互いに漫画家という立場でありながら、電子出版を立ち上げ活動するという共通点を持つお二人です。
佐藤秀峰1973年生まれ
従来の出版社と漫画家のあり方からの変化を求め、『漫画 on web』での活動をはじめとした電子出版事業を漫画家という立場でスタートした第一人者。
ニコニコ生放送やブロマガ『少年佐藤秀峰』など、ネットでの活動を積極的に
行っている。
代表作:『海猿』『ブラックジャックによろしく』『特攻の島』
ごとう隼平1980年生まれ
電子書籍出版結社『GPub』を設立。液晶画面での閲覧に特化した、絵本形式のコンテンツ「イラブ」(イラストブック)を中心に刊行を行う。第一弾はKindleにて『金魚ガールズ』を上梓した。
代表作:『銀塩少年』『金魚ガールズ』
描き手から見える電子出版の未来、紙媒体、出版社とのあり方などをお話しいただきました。
●電子出版を始めて世界が広がる
ごとう隼平さん(以下ごとう)
ええと…緊張しますね。漫画家のごとう隼平と申します。
佐藤秀峰さん(以下佐藤)
佐藤秀峰と申します。よろしくお願いいたします。
ごとう
僕も、電子出版というものに関しては去年の暮れに個人で事業として始めたんですけれども、やっぱりまだ始めたてで、いろいろ分からないことも多いです。やっぱり難しいことも多いな、と思ってて。
それで、質問を通して、佐藤さんにアドバイスなどいただければ良いなあ、と思っていました。
佐藤
僕もいろいろ質問考えてきたんで。
ごとう
まず、未来の事に関して「希望の話」が聞きたいなと思って。
まずは『漫画 on web』というのを始められて「良かったな」って思う事は何ですか。
佐藤
そうですね、良かったことは……なんですかね(笑)
いろいろありますけどね。
出版社がいろいろ取り仕切ってて「自分は描くだけ」って世界でやってると、結構世界が狭くなっちゃうんで、自分でやってみるといろいろ「あ、こういう風に作品って売れていくんだな」とか、いろいろわかることがあるんです。
実際、お金が入ってくるっていうのも良い事ですね。
描いているだけだと見えないものが見えてくるとか。こうして、いろんな方にお会いできるようになったとか、世界に広がりが出来てきたのが良かったかな、と思いますね。
ごとう
確かに「いろいろ始めてわかることってあるんだ」って思ってます。
僕、2年間連載が通らなかったんですけど、……あ、宣伝させてもらっちゃうと、今、『ブロマガ』ってのを始めさせてもらって、そこに2年間分のボツの写真とかがあるんです。
ガジェ通
ブロマガのタイトルお伺いしていいですか?
ごとう
『彩色主義』というタイトルです。
佐藤
有料でやってるんですか?
ごとう
一応、本文のブロマガ自体は無料にして、最後ちょっとだけ……最後の部分だけは、漫画家志望の人のためにちょっとしたコメントを。そこだけ有料という事に。
佐藤
僕と似た形式なんですね(笑)
無料部分が多すぎる、って、有料の人に怒られるんですよ。
ごとう
そうなんですか(笑)
そこらへんは、そこでお金を取るというよりは、どちらかというとそこで僕に注目してもらって、新作とかを見て戴けたらいいな、という思いがあってやってるんですけれども。……ちょっとここら辺はまだ、試行錯誤です。
そういうわけで、2年間ネーム通らなかったんですけど、むしろ今、こうやって少し離れたことによって、「あ、なんで通らなかったのかな」ってのが今になってわかってくることもあるんだ、って感じています。
●出版社とやっていくことと紙媒体でやることは別
ごとう
今って、佐藤さんは『漫画 on web』と雑誌の方で一緒に連載されていますが、今後に関して「webのみでの連載」などは考えておられるんですか?
佐藤
一応ですね、紙媒体で連載するのは、今やっている『特攻の島』(芳文社)を最後にしようと思っているんですよね。
そのあとは、「どういう仕組みで出来るんだろう」っていうのをけっこう試行錯誤中です。
一応出版社と絡んでwebでやろうとは思ってて、だいたい話は通ってるんだけれどもまだ媒体とか決まってないとか――そういう状態ですね。
ごとう
なるほど。一応出版社とは絡んでいくんですか?
