「次はゆっくりと雰囲気を楽しみたいのですが、どんな旅がおすすめですか?」
はじめての介護旅行が成功して外出に自信をつけたお客様から、そんな質問を受ける。
脳卒中や心臓疾患など大病をした後の旅は、誰もが不安で周囲も緊張しているのが伝わってくる。だから我々は平静を装うが、本人の不安は計り知れない。寝たきりの身体を起こす前に、まず気持ちを起こさなければ介護旅行は始まらない。旅はリハビリというが、自らも忘れかけた欲求を呼び起こし、気持ちに火をつけるのがトラベルヘルパーの上級テクニックにある。
あきらめかけていた旅の仕事は段取りが8割なので、リピーターとなって気心知れた関係ができた方からは、旅行以外にもさまざまな相談を受ける。家族にも相談できない、医療や介護のプロでも解決できないことが誰しも一つや二つはあるものだ。
常連からは、その日の気分とお天気次第で、どこかへいいところに連れて行ってほしいという希望がある一方で、不自由な身体には、荷物を気にせず身軽に行けるのがいいから、何か探して欲しいというものもある。
そこで今おすすめなのが船旅だ。
特に今年はユニバーサルデザインが標準化している大型外国船がたくさん就航するようになったおかげで旅費がぐっと下がりお得になったからだ。車いす対応の客室も多く、コースによっては、これまでの5分の1くらいの価格になって、しかも、短い日数で選べるものもたくさん出来たので、体力に不安のある人にも身近で優しい旅が増えた。
介護が必要な人の旅は、荷物が多いのがネックだが、船旅はホテルがそのまま移動してくれるので、持ち運びや荷造りの面倒がない。いったん荷物を船会社に預けてしまえば、客室まで運んでくれるから身体一つで港に行けばいい。下船時も宅配会社に頼めば手ぶら帰ることができる。
団体行動が心配なら、個別に観光タクシーや福祉車両を手配しておけば、気兼ねなく寄港地の観光を楽しむこともできるし、屋形船や小さな観光船でも車いす利用者を受け入れてくれるところが増えているので、あきらめずにチャレンジしてほしい。
欧米では、地中海やカリブ海クルーズなど人気のコースがたくさんあって、昔からクルーズ文化が浸透していた。中でも大型船は、長期間のものが多かったのでリタイア層でなければ参加しにくかった。したがって、サービスも高齢者標準が当たり前で、歩くことに不安な人の利用も多いから、寄港地には数えきれないほどの車いすや電動シニアカーが用意されている。そうした光景が、日本の港にも珍しくなくなる日が近いと思う。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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