元日刊ゲンダイ編集部長でBS11解説委員の二木啓孝さんに、総選挙の争点や3年半の民主党政権について伺いました。

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二木啓孝(元日刊ゲンダイ編集部長)

──総選挙の争点は、どこにあるのでしょうか?

いま、メディアで言われている衆院選の争点は、「消費税」「原発」「TPP」の3つです。しかし、これは本当の争点ではありません。

民主党政権の3年間で最大の出来事は「東日本大震災」です。ところが、各党の公約を見ても、被災地復興の優先順位は低く、「入れておけばいいか」くらいの話でしかない。

政策課題で言うと、復興予算の流用問題がまったくおざなりになっている。そこから総選挙でどの政党に1票を託すべきかを考えると、私にはどの政党にもピンとくるものがありません。

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──民主党政権の3年間をどのように評価していますか


「政権交代」という壮大な実験が終わったということでしょう。「政権交代」とは、新しい政治を実現するための手段にすぎないのに、その後に「どういう政治をやるのか」という目的がなかった。民主党は政権交代を目的に集まってきた「選挙互助会」だったということです。

民主党政権の3年間は、民主党内で権力を取り、首相となった人が、自分の思う「政権交代後の政治」をやってきました。だから、鳩山さん、菅さん、野田さんで政治の方向性がまったく違った。仮に、小沢さんが首相になっていたら、野田さんたちが党から出て行ったでしょう。つまり、2009年の政権交代の塊そのものが、呉越同舟にすぎなかったんです。

選挙後は、自民、公明、民主で政権運営をしていく可能性が高い。野田首相のやってきたことは、自民、公明と協力するために、それを認めない人を民主党から排除したということです。

──尖閣諸島問題と総選挙が重なったため、対中国政策も争点に浮上してきています

尖閣諸島問題を軸にして、「中国にどれだけタカ派的な振る舞いができるのか」という競い合いになっています。憲法改正や国防軍の設置などの政策が出てきているのも、その流れです。私は、領土問題の解決には50年かかると思っています。なのに、その間の交渉の一部局面だけを切り出し、「国のあり方」を考えるのはおかしい。

この流れで私が心配しているのは、世間ではいまだに「強いリーダー」を望む声が強いことです。2006年の安倍政権以来、総理が6人も入れ替わりました。だから、橋下徹さんや石原慎太郎さんのような「強いリーダー」が注目を集めている。

ですが、「強いリーダー」がいれば世の中が変わるわけではありません。それは「幸せの青い鳥」がどこかにいると思って、それを求めてさまよい続ける「青い鳥症候群」にすぎないのです。

──東日本大震災後、初の国政選挙です。日本人は何を考えて一票を投じればいいのでしょうか

各党は「成長戦略」を語っていますが、「名目GDPを何%、実質GDPを何%成長させる」という問題設定の立て方自体が間違っていると思う。

福島第一原発事故も含め、2011年3月11日の東日本大震災は、日本社会に何を突きつけたのか。私には、成長戦略の話なんてコンニャク問答にしか聞こえません。むしろ今回の選挙で問われるべきは、たとえば、国全体としては1%程度の安定した成長でもいい
から、この十数年で開いた中央と地方の格差をどう是正していくことではないでしょうか。

震災の被害を受けた南相馬市の桜井勝延市長と話をしたときも、被災地と永田町の政党が言う復興には、「大きなギャップがある」と話していました。実は、これが今の日本で一番深刻な問題なのです。

(取材・編集:THE JOURNAL編集部)