佐藤
そうですね。
雑誌連載っていうのはもう、雑誌が赤字なんで「赤字に協力してもしょうがないな」ってのがあって。
前に一色 登希彦さんって漫画家の方と僕が原作で一色さんが作画で連載したんですけれども3回で打ち切りってことをやってしまいまして……まあ、ちょっと「こういうことやってたら雑誌連載しちゃいけないだろ」みたいなのもあって、雑誌はもうやらないことにしたんですよね。
なので、なんとかwebでお金を生み出す仕組みを作りたいなと。
●昔は「一生紙でやっていく、紙と心中する」と思っていた
ごとう
紙に対するこだわりみたいのはどうですか?
佐藤
(紙への)こだわりは僕、あんまりないんですよね
ごとう
そうなんですか
佐藤
昔はすごいあったんですよね。(マンガは)紙に描いて、いい紙に印刷されて、紙で読むもの、って思ってたんで。
一昔前のガラケーでケータイコミックとかでコマで切り出すとかありましたよね。あれとか僕「こんなんマンガじゃねえ」って思っててですね。「僕は一生紙でやっていく、紙と心中する!」とか1年くらい言ってみた時期があるんです。
でも、製版上でデータ化されてそれ紙に印刷してるだけだから「データ化した時点でアナログじゃないしなあ」と思ったんです。
どこにアウトプットするか、そのデータをどこで使うか、って話でしかないんで、レコードとかカセットテープとかCDとか「記録媒体の違いでしかない」っていうことを思うようになってきて。
今は特にこだわりは無いですね。
ごとう
そうなんですね
ガジェ通
ごとうさんは紙に対するこだわりとかは?
ごとう
僕に関しては……今回の『金魚ガールズ』は完全に電子書籍でしか出してなくて、特に電子書籍でできることっていうのを考えて作ったんですね。
(電子書籍リーダーを取り出す)
佐藤
僕も購入させていただきましたよ(スマートフォン取り出す)
ごとう
(笑)ありがとうございます。
(操作しながら)こういう緑の色って、印刷だと結構難しくないですか?
佐藤
そうですね。
ごとう
液晶だったら、今までにない、印刷で表現できなかったものの表現ができるんじゃないか、っていうのがあって、むしろ紙に対するこだわりっていうのはあんまりないというか。むしろ電子に対するこだわりの方を強くして作ってみました。
●デジタルデータに所有感は有るのか
ごとう
ただちょっと思っているのは、デジタルデータっていうのは所有感が薄いな、っていうのは思ってて。
僕、『漫画 on web』を割と読ませていただいてて、サイトの構成的に、雑誌に近いな、という感覚を覚えていたんですね。
というのは、ブラウザでニュースとか見ていて、その延長でそのブラウザのまま『漫画 on web』に飛んで選択された作品をすぐを読む、っていうのはなんとなく雑誌の感覚に近いな、と思っていました。
でもその逆を言うと、その『漫画 on web』では『kindle』とかAppleの『iBooks』とかに比べると所有感という意味でちょっと薄いというか。
そういう意味でもすごく雑誌っぽいな、って思って。
デジタルに所有感を持たせるって気持ちは、どう思われます?
