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篠塚恭一:地域交通の大きな役割 ── 街へ出よう!(14)

2014/12/09 08:00 投稿

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  • 篠塚恭一
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私達の暮らしに欠かすことができない生活交通にかかわる法案が、昨年「交通政策基本法」として国会で可決されました。少子高齢化社会や環境への配慮、さらに観光立国への国際対応などその内容は広範にわたっていますが、目的は国民生活の安定向上および国民経済の健全な発展を図るとありました。 東京で働き週末は田舎で過ごすという、いわゆる二地点居住をはじめて十年になります。地方で暮らす年寄りは、夜の8時を過ぎれば床に入るのが習慣で、都会に働く者には暮らしの違いに戸惑うこともあるのですが、一方で便利ではありますが仕事ばかりの都会暮らしから少し距離を置くことは、心身のストレスを和らげ、休み明けには仕事の効率が上がっているのに気づかされます。

こうした暮らしをはじめた頃は、老親もまだ70歳代だったので、多少帰りが遅くなっても駅まで5kmの道のりを車で迎えに出てくれました。しかし、歳を重ねるにつれ、夜の運転を嫌うようになり、最近は日中でも周囲が車で出かけることを心配するようになりました。どこにでもあることですが車社会の地方に暮らす年寄りは、こうして徐々に生活圏が狭くなり、外出の機会が減ることで社会との接点を失い、だんだんと身体も弱っていくのがわかる気がします。

先日、久しぶりに青森を訪ねる用事があり、全線開通で便利になった東北新幹線に乗る機会を得ました。東京からわずか3時間足らずで行けるようになった八戸駅、訪ねたのはそこから二駅ほど離れた場所でしたが、駅は無人で、下車してからあたりを見渡しましたが、真昼にもかかわらず人影はありませんでした。訪ねた介護施設の主に聞けば、自分達も子供のころから駅は使ったことがないと土地の暮らしを教えてくれます。地方は車社会で都市とは根本的に交通事情が違うことを改めて感じさせられました。

私のように時々田舎に帰る人間は、地元からすれば観光客と同じようなもので、列車の乗り継ぎや路線バスの本数が少なくなり、ほとほと移動に困ることが増えたにも関わらず、その声はごく稀なこととしかとらえられません。今でも一人でタクシーを使うというのは憚られますから、これまで老親の迎えがあったことは本当に貴重でそれに代わるものを考えると見当たらず、田舎への足が遠のいています。

自治体はますます財政が厳しくなり、これまでのような補助金で公共交通を支えることはできなくなるといいますから、これからさらに地方の交通事情は厳しくなります。私の田舎ではこうした解決策の一に中心市街地までコミュニティバスを運行させようと計画したことがありますが、地元の交通事業者から強い反対が出て実現は叶わぬままでいます。

今回の法案成立で国から地方へと権限移譲がなされることになりましたが、そこに暮らす人が必要とする地域交通全体をいかに再構築するのか、現実的に維持可能な移動手段は何かを決めていくことが重要になります。

まだ地域によっては、民間事業者と市民が行う移動支援活動の間に大きな意見の隔たりをあると感じることが少なくありません。

さらに自治体の中には外出支援の文言がすでに一般財源化されているので、生活支援から移動サービスが外されるということも懸念されています。しかし、少なくともこの法案の目的に沿って地域住民の意見を自治体が支える形で事業者など、関わる人同士が意見を交わすテーブルが増えることには期待できます。そこでは、私たちがどのような地域を未来の子供たちに残そうというのかをしっかり議論して欲しいと思います。

全国を見渡せばさまざまな取り組みやよい事例があり、地域が一体となって移動問題の解決へ向けた取り組みを進めているところもあります。

行政は何をもって権限を行使するのか、どう地方で決めていくのか、今、暖かいお金の流れを創っていく必要があると思います。


【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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