先日、家入一真さんにこの大隈塾へ来てもらった。彼が今年の1月、東京都知事選に出馬したことは、みなさんの記憶にも新しいだろう。そのとき家入さんは35歳。候補者の中でもっとも若かった。
じつは家入さんは、中学2年生のときから引きこもりだったそうだ。高校卒業後に就職したものの、「まともに働けなかった」という。
だが、そこからが彼のすごいところだ。インターネット関連の会社を起こして、最年少で株式上場したのだ。29歳のときのことである。そして、十数億円という資産を得たそうだが、カフェ経営等々で、結局すっからかんになってしまう。
このような経験から、家入さんは、給与のためだけに働くのではない、ものづくりの集団ができないかと考えた。そして作ったのが「リバティ」である。つづりは「Liverty」。「自由」「解放」を意味する「Liberty」に、「生き方」である「Live」を組み合わせた造語だ。
家入さんによれば、「サークルのような団体」。会員の中には、会社を辞めた人、大学は卒業したけど就職しない人やできない人、自殺したいという人も多いという。つまり彼らの多くは、「メインのシステムからこぼれ落ちた人たち」なのだ。家入さんが給料を払うわけではない。「たくさんいる仲間たちと一緒に、プロジェクトを立ち上げてお金を稼げればいい」ということだそうだ。
一方で、「リバ邸」というシェアハウスも作った。現代の「駆け込み寺」だ。渋谷、六本木、仙台、大阪、京都など、10カ所くらいあるそうだ。
仲間と住まいを共有することで、安く生活できる。だが、それだけではない。共同体のベースにもなるとのことだ。「メインのシステムから外れた人たち」が、物理的にも精神的にも、支え合って生きていける可能性が開かれた場なのである。
「社会で生きづらい人たちの居場所を作りたい」。家入さんはこう語る。当初は、政治とは関係なくやっていこうと彼は考えていた。しかし、やがて政治に対して無関心ではいられなくなった。こうして家入さんは選挙に立候補したのだ。
都知事選では、8万8936票を獲得した。候補者中、第5位の得票数だ。だが、数字に表れている以上に、投票権のない10代に多くの支持者がいたようだ。
「日本は物は豊かだし、安全だし、いい国だと思います。けれどその一方で誰もが、『弱者になり得る』社会でもあります。全国民というのは難しいかもしれないけれど、できるだけ『生きづらさ』のない国にしたいんです。そのためには、中央集権では無理があるのかなと。ヒントは地方にある気がするんです」
家入さんは、このように語った。そして、その言葉のとおり、いま、日本全国を行脚しているそうだ。
家入さんは今後、政治家になるかもしれない。それは、彼自身にもわからない。なぜなら、「政治家になる」のが目的ではないからである。自分の理想を実現させることが、家入さんにとって、いちばん重要なのだ。
彼は「トライセクター・リーダー」という言葉を口にする。企業や政府などの垣根を越えて活躍する人材、という意味だ。そのように動けるのであれば、政治家になる必要はないのかもしれない。
家入さんの姿勢に、柔軟で新しい、しかし本来の意味での政治のあり方を見たような気がする。彼のようなひとの登場を僕は大いに期待しているのである。
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