今回はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログ』からご寄稿いただきました。
■「ドラえもん」という超絶完成された世界観(うさみのりやのブログ)
ドラえもんの映画*1をみたのだけれど、素晴らしいストーリーと超絶に完成された世界観に感動して号泣してしまった。なのであくまで私見だが、ドラえもん論を語ってみようと思う。
*1:「映画ドラえもん 新・のび太の大魔境~ペコと5人の探検隊~」 『映画ドラえもん公式サイト』
http://doraeiga.com/2014/
ドラえもんの世界は「家庭」と「社会」、「日常」と「非日常」という2つの軸で分けられている。家庭というのはのび太の家であり、社会というのは空き地である。 家庭は主として、のび太とのび太の母親こと玉子から構成される世界である。のび太の母親は普遍的な家庭のルール(買い物をする、勉強をする、学校に行く)を語る存在であり常にストーリーの起点であるがそれ以上の役割は果たさない。のび太の父親に至ってはストーリー上なんら重要な役割を果たしていない。そう考えると本質的には家庭はのび太一人が想像を膨らます世界である。だから未来にも過去にも繋がっており、ドラえもんも存在する。(ドラえもんの存在の意義については後述)
一方で社会こと空き地は主として、ジャイアン、スネ夫、のび太、しずかちゃんの4人で構成されている。ジャイアンは権力者として、スネ夫は既得権益として、のび太は一般市民として、しずかちゃんは倫理的存在として描かれている。物語は権力者であるジャイアンが「○○がしたい」と方向性を示し、スネ夫がそれに同調することで進みだし、のび太はその結果を強制される存在である。亜種パターンとして、ジャイアンとスネ夫がしばしば反目し、その場合孤立したジャイアンをのび太とスネ夫がタッグを組んで打倒するというケースもあるが、いずれにしてもジャイアンとスネ夫の関係によって物語の方向性は決まる。のび太は受動的存在である。しずかちゃんはこうした権力構造の外にいて、権力闘争が度を過ぎた場合に空き地の共同体の絆を維持するための倫理的なジャッジメントをする存在として描かれている。しばしばジャイアンの暴走を「たけしさんひどい」、のび太の暴走を 「のび太さんなんて大嫌い」の一言で止める。そのためしずかちゃんは美しく無垢な存在として度々描かれる。
こうして進み始めた物語はドラえもんと出木杉の力を経て進んでいく。ドラえもんは「道具」の象徴として、出木杉は「知識」の象徴としての役割を果たす。ドラえもんとのび太の関係は「無力な一般市民が便利な道具の力を用いて、望みをかなえていく」という近代社会のごく普通の姿である。「そーらーを自由に飛びたいな」「はい、タケコプター」に彼の役割は集約されている。家庭においてドラえもんが道具を説明し、のび太がその使い道を探るのは、新しい機械の使い方をマニュアルを読みながら探る姿を暗喩している。つまりあれは独り言である。一方で出木杉は知識、より端的に言えば「本」の役割を果たしている。その意味で出木杉は静的な存在であり「分からないことがあると出木杉に聞きにいって教えてもらう」以上の役割が無い。そのため必要不可欠なピースではあるが、可哀想なことにメインストーリーに関わることはほとんどない。のび太の母親と一緒の位置づけである。
普段のTV放送では日常世界について描いているのに対して、映画は非日常の世界について描かれている。なのでドラえもんの映画では「空き地からどこでもドアで日常の世界を抜け出す」という描写がしばしば描かれる。これは日常から抜け出すことを暗喩している。映画において特筆すべきは普段は横暴な権力者としてのジャイアンが一点変わって侠気に溢れる存在にかわることである。この様子は「映画版のジャイアンはかっこいい」としばしば賞賛されるが、これは市民がピンチに陥ったときに守ってくれるのは権力者である(というかそうあるべき)、ということを暗示している。スネ夫は情勢に応じてころころと立場を変え、しずかちゃんは物語を正しい方向に導き、ドラえもんは「道具」を提供するというほぼ普段と同じ役割を果たす。そして最後は家庭に帰って玉子の「のび太、ドラちゃんどこ行ってたの」で終わる。これは物語終了のサインである。
このようにドラえもんとは一言で言えば社会の縮図である。ドラえもんを通して作者がおそらく伝えたいことは「普通の市民としての社会との関わり方」である。不満はあっても権力者の庇護の範囲で活動し、お金に流されること無く、倫理に背くこと無く、想像力を働かせて(誰かが発明してくれる)便利な道具を使いこなして目的を達成していく。それを日々繰り返す。
個人的にはドラえもんをこのように見ていますという話でした。ではでは今回はこの辺で。
執筆: この記事はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年04月10日時点のものです。
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