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田中良紹:感染症リスク低下より支持率低下リスクを重く見た安倍総理会見

2020/03/02 08:00 投稿

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29日午後6時からの安倍総理会見をテレビで見たが、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるより、自分の支持率低下リスクを第一に考え、どうすれば国民が喜ぶかを計算した内容だと思った。

 それでもそのことで新型コロナウイルスの感染拡大を抑止できるのなら問題はない。しかし会見ではそれがまるで分からなかった。「あらゆる手を尽くす」とか「断腸の思い」とか「先頭に立って決断する」とか、いつもながらの安倍用語を並べられると、安っぽい田舎芝居を見せられた気がした。

 そもそも昨年来「桜を見る会」の追及を受けていた安倍総理が、追及をかわすために今年最も力を入れていたのは「東京五輪」と「習近平主席の国賓としての訪日」である。1月の所信表明演説も「東京五輪」に絡む話のオンパレードだった。

 ところが安倍総理が所信表明演説を行った頃、中国では新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状態に入っていた。これは「東京五輪」と「習訪日」の両方を直撃し、最悪の場合は両方ともが中止に追い込まれる可能性がある。

そうなれば今年安倍総理が描いていた政治シナリオは完全に崩れる。そのため新型コロナウイルスへの対応は、「東京五輪」と「習訪日」に影響を与えないようにすることが最優先され、「国民の命を守る」という視点はその次だったように私には見えた。

未知のウイルスに対し日本政府が直ちに非常事態の対応を取れば、国民は心理的パニックに陥り、4月上旬に予定される「習訪日」や7月末開催の「東京五輪」にマイナスの影響をもたらすと安倍政権は考えた。だから当初は、水際で食い止めると国民に思わせる楽観的な対応だった。

その水際対策の象徴となったのがダイアモンド・プリンセス号である。陽性の患者は下船させて入院させるが、陰性の人間は一時隔離して症状が出なければ下船させる。ところが陽性の患者が増え、海外メディアはダイアモンド・プリンセス号を中国の武漢に次ぐ第二の感染源と報じた。

しかも安倍政権の対応は加藤厚労大臣に任せきりだ。つまり官僚に丸投げである。官僚はいかに責任を取らずに仕事をするかを最優先に考える。だから情報をなるべく出さない。情報を審らかにしてみんなで考えることをしない。上位下達が染みついている。

岩田健太郎神戸大学教授がユーチューブで告発するまで、ダイアモンド・プリンセス号の中の様子はまるで分らなかった。私も海外メディアも官僚主導の検疫体制が被害を大きくしている実態を知った。それでも安倍総理は陣頭に立とうとしない。海外では政治指導者が陣頭に立っているのに、安倍総理の日程を見ると、連日、お友達と夜の会食を続けていた。

ところが感染ルート不明の患者が現れ、ダイアモンド・プリンセス号から下船して公共交通機関を使って帰宅した人の中からも発症者が出て、日本政府の水際対策は「失敗」だったことが明白となり、さらに発熱者が検査を要請しても断られる実態が明らかになった。

なぜ検査を拡大しないのか。患者数が増大することを恐れているからか。もしそうだとすれば「東京五輪」と「習訪日」への影響を恐れた安倍政権の隠蔽工作ということになる。はっきりそれが証明されなくとも、安倍政権の対応に疑問を感ずる国民が増え、安倍政権の支持率に影響を与えるようになった。

2月14日時事通信、支持38.6%、不支持39.8%。

2月16日読売新聞、支持47%、不支持41%。

2月17日共同通信、支持41.0%、不支持46.1%。 

2月18日朝日新聞、支持39%、不支持40%。

2月23日日本経済新聞、支持46%、不支持47%。

2月25日産経新聞、支持36.2%、不支持46.7%。

 読売だけは支持が不支持を上回っているが、しかし支持は前回調査から5ポイントも下落しているのである。さらに産経新聞の調査は、安倍政権の支持層の中に新型コロナウイルスへの対応に批判が強まっていることを物語る。海外メディアは既に安倍政権の対応を「失敗」と断じ、さらに「東京五輪が開催されるかどうか」というニュースも流れるようになった。