佐藤
一応、(『漫画 on web』では)ストリーミングとダウンロードと2パターン用意していて……それも、コンテンツをアップする方が自由に選べちゃうんですけど、ダウンロードすると、割と所有感があるかなあ、って感じはありますかね。
ストリーミングだと、なんか、レンタルに近い感覚ですかね。
ごとう
なるほど
佐藤
僕はCDとか集めるの好きで、いっぱい持ってるんですけど、……(考えながら)でも、今は欲しくないんですよね。邪魔になるというか。
ごとう
僕もそれは思ってたんですが、CDとかも、パソコンの中に……フォルダの中に、音楽データが入るじゃないですか。それが意外と所有感を産んでいるのかなあ、と。
佐藤
そうですね。僕もデータで持っていると結構満足する(両者笑)
ごとう
意外とデジタルになっても所有感っていうのは大事なのかな、って思っていて。
佐藤
ダウンロードして持っていると、割と「自分の物」って言う感覚があって。うっかり消さないように大事にしようとか気をつけますね。
ごとう
そうですよね。
佐藤
意外とだから、物体じゃなくてもデジタルデータでも所有感は出ます。これは案外「慣れ」なのかなと思いますよね。
逆にモノが邪魔になってきちゃってなんかこう……誰かからDVDとか送られてくると、ありがたいんですけど、心のどこかで「データでくれ」って思ってしまう(両者笑)
ごとう
すごくわかります。そうなんですよね。部屋、狭いし(笑)
佐藤
今まで大事にしてきた、この「集めて嬉しい」って感覚って必要なかったのかなぁ。本当2~3年で変わっちゃいましたね。
ごとう
僕はこの感覚が、どこまで浸透している感覚なのかってわかりかねているんです。ストリーミングと完全なダウンロードの販売数って、どれくらいの割合なんですか?
佐藤
僕のケースで言うと、……ダウンロードの場合は複製も可能と言えば可能なので。DRMかけてないんですよ。一応、購入者のメールアドレスとかが入るようになってはいるんですけど。
そういうことを踏まえて、ダウンロードはストリーミングの大体2倍くらいの値段で売ってるんですね。んで、販売額は大体ちょっとダウンロードのほうが多い位なんで、ストリーミングが10だとしてダウンロードが6割くらいかな、って感じですかね。
ごとう
ああー、なるほど。
佐藤
結構お客さん的には「どうせ1回しか読まないし」っていう、“その時読みたいだけって人”も多いのかな、って雰囲気ですね。
ごとう
あとは、気に入ったらもう一回買えばいいってのもあるんかもしれないですね。
佐藤
そうですね。
●ネームとお金
佐藤
何でこういう作品描こうと思ったとか、きっかけとか、こういう思いがあってっていうのを聞かせてください。
ごとう
先ほどの「2年間ずっとネーム通らなかった」というのがあったんですけれども、さすがになんか作りたいな、っていうのがあって。それで今回『金魚ガールズ』を作りました。
(※ネーム :「コマ割り」「構図」「セリフ」などを決定するための、漫画における設計図の役割を担う原稿)
佐藤
前作は、4冊出ていたんでしたっけ。
ごとう
4冊出ていました。『銀塩少年』(小学館)というタイトルです。
佐藤
それ(ネームに関するエピソード)もFacebookで読んだんですよね。「来る日も来る日も、ネームが通らない」。(両者笑)
ごとう
まあ、ネーム通らないのは別にいいんですけど、ただ、ネーム描いてても全くお金にはならないので。
佐藤
そうですよね。
ガジェ通
一番大事なことですけど、それだけだとお金にならない。
ごとう
そうなんです。
佐藤
企画料とか出るわけじゃないし、見積もりを出してネームを切り始めて、前金半分もらって出来たら半分、とかそういうつくりじゃないんですよね。
納品して何か月後かに一括で振り込まれるってだけなんですよ。
ガジェ通
それはもう、大物の作家さんというかある程度有名な方でも同じ?
佐藤
そうですね。
ごとう
ただ、編集部からの企画の場合は、ネームにもお金が出ますね。
ガジェ通
編集部の企画っていうのは?
