今回は日本出版者協議会さんのブログからご寄稿いただきました。
■拝啓 アマゾン・ジャパン様
いつも小社の書籍販売ではご尽力いただき、感謝しております。
御社が開業以来、人文書並びに文学系の専門書に比重のあるわが社にとっては、大型書店以外では店頭販売の機会が少ないものを含めて大変お世話になっております。当初から比べれば、現在ではわが社の月の売上の15%を占める状態にあります。
御社が、わが国の再販制度を前提に、世界有数の通販会社のノウハウ、特に顧客管理と流通システムの導入による販売力の展開は、わが業界に“黒船的”な変革を迫る物でもありました。当初は、定価販売と送料を含めた書籍の直販の一般的な販売スタイルでした。それでも売上を伸ばし続けたのは、御社の通販会社としての底力であり、業界全体に学ぶべきものを突きつけるものでした。
御社のモットーでもある「読者(消費者)第一主義」という名目による送料の無料化は、大量の物流を確保することによる企業努力の結果として運送会社の協力もあっての成果として評価すべき面もありますが、いわゆる正常ルートの版元→取次→書店の店頭販売という送料不要の通常コースを外れる直販商品の定価は送料分を見込んだ値上がりの傾向を生みました。
出版界の売上が右肩下がりになりはじめ、経済全体がデフレ傾向に陥った頃から、ポイントという値引きが始まります。読者サービスという名目で、1%前後の「お楽しみ程度なら」ということでしたが、出版協の前身である流対協が声を大にしてその導入に反対したにも拘わらず、3%前後のポイントサービスが横行しています。このポイントに名を借りた値引きは、個別のお店では、売上を伸ばしているところもあるとしても、業界全体では決して市場を拡大し、商品単価を下げる結果になっておりません。むしろ定価上昇しているのです。
御社が、業界最大手の書籍販売会社として、再販制度を遵守し、定価販売を保持していた頃は「さすがアマゾン。文化を売る会社だ」と“喝采”? を送ったのは私だけでは無かったでしょう。「ハゲ鷹」ではないと。
ところが、2008年早稲田大学の学生さんを対象に8%割引という大幅値引きの方針を打ち出しましたね。当時の流対協がすぐにその廃止を求めて抗議しましたが、それを受け入れたかどうかは、別として一年後には中止されたようでした。しかし、それは私たちの希望的な思い込みであったのですね。なぜなら、2012年8月からの全国の学生を対象とした〈Amazon Student〉プログラムとして10%割引の販売を展開したからです。
当然のことですが、出版協はすぐ抗議の会談を申し込み、即時中止を申し入れましたが、「学生達の本離れを少しでも引き留める手立て」としてのプロジェクトだとうことでしたね。「本離れの解消」という点では「何か共同でできることがあるのでは」という提案もしましたが、再販契約に違反しているか、否かについては平行線のままでしたね。「再販は維持する」としながらも、「学生割引は続ける」考えでしたね。
それから一年。私たちは御社の〈Amazon Student〉プログラムは、再販契約に違反しているとの立場から、即時停止を求めると共に、停止ができないなら自社の商品をそれから除外することを求めました。
御社からの回答はつれないもので、「再販契約者の当事者でないので、回答する立場にない」とのものでした。私たちとしては、契約当事者である取次店(日販、大阪屋)を通して、当然ながら契約遵守の指導を求めておりますが、明確な回答が寄せられておりません。
契約社会のアメリカで誕生された御社ですから、契約に関することは厳密であると信じておりますから、再販制度についても公取委とそれなりの協議はされているものと思います。しかしながら、今回の値引き対象の商品から自社商品を除外せよという権限は製造者の版元にあるはずで、これが履行できないとすれば、契約上は取次店に賠償を求めることになります。また、どうしても除外しないということであれば、商品の提供を拒否しなければならなくなります。
割引で買えない学生達からの批判は、当然自分たちで負う覚悟です。一時の批判より、再販制度が崩壊することによる書籍の価格上昇による読者への負担の方が、むしろ不利益を与えるという信念によるもので、それは現在の定価設定が決して不当なものでないという意識に裏打ちされているものです。
私たちは、御社と敢えて事を構えようとは考えておりません。小なりと言えども、文化の一翼を担う一員としての矜持は保持しているつもりです。
過日も、御社が書籍のアウトレット商品を発売していることについて、その理由をお聞きしました。それによれば、御社内での作業中や運送中の破損・汚損本の処分とのことでしたので、それらは「全て返品入帳する」ということでアウトレット商品から除外することで合意しました。意見の相違やスタンスの違いはあっても、われわれは、文化財ともいうべき商品を生み出し、それを読者に手渡していくという共通の土俵にいるわけです。書籍という市場の発掘と拡大、文化の発展という大義を再確認したいものです。
紙数が尽きました。御社の消費税に関することなど聞きたいこともありますが、今回はこれで、失礼いたします。
執筆: この記事は日本出版者協議会さんのブログからご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年02月28日時点のものです。
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