2012年2月19日(日)
講師:松原弘直氏(環境エネルギー政策研究所理事・主席研究員)
演題:「自然エネルギーの現状と課題、その解決策」
内容:①自然エネルギーの普及・技術・コストの現状と今後の可能性、課題の解決策
②電力供給のしくみ/③エネルギー政策の決定のしくみ
第5回 2012年3月24日(土)
講師:渡辺利綱氏(福島県大熊町長)、三屋裕子氏(元全日本バレーボール選手)
演題:対談講演「原子力と地域社会―共生とその帰結―」
第6回 2012年4月21日(土)
講師:勝呂幸男氏(日本風力エネルギー学会会長)、本多潤一氏(太陽光発電協会幹事)、上坂博亨氏(富山県小水力利用推進協議会副会長)
演題:「風力、太陽光、小水力―その実態と具体策―」
内容:①各電力源の普及・技術・コストの経緯・現状・可能性、課題について
②福井県で事業展開する場合の具体的な可能性・方法について
第7回 2012年6月2日(土)
講師:開沼博氏(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員)、
村上達也氏(茨城県東海村長)
演題:「原子力と地域社会―過去と未来を見つめてー」
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THE JOURNAL編集部
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