機械が発達すると人間の仕事がなくなるというのは、絵に描いたような杞憂

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

■機械が発達すると人間の仕事がなくなるというのは、絵に描いたような杞憂
このまま機械がどんどん発達していくと、人間の労働者は仕事を奪われるという主張が、最近流行ってきたようだ。去年こんなエントリを書いたが、

「われはロボット」 2012年12月02日 『メカAG』

http://mechag.asks.jp/504110.html

「働かなくてもいい社会は実現可能か」 2012年11月05日 『メカAG』

http://mechag.asks.jp/499441.html

同じような主張がまた。

「ネオヒルズ族の「ヤバさ」について」 2013年02月26日 『デマこいてんじゃねえ!』

http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20130226/1361890839

産業革命時に同じような杞憂があったが、結局そうはならなかったという歴史を知った上で、「でも、今度は違う!」と言う。過去にいくら予言が外れても「今度こそ本当に地震が起きる!」みたいな(苦笑)。

   *   *   *

この手の話の共通点はみんな同じで、前提が極端なんだよね。上記のエントリもようするに「人間ができることは、すべて人間以上に上手にできる」ロボットができたらどうしよう、というものだ。それは機械的な作業にとどまらず、人間が心地よく感じるような気配りさえできるロボットが登場するような時代を仮定している。

これはもうロボットや労働問題の話ではなく、地球に人間以上の生物が現れたらどうしよう。宇宙から高度な文明を持つ異星人が地球にやってきたらどうしよう。そういう話だよね。アシモフとかのSFの話だ。

もちろんそういうことを考えるのは止めないけれど、その場合、労働問題よりももっと重大な変化が人間社会にもたらされるはず。だからまずは全体としてそれがどんな世界になるかを描き出すべき。そうすれば労働問題も自ずとどうなるか明らかになる。そういうことをせずに労働問題だけを予想しようとするから、不安でたまらなくなるのだ。

   *   *   *

思うに機械への恐れというのは、若者が中高年を「時代遅れだ、過去の遺物だ」と罵っている気持ちの裏返しだと思うんだよね。人は相手を蔑む時、「もし自分が逆の立場になったらどうしよう?」という気持ちが無意識に湧くものだ。それが自分よりも学習能力が高く柔軟性のあるロボットへの恐れという形で現れるわけ。

若者は自分がやがて中高年になって、学習能力も思考の柔軟性も衰えていくこと(すなわち現在自分たちが軽蔑している中高年に自分もやがてなること)を、絶対に認めない。いや、気持ちはわかるからそれを責めようとはしない。そういうものだ。

でもそれが歪んだ「不安」として、ロボットへと向けられることになる。自分が衰えていくのは受け入れられないので、自分より優れた存在が突如現れたらどうしよう、という問題に心理的にすり替えるわけだ。それは若者が中高年を叩く時にどこか引け目を感じている心理が、形を変えて吹き出したものだ。

   *   *   *

15歳からエレベーターガールとして働いていた女性は45歳になってデパートが消滅し、amazonで働こうとしても働けないという。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。でも同じ話は過去に繰り返されてきたことだ。

1980年代、夕張炭鉱事故を始めとして炭鉱事故が多かったように思う。それによってかねてより斜陽産業だった日本の炭鉱産業は完全に命脈を絶たれた。当時「いまさら泥だらけになって、石炭なんて掘ってどうすんの?」とか、気楽に思っていたものだ。

ニュースで労働者たちが「俺達から仕事を奪うのか」と絶叫していたが、「気の毒だけど仕方ないんじゃない?時代の流れだしぃ」とか思っていた。ワッハッハ。自分の浅はかさに腹が立つわwwww。

   *   *   *

人間とまったく同じ事ができるロボットができたらどうなるかはわからないが、そうでない限り人間は何かしら新たな仕事を生み出し、そこに価値を求めるものだ。大量生産時代を経て、多品種少量生産の価値が注目されたり、「手作り」が見直されたりしたように。

過去に栄えた産業がまるごと消滅してしまうことはある。自動車が普及して馬車や馬の世話をする仕事や技術は消滅してしまった。そういう仕事だけをやってきた人たちは、あまり幸福ではなかったろう。しかしそれは過去に何度も繰り返されてきたことなのだ。そしてこれからも。

むかし話に「村一番の力持ち」とか「豪傑」とかがよく出てくる。最終的に都に行って出世しました、メデタシメデタシというような。その時代は腕力が強いことが、人間として最も優れていたわけだ。機械が発達した現在、腕力の強さはそれほど重要ではなくなってしまった。むかしなら村の英雄としてもてはやされたかもしれない人間が、肉体労働者として、さほど恵まれているとは言いがたい人生を送り一生を終える。

ならば近い将来、今度は多少知恵が回る人間がコンピュータの発達で価値がなくなり、冷遇される番が来たとしても、文句は言えないのではなかろうか。自分の番になったからといって慌てふためくのはいかがなものか。「いや、ホワイトカラーは機械に対する人間の最後の砦なんだ」と考えたい気持ちも分からないではないが、それは都合のいい屁理屈というもの。