ごとう
たとえば……ただ、これ言っていいのかなあ。例えばですね、(某アイドルユニット)のマンガ連載があって、それ僕も一応コンペ出して、複数の参加だったと思うんですけど、そういう企画では、たとえばキャラ表とかネームとかに関しても幾らかお金もらえました。
ガジェ通
突然読みきりで出てくるアイドルとかの「○○物語」ってのは案外そういうパターンなんですかね。
ごとう
そうなのかもしれないですね。
佐藤
そのあたり、描き手を探している状態だけみたいになると、そういうこともあるんですよね。そういうのやったことがないけど。
ごとう
まあ、そういうのそんなに多くは無いと。ごく、たまに。
今でいうとライトノベルとかを原作にして、編集部が「こういうのをやりたいんだ」みたいなのが決まってて、あとは描く人をさがしているみたいなパターンでももしかしたら、同じかも。
ガジェ通
ネームがお金にならない、ってお話なんですが、昔は、完成原稿が初めてお金として価値があって、ネームの段階は未完成という考え方がまかり通っていたということなんでしょうかね。
佐藤
多分そうじゃないですかね。
ガジェ通
ネームって、台本とか絵コンテに近い重要なものじゃないですか。
佐藤
そうですね。でも料金が出ないんですよ。そこはいつも僕、モメるところなんですよ(笑)
例えば原作者がいて、原作者がシナリオを文字で書いて、それには一回幾らで(稿料が)出るんですよ。
漫画家が書くと出ないのはおかしいんじゃないか?っていうことで、質問してみたことがあるんですけど、絵を描かない人には、さすがにタダで書いてくれとは言えないから払ってるけど、漫画家には原稿料払ってるんだから、文句言うな、と(笑)
ガジェ通
ヘンな話ですね。
佐藤
んじゃ、「サトウ」が原作書いて、「シュウホウ」に絵を描かせますんで二人分ください、って言ったんですけど、ダメでしたね。
ごとう
(笑)
ガジェ通
それ本当に人が別々に分かれていたらどうなんですかね。分かれている場合もあるんですか。
佐藤
もちろん、原作付きだと分かれます。
今は、原稿料でまず人件費でないんで、僕としては、見積もりを提出したいですね。
ガジェ通
あぁー。
佐藤
これ、工数とかを出して、んで、一人日幾らとか出して、ネームが何日かかって、んで合計の見積もり出して、OKだったら発注してほしいんですよね。
ガジェ通
製造業とかデジタルコンテンツの流れだと、ごくごく普通の流れですよね。
佐藤
そうですね。
ごとう
僕はネームにお金が出ないことに関しては、それほど問題ではなかったんですね。生活が苦しい、ということを除いては。
なんでかっていうと、たぶん、――これはある種の甘えなのかもしれないですけど、結局僕はそこで、見てもらって勉強になっているというような感覚も有ると言えばあって、それって多くの漫画家さんも多いと思うんですよね。
佐藤
そうですね。
ごとう
だからこそ、こっちは(ネーム代の事を)言えないっていうのはあったし、多分これからも続いてしまうんだろうなあ、とは思ってしまうんです。
んー、なんというか、勉強料?相殺されているという。
佐藤
やっぱり、出版社の方も編集さんも、この企画がお金になるかどうかわからないのに時間を割いて付き合ってくれてるんだ、という感覚がありますよね。
まあ、その間も彼らは給料もらってるから、僕は(時間割いてもらう事自体は)いいと思ってるんですけど。それが仕事なんだから、仕事に結び付ければ、お金に結び付ければいいんじゃないか、って考えなんですけれども。
その、言いづらい感じとか、勉強している、っていうのはすごくわかりますね。
ごとう
そうなんです。
まあそれでお金も尽きてくるというのもあって、早目に次の一手を打たないといけないな、というのがあって今回(電子出版を)始めてみました。
●『金魚ガールズ』の着想はある“事件”が発端だった
ごとう
今回はマンガではなくイラストブックというものを作ったんですけれども、まず「せっかく液晶があるんだから、色がきれいなものを見たい」という欲求が読者の方にあるんじゃないかなと思ったんです。それでカラーの作品を作ってみようかなと思いました。
なんかこういうカラフルで、なんかキレイな世界が電子書籍の中にこうやって入ってたら、ちょっと大事に出来るんじゃないかな、っていうのがあって。
なんとなく電子書籍にぬくもりを与えたかったというか、色合いを与えたかったというか。
佐藤