 今のところ、日本政府としては「習訪日」も「東京五輪」も予定通り行われることを前提に準備を進めているとしか言えないだろうが、未知のウイルスがどうなるかは誰も予想がつかない。「習訪日」と「東京五輪」を今年最大のイベントと位置付けた安倍総理に危険信号が灯ったのだ。

 それでも未知のウイルスが原因なら「習訪日」と「東京五輪」が中止されても、その責任を安倍総理が問われることはない。しかし問題なのは新型コロナウイルスへの対応を巡る支持率の低下である。危機的なことが起これば、通常は権力者が有利になる。権力者は陣頭に立って国民を危機から守るパフォーマンスが出来るからだ。ところが今回の危機は、安倍総理の支持者から批判が強まっている。

 そこで考えられたのがまず25日の新型コロナ対策基本方針の発表である。医療崩壊を招かないため軽症者は自宅待機してもらい、重症者の治療を優先する。またイベントに対して一律に自粛要請はしないが、必要性を検討してほしいという。さらに臨時休校については学校が適切に実施するよう都道府県から要請してもらうという内容だった。

 しかしこの基本方針にも批判が出た。官僚特有の責任を取らない姿勢がにじみ出て、その反面なぜ検査が拡大できないかに応えていないからだ。すると翌26日、安倍総理がスポーツ文化イベントの2週間の自粛を要請した。これでスポーツイベントの無観客試合や延期が目に見える形で行われることになる。だがこれも、だったらなぜ初めから基本方針に盛り込まないのだという批判を招く。

 すると27日安倍総理は突然、文科省の反対を押し切る形で、全国の小中高校や特別支援学校に3月2日から春休みまで臨時休校を要請すると発表したのである。子供が感染しないようにということだが、しかし新型コロナウイルスに感染しているのは高齢者が多く、子供の感染者数は極めて少ない。この要請にどんな意味があるのか。

 私は「子供を守る」と言えば誰も反対できないという、人気取りの感覚がそれを言わせたのではないかと、聞いた瞬間に思った。会見で質問されても安倍総理は満足に答えない。「専門家会議でこの1、2週間が拡大するか収束するかの瀬戸際になると言われたので私が判断した」と言うだけで、感染者数が少ない子供を対象に、社会的影響が大きくなることをやる理由は説明しなかった。

 小中高校と特別支援学校に通う子供とその家族の環境は一様ではない。それをひとくくりにして同じ対応を準備も議論もなく取らせることに抵抗を感じないのかと私は思ったが、安倍総理はそういうことを全く考えていないようだ。

そして「断腸の思い」とか「何よりも子供の健康」という表現で方針を正当化し、保護者が休職しなければならなくなれば、助成金制度を創設して手当てすると言った。また新規立法で新型コロナウイルス感染に対応するとも言ったが、具体的にどんな内容を考えているのかは皆目分からない。これらは先に行かなければ分からない話である。

私にはアベノミクスと同じで鼻先にニンジンがぶら下げられただけと同じに思えた。とにかく支持率の低下に驚いて、人気取りになりうる材料を集め、それをすべて「私の責任でやる」と言えば支持率に結び付くと考えただけではないか。これは政治家の発想ではなく官僚的発想だと思った。

政治家なら感染の確率の低い子供をダシに、支持率の回復を考えるような恥ずかしいことはやらない。恥ずかしいことをやれば選挙にマイナスになると考えるからだ。しかし選挙の洗礼を受けない官僚は目的のためには何でもやる。まあ3月に何が起きるか見て見よう。


■《庚子田中塾》のお知らせ(3月24日 19時〜)

田中良紹塾長が主宰する《庚子田中塾》が3月24日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

【日時】
2020年3月24日(火) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部会場:KoNA水道橋会議室
東京都千代田区神田三崎町2-9-5 水道橋TJビル202
JR水道橋駅東口 徒歩2分
写真付き道案内 → https://goo.gl/6RvH93
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。
懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

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<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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