衆議院選挙が終わった。結果は、自民党と公明党、与党の圧勝だった。いったいこの選挙は何だったのか。安倍首相が今から「4年」という、確固とした時間が欲しいゆえの闘いだった。あらためて振り返ってみれば、そうだったのではないかと僕は思うのだ。

解散せずこのままいけば、2年後に衆議院選挙だ。だが、2年後に勝つ自信はない。これが安倍首相の本音だったろう。だから、景気もまだよくて、野党が選挙準備していない、いまのうちに「前倒し」選挙をしたかったのだ。このことは、以前に書いた。

では、それではなぜそこまでこの「4年間」がほしかったのか。4年間にこだわった理由はなにか。やはり安倍首相は、「戦後レジーム」からの脱却を目指しているのだ。どうしてもそう思えて仕方ないのだ。

では「戦後レジーム」とは何か。大きく分けて4つある、と僕は思っている。ひとつめは極東軍事裁判、いわゆる東京裁判の否定である。

東京裁判とは、東条英機、広田弘穀、板垣征四郎など、日本の戦争指導者がアメリカを始めとする連合国に裁かれた裁判だ。彼ら「戦犯」たちは「平和に対する罪」や「人道に対する罪」で裁かれた。ただしこれらの「罪」は、戦争末期に当時のルーズベルト大統領やチャーチル首相によって、定義されたものだ。つまり、法律が定められた時点より、さかのぼって罪に問う、いわゆる「事後法」なのだ。

ゆえに、本来なら認められるものではない、裁判自体無効だという考え方もある。だから安倍首相は、「A級戦犯」が祀られているからといって、靖国神社に参拝しないのはおかしい、と考えている。

2つめは、日本国憲法に対する考えだ。日本国憲法は、実質的にアメリカが作ったものである。現在の憲法が、全体的に国民の「権利」ばかりを謳い、義務が前面に出ていない、それを安倍首相は不満に感じている、と僕は思うのだ。また、憲法第9条に書かれた、「戦争の放棄」「戦力の不保持」は、アメリカが日本を弱体化させようとしたものだということも定説だ。だから、安倍首相は憲法改正を目指しているのである。

3つめは、2つめとも関連する。日米安保条約についてだ。現在の日米安保は、アメリカに守ってもらう代わりに、日本がアメリカに従属する、つまり「子分」のような形になっている。安倍首相は、ここから脱却したい。そのためには、軍事力が必要だ。つまり、やはり憲法改正が必要になってくるだろう。

4つめは教育だ。もっと国や家族を大切にする教育をしたいと安倍首相は考えている。例えば、現在は正式な教科ではない「道徳」を正式教科にしようと考えている。これも「戦後レジームからの脱却」の第一歩になるのだろう。だが、もしこれらの「戦後レジームからの脱却」をやり遂げようとすると、2年ではとても足りないのだ。

安倍首相は今回の選挙で、「戦後レジームからの脱却」を争点にしなかった。いまのままでは、国民の抵抗が大きいことを知っているのだろう。そして、2016年の参院選挙でも、きっと争点にはしないはずだ。そして、参院選挙でも与党が勝利したうえで、確実にやり遂げようとしているのだ。

僕はこれらの「脱却」すべてを否定するわけではない。ただ、このことで国としてのあり方は大きく変わるだろう。それは間違いないことだ。だからこそ、とことん議論が尽くされないといけない、と僕は考えるのだ。「経済」というヴェールに包まれた、本来の争点を僕たちは見逃してはならない。来年はそういう視点で、安倍政権をしっかりと見据えなければならない。


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〈田原総一朗(たはら・そういちろう )プロフィール〉
1934年、滋賀県生まれ。60年、岩波映画製作所入社、64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学
館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』講談社)、『2時間でよくわかる! 誰も言わなかった! 本当は恐い ビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム)など、多数の著書がある。