コマを割らないで、こういうイラスト一枚で見せていくっていう形式なんですね。
ごとう
世界を見せていく、というか、そういうのを考えていました。
佐藤
(金魚ガールズは)実在の“事件”をモチーフにしているんですよね。
ごとう
あ、そうです。
去年の夏に、埼玉県で……ネタバレになっちゃうんですけど、金魚をプールに放した中学生の女の子たちが居たというニュースがありまして。
ガジェ通
ありましたね。
佐藤
全裸で泳いだんですかね。服は着てたんですかねえ(笑)。
ごとう
どうなんだろう(笑)
僕はこのニュースをドキドキして聞いて「この話いいな」と思って。現実にあるっていう事はスゴイな、って。
佐藤
僕が事件の記事とか読んだ時に、なんか女子中学生4人くらいが、なんかやること無くて、お祭りとかで金魚持ってきて、バシャーってやって、なんか全裸で踊り狂って、捕まりよった、っていうイメージだったんです(笑)
ごとう
(笑)
僕はこんなイメージだったんですけども(笑)
佐藤
こんな美しい!(笑)
ごとう
僕は実際にはどういうのかわからないですけど、とにかくこの話を、どこかに形にして残しておきたいな、という思いだったんです。
佐藤
それと、『kindle』がやってくる、ということだとか、電子書籍にもっとぬくもりを、ということとか色々合わさって、こういう形になったんですね。
ごとう
もうちょっと言ってしまうと、僕は2年間ずっとフィクションというか、多少のファンタジーの入った話を考えていたので、ちょっともう、なんか「自分の考えた事とか、もういいや!」っていう感覚もありました。
あとはこの時代に、――これは僕の勝手な予想なんですけど、いろいろ作品が増えていますよね。その中で、なんとなく、ファンタジーの作品が増えているような気がするんですね。イメージですけど。
リアル感のある作品もあるんですけど、それほど増えてはいないんじゃないかな、という印象があって。
なんとなくファンタジーのほうがお手軽なのかな、と。そうなってくると、……想像したものはもうおなかいっぱいだよ、という感覚になってしまって。
佐藤
萌えとか増えてますもんね。
ごとう
それもあって、この“事件”ていうのはすごく胸に響いたんです。
「実話なんだ?!」っていう重みとか。コレがあることによっていろんなフィクションとかも肯定されるという感覚もありました。
あと「短い作品を作りたいな」というのもありました。それはマンガで週刊連載を目指していた反動なのかもしれないですけど、やっぱり今って、みんなそこれこそfacebookとか人と繋がる時間がすごく増えた分、個人で使う時間ってすごく減ってるんだろうな、と思ったんです。
そういう意味で“長い作品”っていうのが少し抵抗がある人が増えてるんじゃないかって想像したんです。
佐藤
すぐ読めてネタになってみんなで盛り上がれるとか。
ごとう
クオリティを上げて、ギュっと短い作品ていうのがあっても、この時代いいのかな、と。『イラストブック』に関してはそういうことも考えていました。
佐藤
色々作戦があるんですね。
ごとう
作戦はあったんですけど、意外と失敗も多いな、と。(笑)
●海外での反響
ごとう
僕が今回この『金魚ガールズ』を作って驚いている事のひとつに、海外での反響がスゴいっていう事があるんです。
佐藤
そうなんですね。
ごとう
facebookでこれを作っている過程を、英語で翻訳してもらう人を見つけて海外版としてやっているんですけど、もう、本当にすごくアクセス数が増えてて。あんまりピンと来ないかもしれないかもしれないんですが、僕の日本語のページのほうは、2,500「いいね!」位なんですけど、海外版はもう、14,000「いいね!」を超えてるんです。
(※編注・4月22日現在29,000「いいね!」を超えている)
コメントなどにもすごい盛り上がりがあるのも感じてます。
例えば、この絵を上げてからがすごかったです。
(日本家屋の中で、女の子たちが浴衣を着ている様子のイラスト)
佐藤
着物、とかですよねえ。日本の情緒を伝えながらきれいな絵で……。
ごとう
僕はそこに活路を見出したいな、と。
佐藤
コマ割りが無いから読み方も迷わないですよね。販売は『kindle』だけでやるんですか?
ごとう
今は『iBooks』も出そうと思ってます。
●「無難に面白い」ということは要らない
佐藤
今後はもう、いわゆるマンガ、っていうのは描かないんですか?
