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【無料公開】田中良紹:何が「国益」か

2013/05/10 07:13 投稿

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川口順子参議院環境委員長の解任決議案が可決され、与党は「国益」を考えていないと野党を批判している。川口氏は国会を留守にしても中国要人との会合に出席した方が「国益」になったと主張しているのである。

しかし中国要人との会合に出席する事が「国益」になったのか、出席しない方が「国益」だったのかは両方あり得る。与党が「国益」だと言うのならどこが「国益」なのかを説明する必要がある。ただ会合に出る事が「国益」だなどと子供じみた事は言わないで欲しい。

報道されているところで言えば、そもそも川口氏は自らの判断で委員会の日程を決め、その前日には中国から帰国する予定であった。ところが中国側が日程を変更したため滞在を1日延長して委員会を欠席する事になった。

つまり川口氏は中国側の日程変更を受け入れそれに従った事になる。それでは中国側の日程変更に従わなければならないほど日本にプラスになる何かがあったのであろうか。それが説明されていない。尖閣問題で日本の立場を主張する事が重要であるかのように言うが、日本の主張がどのようなものかはすでに世界中が知っている。川口氏が改めて説明するまでもない。また川口氏が日本国を代表する立場で行ったのかと言えばそうでもない。

中国側がどのような理由で日程を変更したのかは知らないが、あり得るのは急に日程を変更して相手がどう出るかを観察する事である。従えばそれだけ会いたがっているという事で中国にはくみしやすい。従わずに帰国すれば交渉はタフになると考える。それを試す意味での日程変更だったかもしれない。今回のケースで言えば日本の国会を混乱させても中国要人に会いたがったと言うメッセージが中国側には伝わった。

川口氏が中国側の日程変更に従ったのは、安倍政権の意向だったのか、それとも自民党の意向だったのか、あるいは川口氏個人の意向だったのか。三通りのケースが考えられる。安倍政権の意向だったとすれば、安倍政権発足時から続いている弱腰外交がまたもや繰り返された事になる。この政権は首脳会談を行ったアメリカからもロシアからも足元を見られた。今回はそれに加えて中国にもにじり寄ろうとする姿勢をあからさまにした事になる。

川口氏はしきりに自民党と相談したと言い、官邸は距離を置いた対応をしている。それを見ると官邸の意向ではないようにも見える。自民党執行部の判断だとするならばそれもお粗末な話である。あるいは自民党には初めから野党に批判させそれを野党叩きに利用する考えがあったかもしれない。昔の自民党は選挙のある年にはわざと労働組合にストライキを打たせるよう企業経営者に圧力をかけ、ストをメディアに叩かせて選挙に利用した。そのため与党は今回予算委員会を欠席するなど問題をあえて大きくしてみせたのかもしれない。

昔の野党は確かに国会を理由に閣僚の国際会議出席を認めなかった。大臣がいなければ国会を開く意味がないと言って国際会議に出席させないように嫌がらせをした。そうした悪弊の防御策として作られたのが副大臣制度である。大臣が海外に出ても副大臣が答弁要員として国会に出席するようになった。

だから今では昔の野党ほど閣僚の国際会議出席が妨害されることはない。しかし今回は昔の対応を思い出させるようなメディア報道で国民に野党批判をさせようとした。何も考えないメディアは与党の思惑通りの報道を行い、「政治は一体どうなっているのだ」と嘆いて見せる相も変らぬ馬鹿馬鹿しい政治批判を行った。

「国益」を真剣に考える国は、中国側の一方的な日程変更を受け入れて国会を混乱させた話を、「国益」になるとかならないとかで揉める国に首をかしげるに違いない。会合に出席するかしないか程度の話を「国益」の問題として騒いでほしくない。それでは「国益」があまりにも軽々しくなる。

しかしこのところ政治の世界から聞こえてくるのは軽々しい話ばかりである。「日本の憲法改正要件は世界で最もハードルが高い」と嘘を言う政治家がいて、改正要件を軽くしろと騒いでいる。よくよく世界を見てほしい。国家の最高法規を軽々しく考えている国などどこにもない。どの国もハードルは厳しく出来ている。それでも憲法改正を行ってきたのは政治家たちがまっとうな努力をしてきたからである。まっとうな努力もせずに軽々しく騒ぐのは止めてほしい。

現実を直視しない政治家たちの嘘発言を続けさせれば、国際社会はますます日本を馬鹿にする気になるだろう。海外がアベノミクスをもてはやすのも「豚は太らせてから食え」と考えているからで、日本の経済成長を助けようと思っている訳ではない。腹の中では馬鹿にしながらそれを喜ぶ日本人を観察している。


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【関連記事】
■田中良紹:馬鹿なポピュリズムを生み出す改憲論(5.4)
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■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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コメント

川口氏の予算委員会欠席の正当性は、お話の通り、川口氏自信が明確化する必要があるのではないか。政治家の評価は結果論であるから、川口氏は一日日程を延長したことによって、中国側からどのような成果が得られたか、オープンに出来る範囲で国民に示すべきである。国民が納得できれば、野党も納得しないはずがありません。材料がなくては、野党の言うとおりの辞任で仕方ないというべきでしょう。
アベノミクスによる金融緩和は、大きな影響を国際的に与えており、中小国は物価上昇が心配される。実体経済を補填する意味での金融経済であれば是認できるが、現状は明らかに金融経済が世の中を支配しています。日本の金融緩和のお金は多く米国債購入に流れていき100円を超える円安につながり、欧米からは株式市場を絶対的に支配する程度(日本から見ればたいした金額ではない)のお金が流れ込んでいます。個別的に見ていくと大きく何倍にも値上がりしており、一斉に株式市場から一時的に退去した場合の株式市場の混乱は何回も経験してきているが、今回は想像以上の混乱を引き起こしかねない。国の利益を守るため、そのときの対策は充分考えておく必要があるのではないか。株式市場を一部の人の市場と見ることなく,正常な重要な市場と見て、企業だけでなく国民の資産を守るため充分目配りすべきでしょう。

No.1 139ヶ月前

日程が遅れたくらいで解任を求める野党こそ子供じみている。
ただ政局のための嫌がらせをしているだけだという事を国民に看過されているのだ。

何も考えてないのお前らだよw

No.2 139ヶ月前

話題が飛びますが、なんだか自民党がおかしくなっている。麻生副総理がインドで「中国とは1500年の長い間、スムーズに行ったことがない」といっているが、日中共同声明、日中平和友好条約に尽力苦労された先輩たちの労苦、現在の中国との貿易を、どのように理解しているのだろうか。村山談話の「侵略行為の謝罪」を否定しかねない発言を安倍総理がして、米韓中の反論が出ると、菅官房長官が否定し、村山談話を肯定したかと思うと、又、高市女史が侵略行為を否定している。全くもって自民党の大混乱が始まったようだ。民主党に続いての自民党の国民不在の混乱は、いい加減にしてほしい。何とかならないものでしょうか。

No.3 139ヶ月前
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