■新刊レビュー『平凡』
●書誌情報
どんな本?つい想像してしまう。もしかしたら、私の人生、ぜんぜん違ったんじゃないかって――。
もし、あの人と別れていなければ。結婚していなければ。子どもが出来ていなければ。仕事を辞めていなければ。仕事を辞めていれば……。もしかしたら私の「もう一つの人生」があったのかな。どこに行ったって絶対、選ばなかった方のことを想像してしまう。あなたもきっと思い当たるはず、6人の「もしかしたら」を描く作品集。
【目次】
もうひとつ
月が笑う
こともなし
いつかの一歩
平凡
どこかべつのところで
●読みどころ
淡々と語られていく6人の人生。
自分の「もし」を思い、“平凡”な今があることを感慨深く思える作品。
●レビュー
読了時間:2時間30分
オススメ度:★★★★☆
自分の身近にいた人、あるいは「あの日あのとき」分岐してしまった自分と、今ここにある自分の人生を比較しながら、「もしかしたら」と思いを馳せる――。
角度を変えて、繰り返し「“平凡”でいいじゃないか」と諭される作品だった。決して考えを押し付けられているのではなく、本当にしみじみと。
6作品すべての主人公が30代であり、“結婚”“離婚”が関わるストーリーだったのは少々物足りない。仕事や夢の「もし」を深く掘り下げたものも読んでみたかった。
『もうひとつ』
不倫友人カップルと夫とともに、ギリシャを旅する主人公。いつもとは違う、友人らの喜怒哀楽の激しさに戸惑いながら、自分の“もうひとつの人生”の可能性について考えるようになる。
旅は確かに、普段の自分から離れて、自分を見つめ直せるツールだ。そこからの気づきにはハッとさせられた。
『月が笑う』
突然、妻に離婚を迫られた男。どうしていいかわからず、惨めな思いに苦しみあえぐ。
積み重ねていくと、“許す”ということがなんと難しくなることか。しかし、許し、許されてきたからこそ、今笑うことができるのだと思う。
『こともなし』
料理ブログを書き続ける主婦。日常の機微を通して、別れた恋人が不幸になってほしいと年々強く思う。
自身もSNSへの投稿は、誰に向かってやっているのかと考えさせられる内容だった。
『いつかの一歩』
昔の彼女が営むお店に足を運んだ男の話。今となってみて、彼女とならうまくいったのでは、いくのでは……と仮定してしまう。
過去の恋人を美化して思ってしまうのはよくあること。やり方は賛否両論あるものだが、そこから一歩踏み出すことで、人生が紡がれていく様が描かれている。
『平凡』
この小説集の中でいちばん“平凡”な主婦が、有名人となったかつての同級生と過ごすことで、自分の“地味”な日常に気づきを得る。
久しく会ってない友人とそれまでの人生を語らう面白さの理由が、この物語で一つわかるかもしれない。
『どこかべつのところで』
行方不明となった飼い猫を探す主人公が、猫の目撃証言を寄せてくれた女性とともに“選ばなかった自分”を思い浮かべる。
“後悔”について考えさせられる作品。
●詳細情報
書籍名:平凡
著者:角田光代
価格:1400円(税別)
出版社:新潮社
※表紙画像、書誌情報は新潮社公式ホームページより
http://www.shinchosha.co.jp/book/434606/
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