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高野孟:無原則に適用拡大される「集団的自衛権」

2014/05/21 09:00 投稿

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  • 高野孟
間もなく政府に提出されるはずの安保法制懇の報告書の第Ⅳ章「おわりに」には、集団的自衛権の行使に当たって「歯止め」となる要件が示されることになっていて、その第1は「日本と密接な関係のある国が第三国から攻撃を受け、その国から明確な支援要請があった場合」なのだそうだ。私は、この最初の1行を読んだだけで、安保法制懇の方々の頭が大混乱に陥っているのではないかと疑ってしまう。

集団的自衛権とは、軍事同盟あるいは相互防衛協定を結んでいる国同士が、自国は攻撃されていない場合でも、他国が攻撃されたらそれを我が事と認識して共に血を流して戦うという盟約である。仮に日本が集団的自衛権を発動するとすれば、その相手は日米安保条約を結んでいる米国以外にありえない。それを「密接な関係にある国」などという情緒的な表現を用いて他のいろいろな国にも当てはめようというのは、「歯止め」でも何でもなくて、無原則な適用拡大でしかない。

では例えばどこの国を想定しているかと思うと、礒崎陽輔首相補佐官は3月のラジオ番組で「オーストラリア、フィリピン、インド」を挙げ、また石破茂幹事長は3月の講演で「日本にとって米国だけが密接な国ではない。フィリピン、マレーシア、インドネシアは入ってくる」と言っている。こんな具合に、自国にとって「密接な国」を勝手に指名して、「攻められたら守りに行ってあげますから」などと言うことが、どれだけ国際的に非礼かつ無思慮なことであるか、この人たちは分からないのだろうか。

しかも集団的自衛権は双務的なものであるから、そうやって日本から「密接な国」とご指名を受けた国々は、日本が攻められた時には助けに来なければならない義務を負う。軍事同盟も相互防衛期協定も結んでいない相手とどうしてそんな血の盟約を交わすことが出来るのか。さらに最もありうることとして想定されているのは朝鮮半島有事であるのに、韓国は「密接な国」として例示されていない。なぜ? 日本が手助けを申し出ても断られるに決まっていて、恥をかくことになるからだ。馬鹿げているにもほどがある。

もっとも石破は4月末にワシントンでの講演で「将来は米国と同盟を結ぶ各国が多国間安保体制を構築する可能性がある」と、中国を仮想敵としたアジア版NATOを創設したいと語っている。そういう条約が出来ればいろいろな国を集団的自衛権の対象に入れられるのは確かだが、21世紀にそんな冷戦型の軍事機構を作ろうと思うこと自体が狂気の沙汰である。▲
(日刊ゲンダイ5月14日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

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