   *   *   *

もし順序が逆で何かの拍子に動力としての機械よりも情報処理のための機械の方が先に発達した世界だったら、彼らはどうするのだろう。多少計算ができても、しょせんは機械に叶わないんだから、なんの足しにもならない。それよりも筋肉隆々のあいつを見てみろ、機械には真似できないような大きな石を楽々と持ち上げてるんだぞ。おまえは力が弱いから、機械のお守りをする仕事(プログラミング)しかできないんだ、この無能者め!と。

いくらコンピュータが正しい計算や戦略を立てても、彼ら肉体労働者がOKといってくれない限りビルも建てられないし、道路も作れない。彼らが主導権を握っているのだ。力自慢の一握りの人間はとてつもない厚遇をうけていることだろう。なにしろ彼らにしかできないことが無数にある。そんななかある日…。

おいおい、なんだか今度はとうとう肉体労働にまで機械は進出してきたぞ。ブルドーザーとかいう機械は、世界でも数人しかできないような重い岩を、誰でも移動してしまうそうだ。そんなことになったら、もう機械はすべての分野で人間を凌駕してしまうことになる。そうなったら人間の存在価値はどうなる?…そんなこと騒がれても、俺達ホワイトカラー(プログラマ)は、とっくのむかしに機械の奴隷だったしぃ、とか思うのではなかろうか。

若者がしばしば「万能なロボット」を仮定してこの手の話をするのは、一種の現実逃避なのだろう。炭鉱や馬車など特定の産業に限定するのは、あまりにも怖すぎてできないのだ。だから荒唐無稽なSFのような話にすりかえて、マイルドにしようとしている。これなら全人類が一蓮托生なのだから、少しは痛みが緩和される。

今も昔もこの手の話は、科学でも経済でもなく、心理学の問題に過ぎない。実際に火星人が攻めてきたとパニックを起こしたオーソン・ウェルズのラジオドラマ「宇宙戦争」。時期は1938年、すなわち第二次世界大戦勃発の直前だった。ドラマの内容よりも、そういう世相がパニックを呼んだのだろう。社会不安が広がる時代に、こういう荒唐無稽な話が流行る。

   *   *   *

あとタイトルのネオヒルズ族の胡散臭さってのは、ちょっと前の「使っても減らない電子マネー"円天"」を思い出すんだよね。ようするによくわからない新しいもの(円天の場合は電子マネー)にかこつけて、人を騙し、儲ける商売が定期的に流行る。無防備な新しもの好きが引っかかる。1980年代の財テクブームが豊田商事の銀河計画事件を生んだように。1990年代の自己啓発ブームに乗った「脳内革命」なんてのもあった。最近ではセカンドライフブームに載ったメタバース投資詐欺(Xiだったか)とかも。まあ、こうやって時代の流れに乗って次から次へと賢く金儲けのアイディアを思いつく人たちの才能はすばらしいが、いかんせん後になにも残らない。

最近やたら喧伝される「ネットとリアルの融合」とか「セルフブランディング」とかいうお題目も、結局はどうやって金儲けに結びつけるか?という目的が先ずあって、そこからすべてが始まってるだけに見えるんだよね。どれもこれも。おそらく数年のうちに、こういう商売のどれかは、円天と同じような大事件に発展するはず。

●追記


半分正しいが半分誤っている。人間が生活するために必要な「労働」の量は有限であり、従って、労働に対する需要も有限で、機械化率が上昇すれば、確実に人間が行う仕事は減る。問題はどこまで減るか
http://twitter.com/YaSuYuKi/status/306641791640289280

こういう想像力の欠如した馬鹿は機械に取って代わられるわけですなw。だいたい「半分正しいが~」という出だしで書かれた文章にはろくなものがない。自信のなさ(思考の不十分さ)の現れなわけで。需要側から見た労働力と、供給側から見た労働力をごっちゃにしてるんだよねぇ。どっちの話をしたいのか自分でも区別がついてないのだろう。労働しなくても生活していけるなら、それはハッピーな事だろうに。

もっと発達してもらって人間が働かなくていい世界が良いのだけど。

だからそれは別なエントリに書いてある。というかそれすら読まないわけだよね、あなたは。そんな雑なコメントつけて楽しいの?

経済的なコストダウンの圧力の要素が考察にない点が気になる。

いや、よくわからん。経済的コストダウンの圧力が、俺の一連の主張のどこにどう影響するというのか。影響すると思うならそう思う側がそれを示すべきだろう。

むしろさっさと機械が人間の仕事を奪い尽くしてほしい。あるいはそこまでいかなくても、人間があまり働かなくて済むようにしてほしい。まあそこらへんは経済的な問題も絡むのだろうけど。

そうなるとどうなるか、ちゃんと別エントリで考察していて、しかもそのエントリもちゃんと示していると思うんだけどねぇ。まあタイトルしか読んでないパターンだな。

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月07日時点のものです。

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