今回は『FOOCOM.NET』からご寄稿いただきました。
※この記事は2013年11月04日に書かれたものです。
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■阪急阪神ホテルズのメニュー表示 何が問題だったのか(中)-法律上の問題を考える
外食のメニュー表示は景表法しか適用されず、食品表示の規制の外にあることを(上)で述べた。消費者からすれば、メニュー表示も食品表示も正しく中身を伝えてほしいと思う。しかし、外食の世界は法体系も監視執行体制も市販食品とは違い、今回の問題はそれが一因となっている。(中)では法律上の問題について、考えてみたい。
●●外食のメニュー表示、なぜ食品表示の規制の外か
食品表示は現在、小売りされている生鮮食品や加工食品についてJAS法、食品衛生法、健康増進法、計量法など様々な法律によって厳格に義務表示が定められている。誤表示は自主回収になることもあり、食品事業者は間違えないよう必死だ。特にJAS法は監視執行体制も厳しく、スーパーなど食品売り場では食品表示Gメン(地方農政事務所に所属する食品表示・規格特別調査官)が日常的に食品のチェックを行っている。
一方、外食の世界は食品表示の適用外であるため、事業者の自主的な取り組みに委ねられる。食品表示Gメンが日常的に巡回にくることはない。取り組みは事業者ごとにばらつき、チェーン店、個人店、ホテルなどの業態によっても異なる。
なぜ、外食のメニュー表示にこれまで食品表示のルールが適用されてこなかったのか。第一に、「外食はサービス業」として食品表示の規制は適当でないとされてきたからだ。外食事業者は食品だけでなく場所、雰囲気、サービスなどもあわせて提供しており、そこが食品事業者とは異なる。
第二は、「お店に聞けばわかるから」だ。食品の場合は、生産者や製造者の手を離れて店頭に並ぶため、消費者への情報伝達手段として食品表示が必要だが、外食ではお店に直接聞けばよいということになる。極端なことを言えば、メニュー表示はなくてもいいのだ。こだわりのお店の中にはメニューが無いところがあるそうだが、法律的には何の問題もない。
つまり、外食は情報伝達手段としての表示は必要無く、食品のような表示の規制はいらないという整理である。それでは事業者が守るべきことは何か。表示をするのなら間違ったことは書かないこと、消費者を誤認させないことだ。そこで景表法が適用される。
●●食品表示法で外食メニュー表示を取り締まるべきか?
しかし、今回のような問題が起きれば、景表法だけでは不十分で、JAS法のような細かいルールを定めて厳しく取り締まるべきという意見が一部で出てくる。
JAS法は、今年6月に公布された食品表示法に統合され、2015年6月までに施行されることになっている。これから食品表示法の具体的な表示基準などについて消費者庁と消費者委員会で検討が始まるところだ。しかし、施行までに検討しなくてはならないことが山積みで、新たに外食の問題を話し合うには難しそうに見える。
また、食品表示法は、JAS法、食品衛生法、健康増進法を一つにしたものだが、一元化に伴い監視執行体制の強化が求められている。ここで新たに、外食のメニュー表示まで監視することになれば、人員を大幅に増強しなければ対応できない。そこまでコストをかけて、メニュー表示を規制することを社会が求めているのか。もし議論が始まれば、その点も十分に検討すべきだろう。
さらに、表示を議論するのであれば優先順位がある。参考になるのが、外食のメニュー表示の唯一のルールである「生食用食肉(牛肉)」の表示基準だ。2011年に発生したユッケの集団食中毒を受けて、消費者庁が同年10月よりスタートさせたもので、この基準を決める際は賛否両論があった。しかし、重篤な食中毒であったことから牛の生食用食肉を店舗で提供する際に、メニュー等に注意喚起の表示を行うことを義務付けたのだ。
今回のホテルのメニュー表示問題は、今のところ安全性に関する問題ではない。今後、中食・外食の表示の検討事項として、食物アレルギー表示も予定されており、食品表示法施行の目途が立ってから、検討が行なわれる予定になっている。食品表示は何か問題が起こるたびに検討が求められるが、何が本当に優先されるべきか、落ち着いて考えたい。
●●事業者の自主的な取り組みのために―誤表示を判断するための判断基準が必要
今回の問題では規制を強化することを考える前に、まずはできることから、メニュー表示の適正化に向けて事業者の自主的な取り組みから進めてほしいと思う。と、そんなこと言われるまでもなく、今は外食事業者全体が自社のメニューを見直しているはずだが、現在、誤表示として公表している内容をみると、その判断基準がよくわからない。
中には、他社が誤表示と発表した内容と同じだから、今のうちに発表しておこうというのが見え見えのものもある。しっかりとした事業者なら、モノサシとなる自社表示マニュアルを持っているはずで、自ら考えてちゃんとしたモノサシで誤表示かどうかを判断しているはずだ
