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高野孟:農協を潰せば農業がよくなるという妄言の裏にあるもの

2015/01/28 15:11 投稿

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自民党の稲田朋美政調会長が17日、自分の地元の福井でJA組合長や農業者を集めて「農協改革」の説明会を開いたが、参加者からは「自民党の農政が失敗だったことの反省が先だ」などの厳しい意見が噴出してほとんど立ち往生の状態に陥った。それはそのはずで、弁護士時代かられっきとした右翼活動家で、たまたま05年の小泉郵政選挙で「刺客」としてこの地に舞い降りただけの彼女に農業・農政・農協の「の」の字も分かるわけがない。

 そもそも安倍政権の農協改革というのは意味不明で、対象とされた農協さえ「一度も政府から明快な説明を受けたことがない」と首をかしげている代物である。発端は、規制改革会議が昨年5月に、農協中央会を廃止し、経済部門の全農は株式会社化し、単位農協から金融部門を外し、農業委員会制度を変えて農地を流動化させることを通じて「農業に競争力を導入し成長産業化する」との提言を出し、安倍晋三首相がこれに沿って改革断行を表明したことだが、この提言は農業の実情を何も知らない素人の幼稚な机上の空論にすぎない。農協を潰して大企業が好きなように活躍できるようにすれば農業が成長産業になる? 自然相手の農業は工業とは違って合理的な経営計画など立たない。天候の具合でたまたまキャベツの産地で例年より1割増収しただけで価格が3割も下落してせっかくの作物を捨てるしかないといった非合理が平気で起きるのが農業というもので、それでも農家は、先祖伝来の田畑を守るために耐えて耐えて、これまで何百年もそうしてきたように、その不条理を生きるだろう。しかし、株式会社は利益が出なければすぐに撤退する。

 もちろん農協のあり方には問題が山積みで、本来は農民自身の自治的な互助組織であるはずの協同組合が逆に農民を搾り取る巨大コングロマリットに成り上がってしまっているのをどう改革するかは大きな課題である。しかしそれは、戦後農政が農協を補助金漬けにして行政の下請けにし、それに予算付けをする自民党が票田として利用してきた結果であって、まず改革されるべきは農水省の農政と自民党の農協もたれかかりであるはずだ。自分を棚に上げて農協を潰せば農業がよくなるなど妄言で、それでも通常国会で農協法改正を強行しようとしているのは、大企業のご機嫌取りだけでなくもう1つ、春に決着したいTPPのためにJAバンクの預金残高90兆円、農協関連保険の総資産50兆円、農業共済の総資産300兆円を米金融界にプレゼントするためではないのだろうか。▲


日刊ゲンダイ1月22日付から転載


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
Facebook:高野 孟


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