長崎の平和祈念式典で長崎市長と被爆者代表が、目の前に座る安倍晋三首相に向かって憲法改正につながる安保法案の企みを痛烈に批判する言葉を投げつけた。このような公の席で、しかも今年は過去最高の75カ国・地域の代表が参加して国際的にも注目される中で、時の首相が壇上から面罵されるという前代未聞の事態である。
田上富久市長は「戦争をしないという平和の理念は永久に変えてはならない原点だ」「安保法案で憲法の平和の理念が今揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっている。この声に耳を傾け慎重審議を」と求めた。続いて立った被爆者代表の谷口稜曄さんは、16歳で被爆して肩から左手まで皮膚が垂れ下がり、背中の皮膚もすべて剥げ落ちて、1年9カ月もうつぶせのまま生死の境をさまよった体験を語りつつ、「戦後日本は再び戦争をしないと世界に公約した憲法を制定した。しかし今、集団的自衛権の行使容認を押しつけ、憲法改正を推し進め、戦時中に逆戻りしようとしている」「戦争につながる安保法案は、許すことはできません」と言い切った。
さらに式典後、被爆者団体と面会した首相に対しても、原爆手帳友の会の井原東洋一会長が安保法案について「私たちは『戦争元年』とも表現すべき危機感を禁じ得ない」と撤回を迫り、また「法的安定性無視」の礒崎陽輔首相補佐官の発言についても「首相の意を体した確信犯だ」と正面切って非難した。
谷口さんは、米軍が撮影した「赤い背中の少年」の写真で知られる言わば有名人で、かつて長崎原爆被災者協議会の会長も務め、74年には一度「平和への誓い」を読んでいる。すでに86歳で、今年も3回の入院を繰り返して7月末に退院したばかり。恐らく精神力だけで2度目の壇上に立って「これが最後」とばかりに言葉の爆弾をぶつけたのだろう。
その澄み切った覚悟に、6800人の参列者は一瞬シーンとなり、それから大きな拍手を2度も送った。安倍はいたたまれない様子でオロオロと周りを見回していた。そりゃあそうだろう、安保法案で自衛隊が米軍の核兵器を運べるようになるとかならないとか、核を含む戦争を弄んでいる安倍は、この場から叩き出されてもおかしくなかった。
谷口さんらの命を賭けた裂帛の言葉が、安倍政権への国民的な反乱の広がりを加速させることになろう。▲(日刊ゲンダイ8月13日付から転載)
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THE JOURNAL編集部
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