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高野孟:安倍“首相”になっても変わらなかった一知半解の政界遊泳

2020/09/07 12:00 投稿

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安倍晋三首相が辞意を表明して、軽い虚脱感を覚えている。というのも、この連載は、2012年12月26日に第2次安倍内閣が発足し、年が明けて動き出したばかりの13年1月12日付から開始して、本紙の休刊日を除いて弛むことなく書き綴り、ご覧の本稿で第380 回に達した。

そのほとんどは安倍への批判に充てられ、これが同内閣の同時進行・常時監視ドキュメンタリーのような役目を果たすことになったので、街中で「あ、ゲンダイ、毎週楽しみに読んでますよ」と声をかけられることも多々あった。それで、来年9月の自民党総裁任期一杯までこの調子で批判のトーンを上げていこうと心に決めていた矢先に、その言わば“仮想敵”がフッと視界から消え去ってしまったのである。1日も早く安倍を政権の座から引き下ろそうと思って書き綴ってきたというのに、いざ辞められると寂しくなるというのは、おかしな感覚である。

私が安倍と直に言葉を交わすようになったのは小泉政権の時で、彼は官房副長官もしくは長官として何度も「サンデー・プロジェクト」に出演した。ある時、彼が「中国の江沢民政権は300カ所の『反日教育拠点』を指定して子供たちに日本への敵意を煽っている」と発言した。私はたまたまその300カ所のリストを手元に持っていたのでそれを見せて、「300カ所は歴史教育のための遺産リストで、孔子の生家とか孫文のお墓とかいろいろ入っていて、それが近代史となると731 部隊とか南京虐殺とかの日本の侵略がらみの施設が混じってくるのであって、全部が『反日教育拠点』であるかに言うのはデマゴギーですよ」と言った。こういう場合の彼の反応は決まっていて、目が自信なげに泳いで額に汗を滲ませ「あっ、それはちょっと、あのですね、精査した上でまた今度」とか言って逃げてしまうのである。

似たような場面を何度か経験して、「この人は自分で原資料にまで当たって勉強する気がなく、お仲間の右翼人士が雑誌に書き連ねていることを読みかじり聞きかじりで口にしている、薄っぺらな一知半解だけで政界を泳いでいるような人なんだろうな」と理解したが、それは首相になっても何ら変わっていないようだ。

その頃から数えれば約20年の安倍との付き合いということになるが、それも今週でお終いで、安倍さん、どうもお疲れ様でした。私は引き続き貴殿の後継者を批判し続けます。▲
(日刊ゲンダイ9月3日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
Facebook:高野 孟

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