ごとう
いや、そういうつもりは無くて、マンガに適したものをやりたいな、と思ったらマンガに戻れるように、一応出版社の編集さんとも関係は続いていて、応援してもらってるんですけど、今はもうしばらくこれをやってみます。
佐藤
大手出版社を離れたってわけではないんですよね。
ごとう
そうですね。良い関係で居られたらいいな、と思って。特に出版社に関しても、今、変わらなくちゃいけないところって結構あるんだろうな、っていうのは思ってます。
そういう意味でもなんか、いい関係で居られたらいいなと思っています。僕たちが離れてちょっと何かやることによって、出版社の方にもなにかいい影響があったりするといいなとは。
ガジェ通
「出版社さんが変わるべきところ」ってのは、たとえばどんなところでしょう?
ごとう
僕が思ってるのは、編集さんと漫画家で作り上げていくっていうスタイルは、そろそろ時代が変わってきているのかな、という事です。
やっぱりこれまでよりも作品とかが増えてて、今までも出版社とか編集さんたちが作り上げた「売れるためのノウハウ」みたいのがやっぱりあるんですよね。だから、そこを通してマンガ雑誌っていうのは出来ていると思うんですけど、そこを通すことである意味マンガが均一化されたりしてて。
いろんな人に聞くと雑誌に載っているのは「同じようなのばかりだ」とか言われたりしますし。
佐藤
確かに言われますね。
ごとう
あとは「無難に」面白かったり。
佐藤
「普通に」面白いって(笑)
ごとう
もはや「普通に」面白いものがあるところにはみんな興味は無くて。『ニコニコ』とかが流行ってるのは、「面白いものを探すのが面白い」という状態になってると思うんですよ。もう「無難に」面白いのがわかっているものを見なくていいのかな、って思っちゃってるってのがあって。
そういう意味でそこら辺のしくみから、もう少し視野を広げられるところはあるんじゃないかな、と思ってます。
佐藤
ごとうさんみたいなチャレンジャーがどんどん出てきているのもそうですよね。僕みたいになんかその、「アイツらクソだ」とかそういうことで自分で何とかやってやる、というよりは、「もうちょい違う何かあるんじゃないかな」って模索している方が多いような気がしますね。僕の印象だと。
●ネットと紙では描き方を変えている
ガジェ通
ネットの読者について、意識して描かれてます?たとえば描き方が違うとか。
佐藤
今、『ブロマガ』でやってるのは、ネット意識してやっていますけれども、普通に描いているものは、……普通に描いてますね。
(技術的な意味で)ちょっと断ち切り今までより6mmくらい外側に描いたりとか、フキダシを若干大きくするとか。
紙だと(顔の目の前に手を持ってきて)このくらいの距離で読めるんですが、モニターだと(30センチくらい手を離して)このくらいになっちゃうんで、文字少し大きくしてます。その程度ですね。
ガジェ通
ケータイ(ガラケー)の場合は、貧弱なプラットフォームに合わせて作品の形を変えなきゃいけないというのがありました。
今はデバイスが進化してきて出来ることが増えてくるから、逆にそっちに合わせて「こんなこともできるんじゃないか」とか、表現が増えてきそうですよね。
佐藤
そうですね。
ガジェ通
そうすると作家の方にとってはチャンスでもあるけど、負担や労力が増える可能性もありますよね。
佐藤
まだ紙も見れるんで、僕はどっちにでもいけるようにって意識です。
(金魚ガールを指しながら)これはもう、紙を想定していないですよね。
ごとう
紙は想定していないですね。僕はもう『イラストブック』の次の作品については、音楽も入れられたらいいな、と思っていて。どんどん新しい事やってみようと思っています。
●ブロマガ、そして今後
ガジェ通
ごとうさん『ブロマガ』どうですか。
ごとう
楽しんでやらせてもらってます。ただ、ネットっていうのは注目されるのが難しいです。なんかいろんなことをしてPRしていかないと、埋もれてしまうな、という感覚がすごくあるので、ブロマガに関しても“手を挙げる”。「ここにいるよー」って言ってる感じですね。
動画も作っているんですけど、それも同じです。いろいろやってみよう、と。
動画の方は、作画教室みたいなのをやっているんですけど、これは外に出て、色んな背景描いてみよう、っていう企画です。もしよかったら佐藤さんにも出ていただけたらなあ、なんて。
佐藤
あ、いきますいきます。
ごとう
やったー!本当ですか、嬉しい。
佐藤
なんでもします。
(ページの動画見ながら)こんなのまで作ってるんですね。
