17日の自民党総務会懇談会で、閣議決定だけで集団的自衛権の解禁に道を開こうとする安倍晋三首相のやり口に対する慎重論が噴出、各紙とも約20人の発言要旨を載せているが、その中でドキッとするのは野田毅税調会長の発言だ。「周辺国がどう見るか。日本が警戒しないといけないのは、独り善がりと見られることだ。米国が日本を助っ人として必要だと今、思っているのか。米国もありがた迷惑と思っていないか分析が必要だ」(朝日、東京など)。本欄で何度か書いてきたように、ここが4月オバマ来日を控えて日米関係の最大の焦点なのだ。

対日安保マフィアの筆頭格であるジョゼフ・ナイ=ハーバード大学教授は16日付朝日でインタビューに応じ、「日本の集団的自衛権行使はナショナリズムで包装さえしなければ、東アジアの安定に積極的な貢献を果たしうる。しかし、首相の靖国参拝や河野談話、村山談話見直しの兆候が合わさると、良い政策を悪い包装で包むことになる」と述べている。これは直接には、朝日が解説しているとおり、安倍の愛国路線が中国や韓国を無用に刺激して地域が不安定化することを米国が望んでいないというメッセージだが、私の見るところ、米国が安倍に対して抱き始めた懸念はもっと深い。

集団的自衛権行使とは、要するに海外で武力行使を出来るようにするということである。米国に協力するためだと言ってひとたびその道を拓いてしまえば、実は米国などどうでもよく、自主防衛の軍事強国に向かって突き進むつもりなのではないか──という疑念である。安倍が憧れて止まない祖父=岸信介は、戦後政界に復帰するや「日本再建連盟」を結成して、自主憲法制定・自主軍備確立・自主外交展開の運動を推進し、吉田茂の「軽武装・対米協調」路線と対立した。彼は55年、鳩山政権の幹事長として重光葵外相と共に訪米し「日米安保対等化、日米で西太平洋を共同防衛、在日米軍撤退」という安保改定構想をダレス国務長官に提案して「100年早い」と一蹴される。それで岸は、米国の許容する範囲でギリギリまで安保を対等化し、そこに「自主」への夢を埋め込むという60年安保改定の構想を立てたのだ。

同じ道を安倍が歩もうとしているとすれば、それは確かに米国にとって「ありがた迷惑」な話で、4月の首脳会談ではオバマのほうから「集団的自衛権解禁は今は止めておいた方がいい」と言い出して安倍が呆然として絶句するという場面もないとは言い切れまい。▲(日刊ゲンダイ3月19日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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