その判断基準の根拠となるのが、景表法の過去の違反事例や、食品関連法令やガイドライン、社会通念だろう。確かに景表法に明確な基準は無いものの、この10年のメニュー表示の違反事例を見ると、どんな表示の場合に著しく消費者が誤認すると判断されるのか、その傾向が見えてくる。
外食のメニュー表示に関する景表法の違反事例等
まずは、「和牛」「地鶏」「有機」「原産地」などのメニュー表示が実際と異なる場合。これらは他法令で厳密に用語が規定されており、かつ、実際と比べて価格差が大きいため、「誤認のひどさ」が大きいと判断される。また、メニュー表示ではないが、通信販売などで牛肉の部位、ランク、使用割合が実際と異なる場合にも措置命令が出されている。
さらに脂肪を注入したり、成型したりした加工肉の場合、そのことを明記せずに「霜降りステーキ」などとメニューに表示すると消費者の誤認を招くとして、過去何度も措置命令が出されている。一口に加工肉と言っても、横隔膜の肉を食用のりで張り合わせてステーキ肉とした場合と、赤身ステーキ肉を柔らかくするために牛脂を注入したような場合で「誤認のひどさ」が同じかどうか、議論の余地があるところだが、消費者庁は2011年に景表法上問題となるケースとしてQ&Aを追加し説明しており、明確に考え方を示している。
以上のような過去の違反事例に照らし合わせると、誤表示の「誤認のひどさ」は様々なレベルがあることがわかる。特に10月31日に近鉄旅館システムズが運営する旅館「奈良 万葉若草の宿 三笠」が発表した内容は「誤認のひどさ」としては最悪だ。
「和牛朴葉焼き」「和牛ステーキ」のメニューが実はオーストラリア産牛肉を使用した成型牛だったというものだが、1つのメニュー表示で上記の判断基準である「和牛」「成型肉」を盛り込んでおり、過去事例からみてもこんなに誤認の程度がひどいケースはそうはない。景表法は、過去の違反事例からいくつかの「誤認ワード」があって、それが重なれば「誤認のひどさ」は重くなり、景表法に抵触する可能性が高くなる傾向がある。
また、景表法に抵触するかどうかは、食品表示の関連法令としてJAS法の品質表示基準、JAS規格、景表法の中の公正競争規約、農水省が作成した外食表示の原料原産地表示ガイドライン、水産庁が作成した魚介類の名称のガイドラインなども参考になる。これらは外食分野には直接適用されないが、景表法で消費者を誤認させるかどうかを考える際の根拠とされる場合がある。
たとえば「地鶏」は、JAS法のJAS規格で品種や飼い方が厳しく定められ、それ以外は「地鶏」としては流通してはならない。最近はいろんなブランド鶏肉がでているが、「地鶏」ルールの厳密さはまるで違う。他の鶏肉を使っているのに「地鶏」と書けば、不当な表示であることは明らかだ。「有機」や「オーガニック」もしかりだ。
続いて、今回話題となった「芝エビ」が実際は「バナメイエビ(シロアシエビ)」だったケース。水産庁の魚介類の名称のガイドラインでは、これらは異なるものと区別されているが、中国料理ではエビを大きさで分類する長年の習慣があったという根拠もあり、景表法に抵触するかどうかは微妙だろう。
関連法令がどのくらい不当な表示の根拠になるか、もう一つの事例が、「フレッシュジュース」だ。「フレッシュ」という用語を禁止しているのは、JAS法の果実飲料品質表示基準と果実飲料等の表示に関する公正競争規約で、市販品のジュースであれば(ジュースと呼べるのは100%のみ)、濃縮還元でもストレートでも「フレッシュ」と表示はできない。このルールは外食には適用されないが、たとえば安価な市販品を用いて「フレッシュジュース」として高く販売した場合は、このルールを根拠に消費者を誤認させると考えられる。
一方、搾汁後に非加熱冷凍したストレート果汁を「フレッシュジュース」として提供していたケースはどうだろうか。手搾りと同等、いや、むしろ品質のばらつきがなく一定のおいしさを客に届けられると考えて提供していたとすれば、JAS法などをひっぱってくるまでもなく、消費者を著しく誤認させるとは考えにくい。このように関連法令をどの程度参考にするかはケースバイケースである。ちなみに、社会通念上、高級ホテルとしてストレートジュースをどう考えるかも各社それぞれである。
外食の表示は事業者の判断にまかされるため、事業者はその自覚を持って消費者を誤認させないよう表示しなければならない。そのための根拠を関連法令から学び、誤表示が起こらないような管理を進めてほしい。(下)では、誤表示を防ぐために事業者ができること、そして消費者としてできることがあるのか、考えてみたい。(森田満樹)
執筆: この記事は『FOOCOM.NET』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年11月06日時点のものです。
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