今回は『にしん日和』からご寄稿いただきました。
■TPPと農業の未来。
私はこないだまで、群馬県の西端にある嬬恋村というところの近辺に住んでいました。
西部は一面キャベツ畑というロケーションで、場所によっては地平線が見えるという話でしたが私は見ていない。
ともかく。
いろんな経緯でいろんなキャベツ農家の人と話す機会があり、結果として、農家のイメージを根本から覆されました。
私の母方の実家も稲作+αの農家だったのだけれど、そこを基準とすると、キャベツ農家のじいちゃん方は、なんというかすげえワイルドで、どことなく「開拓民」といった風情がある。
で、以前、といっても、もう2年位前の話ですが、TPPについて聞いた際、意外な反応が返ってきました。
「うちらには正直関係ないと思うから、あまり関心ないな」
そしてこう続く。
「あちらは多分、反対なのだろうが。」
あちら、というのは察するに農協のこと。
嬬恋は、特に村の西側では農協への関与が少ない農家が多く、いさかいとまでは言わなくとも、ちょっとした緊張感があったりする。
農協に入ると、農薬や肥料等資材のほか共済やら金融的な扶助が受けられるし、出荷や生産管理的な援助が受けられる反面、出荷額や出荷ルート等は決められてしまうため、そういった制約を受けずに市場や個人と直接契約したい農家などは独自に協同組合を作ったりして収入を得ています。
(当然、農協の取引に比べてハイリスクだけどハイリターンになる)
そういった人々にとっては
・ キャベツ等の生鮮野菜は、あまり輸入野菜の影響を受けない
・ むしろ価格がほぼ保障されているコメと異なり、豊凶作の影響が大きい
・ TPPで困るのは農家というより、流通のロット管理で中間財を得ている農協職員
という見方となり、「むしろ村のためにはいいんじゃないか」ということになる。
農業地帯である嬬恋村では「農協でもって成り立っている」という意識がある反面、半官制的な体制でもって全国規模のネットワークをもつ各ブランド(「Aコープ」やガソリンスタンド、金融機関)が、結果として地場の個人商業主を圧迫している、というような根強い農協批判の声もあって、もちろんそういった事情を割り引いて考えなくてはならない。
ただ、個人的には、農家は一様にTPPに反対している、というイメージがあったので、一部に半ば公然とTPPを容認する声があったことは素直に驚きだったりしました。
(もっとも、TPPに反対という農家さんも当然にして多かったりしたんですが)
他にも、農村地帯をめぐる話は尽きないのですが、いろんな方から話を聞いて、個人的に思ったことは、
「どの世界にも矛盾はあるが、この国の農業のそれは今でさえはんぱない」
ということで。
それはTPPの交渉が始まろうが始まるまいが切迫した状況にあって、たとえば、「反TPP」を掲げながら現実に国産っていったって日本の農作物の担い手はそもそも日本人じゃないという笑えない状況が常態化していたりする。
それが間違ったことかどうかというと、現場をみているとたぶん間違っていない。
けれど、何かおかしい。
「反TPP」で一致結束しているかのように思われるこの国の農業も、その実態はすごく多様で様々なんですよ、ってことを、ちょっと書きたかったのです。
日本の農業を守ろう、というものの、実際の日本の農業について、我々はほとんど知らないんじゃないか、という気がする。
私だって、その一面しか知りませんし、働いていたわけでもない。だから、何ともいえない。
でも、もう少し深く知りたいと思う。
TPPが日本の農業にどんな影響をもたらすかは正直なところ私にはわかりません。
でも、なんとなく「没落産業」だったり「成長分野」だったりというそれぞれのステロタイプで済ませていた「農業」について、ありのままの姿を見ていくいい機会なのかもな、とは思ったりします。
農業を殊更エコとしてとらえるのではなく。
さりとて、限界産業と考えることもなく。
「銀の匙」みたいな作品が世に問われるようになったのはいいことだよなあ、と。本当に思います。
執筆:この記事は『にしん日和』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月07日時点のものです。
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