ごとう
僕、『ハヤテのごとく! 』(畑健二郎・作)って作品でアシスタントをしていたんですけど、今、やってるチーフアシスタントの人が動画作るのが大好きだから、一緒に作ってます。
佐藤
えー、動画作る……すごいなー。僕、生放送流しっぱなしですもんね。
ごとう
こんな奴もいるんだ、って思ってもらえたらいいな、と思って。
みんなの特技を生かしたら、面白いもの出来るだろう、って確信もあって。
ガジェ通
でも、動画は手がかかりますからねえ。
佐藤
そうですよねえ。
ごとう
あと、ブロマガやらせてもらってとてもいいなーと思ってるのが、若い人がすごく多いな、っていうのがあります。
今までは少年週刊誌に居たんですけど、実は「少年」って言っておきながら意外と年齢層高かったりしそうなので、僕がやりたかったことはむしろこっちにも近いな、と思って。
ガジェ通
ホントにリアルに少年少女ですからね。10代20代。
ごとう
ダイレクトに投げかけられるというのはやりごたえがあるな、と思います。
●応援してくれる人たち
ごとう
今回始めて思ったのは、個人で出版すると、意外と……意外とというか、当たり前なんですけど、“味方”が居ないなと思って。
佐藤
そうですね。宣伝してくれる人とかが居ないですもんね。
ごとう
例えば今までやってた前回の『銀塩少年』の連載とかでは、全国の書店に手紙とか書いてました。
佐藤
わあ。すごい。
ごとう
やっぱり小さい連載だったので、すぐ棚ざし(平積みではなく書棚に置かれること)になっちゃうので「是非、平積みで置いてください」とか、あるいは入荷すらされていないので「ぜひ入荷してください」みたいなのをお便り出したりしてました。そうするとやはり反応があって、支えてくれてる人たちを感じるんですよね。書店員さんたちからのお返事をいただいたり、応援してくれたりするっていうのはあるんですけど、今回は全く、それがない。
ですので、これは何とかしなくちゃな、と思っているところです。一番。
佐藤
販促活動も自分でしていかなきゃ、と。
ごとう
そうですね。……難しいな、と思ってます。
やっぱり今の時代だからこそ、読者の方がすごく大事になってきているなと思ってて、ホントに支えてくれているのは読者の方なんだ、っていう。個人で出版すると、出版社の人も書店さんとも距離が出来てしまうので、そういう意味でも読者の方に支えられているというのは一番ありがたいし、是非、よろしくお願いします、という気持ちです。
『金魚ガールズ』どうかよろしくお願いいたします。
佐藤
読者の方、ダイレクトになってきましたよね。
あと、気づいてもらうのは難しくなりましたよね。今まで一生懸命描いていればよかったのが、自分で気づいてもらえるようにそれ以外のアクションも起こさなければいけないので。
ガジェ通
webサイトなんかと一緒ですよね。昔は面白げなサイト作っただけで人が来ていたけど、それだけじゃ今はダメで。いい物作るだけじゃダメで「やってまーす!」てのをすごく言わないと。工夫しないとダメですよね。
ごとう
あとは、Amazonとかで今出してて、やっぱりつまずいた事とかすごく多いんですね。そういう時にありがたかったのは、他の同じようなことをしている作家さんたちの集まりとかで、情報交換とかして「こうすると良いよー」とかそれで解決したこともあって。やっぱり作家間のつながりってより重要になってくるのかな、って。
……佐藤先生、これからよろしくお願いします。
佐藤
私でよろしければよろしくお願いいたします。
ごとう
ありがとうございます!
ガジェ通
本日はお疲れ様でした。
■漫画 on Web http://mangaonweb.com/welcome.do
■佐藤秀峰チャンネル - ニコニコチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/shuhosato
■ごとう隼平『金魚ガールズ』
Kindle版 http://www.amazon.co.jp/dp/B00BCNDLKA
iBooks版 https://itunes.apple.com/jp/book/id629101518
■ごとう隼平 彩色主義 - ニコニコチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/goto-junpei
(聞き手:ふかみん/wosa)
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