今回はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログGT~三十路の元官僚、目指せ起業家の巻~』からご寄稿いただきました。
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■農業を一緒くたにする議論はとても危ない ~明るい未来ではなく戦略的撤退を~
最近TPPの議論がまた熱くなる中で「農業の成長産業化」という主張があちらこちらで散見されるようになっていると感じています。
参考:「農業強化、TPP参加へ地ならし 産業競争力会議」 2013年02月19日 『SankeiBiz』
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130219/mca1302190801003-n1.htm
一応私は経済産業省時代に農業政策を担当していた身としてこれはまずいな~と感じています。
なにがまずいかというと「農業」といってもかなり多様で、それを一緒くたにする議論は危険だということです。製造業といっても自動車産業と化学産業を一緒に語る人はあまりいないわけで、農業を語る時もせめて、コメか野菜か果物か商用作物か畜産か、といったくらいで議論を分別する必要があるのは当たり前のことです。
「TPPを乗り越えられる」と主張しているのは大抵は野菜農家で、「辞めてくれ TPP」と言っているのはコメ・畜産農家が中心です。
野菜は今でも関税はかなり低いですし、遺伝子組み換えを除けば、制度的な差異も元々小さい業界なので、激しい国際競争にさらされており貿易自由化論争に対してもそこまで嫌悪感を示さない業界です。
その逆はコメでこれを同列に論じるのはかなり乱暴で政治的に意味をなさず、いたずらに国民の二分化を招き、将来に禍根を残しかねません。
少し古いですが平成17年の九州農政局の資料から一戸当たりの年間収入を繰り出してみると所得という意味でも野菜と水田農家では全然違うことがわかると思います。前者の平均が200万程度なのに対して、後者は30万程度です。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/usa001.jpg
で、何が言いたいのかと言いますと、農業問題は「TPPが迫ってるから議論しよう」というスタンスではなく、もう少し地に足をつけた議論をすべきじゃないでしょうかってことです。
いくらテレビの経済評論家が浅知恵で、和合園*1のような一部のピカピカの野菜農家をピックアップして、「ほら農業も成長できる!」みたいなことを言っても、現場の農家には全く響かないわけです。それは一部の施設園芸の農家にのみ通じる議論です。(私も日本の施設園芸は成長産業になると思っています。)
*1:『農事組合法人 和郷園』
http://www.wagoen.com
ただ現実の農家はほとんどが兼業だし、もうからないし、大規模化なんて投資にペイしないし地理的条件で相当難しい。特に山間部の農家なんて大規模化なんてしようがない。だからみんな耕作放棄する。
彼らの現実を見ずに政策を進めると、耕作放棄地が増えて、従来田舎や山村がになっていた自然と都会の境界線がなくなって都市インフラが壊れてしまう。(イノシシが民家に突っ込むとか、鹿が電線を切るとかそういった類の話です。)
それだけだったらまだしも、もう現実的には崩れて欠けている食料安全保障、っていうものが完全に崩壊してしまう。
なんだか取り留めない話になったけど、僕は農業の問題は現状を飛び越えていきなり「大規模化だ!」「専業化だ!」「輸出だ!」とか明るい未来をマクロで語るんじゃなくて、
零細農家も高齢化も兼業も取り返しがつかないくらい問題が大きくなってしまった現状の日本の農業界が抱える問題を正面から受け入れて、食料安全保障だとか生態系維持だとか最低限守るべき所を守るべく地域ごとに戦略的撤退の思想でミクロで地に足をつけて議論する、ってことが必要だと思うんですよ。
そういう意味じゃ、TPPを語るなら明るい議論じゃなくて、こんな少し暗い本がよいんじゃないかと思っています。
執筆: この記事はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログGT~三十路の元官僚、目指せ起業家の巻~』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月07日時点のものです。
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