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大宅賞受賞作「旅する巨人」にも……ガジェット通信 短期集中連載~佐野眞一氏の「パクリ疑惑」に迫る(第7回)~

2012/11/01 10:30 投稿

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表紙

【特別取材班より:この連載のすべてのリンクと画像をご覧になりたい方は、ガジェット通信サーバー上の記事をご覧ください。】

■作家・石牟礼道子氏の解説文を盗用した佐野氏

本短期集中連載第4回で紹介した、週刊ポスト「化城の人」のテキストの剽窃箇所があまりに膨大であり、検証に少々時間を要するため、今回は大宅壮一ノンフィクション賞受賞作「旅する巨人」から、ノンフィクション作家石牟礼道子氏からの「トレース箇所」を紹介しよう。

ところで、連載を開始したガジェット通信特別取材班のもとには、中森明夫氏らを始めとした著名文化人の皆さんから「佐野氏の盗作癖は有名な話」などという感想を寄せていただいた。

週刊SPA!の対談で、坪内祐三さん、福田和也さんなどからも、

福田「今回の騒動に関連して、佐野さんが盗作してたっていう、どうでもいい話題もありましたね」

坪内「(佐野眞一氏の盗作疑惑はもう、有名な話なんですよ」

(「SPA!」2012年11月6日号)

この連載を読んでもらっているという意味では大変嬉しい感想ではあったが、この十数年、中森氏、坪内氏、福田氏の連載ほぼ全てに目を通してきたガジェット通信特別取材班は、彼らがこの件について言及していた文章を読んだ記憶がない。

中森明夫氏が佐野眞一氏について言及した記憶はある。記憶をもとに手元の資料をたぐってみれば、なるほど「噂の真相」(98年10月号、2001年10月号)の連載コラムで中森氏が佐野氏について皮肉のコラムを綴ってはいる。だが、氏の盗用癖についてはただのひとことも触れられてはいない。

中森氏や坪内氏、福田氏が言う「佐野氏の盗用癖が有名」とは、いったいどこで有名なのだろうか。

調べあぐねたガジェット通信特別取材班は、試みにGoogleで「佐野眞一盗作」「佐野眞一 盗用」といったキーワードで検索をかけてみた。

すると2008年頃、2ちゃんねるをはじめとするネットメディアに意外な書き込みがある事実を発見した。

中森氏や坪内氏、福田氏は、ひょっとして「佐野眞一の盗用癖は2ちゃんで有名」とでも言いたかったのだろうか――。

疑問をもちながら、ネット上に転がっている書き込みの真偽をたしかめるため、印刷物の原典をたしかめてみた。

石牟礼道子

《故郷の潮の満ち干(ひ)きする渚(なぎさ)の、おどろくほど緻密(ちみつ)な観察と鮮明な記憶、まのあたりに見ているような平明な描写力。読んでいてふいに胸えぐられる感じになるのは、今はこの列島の海岸線すべてから、氏の書き残されたような渚が消え去ったことに思い至るからである。》

(『ちくま日本文学全集 宮本常一』93年5月刊行、461ページ/作家・石牟礼道子氏による解説文「山川の召命」より)

平凡社の本

《潮の満ち引きまで感じられる渚の写真を眺めながら、ふいに胸えぐられるような思いに駆られるのは、かつて宮本がカメラにおさめたような渚が、日本の海岸線からことごとく消えてしまったことに思いいたるからであろう。》

(佐野眞一『宮本常一の写真に読む失われた昭和』平凡社、2004年6月刊行、6ページ)

『宮本常一の写真に読む失われた昭和』は、宮本が撮影した写真を列挙しながら佐野氏のエッセイを差し挟んでいく構成だ。

確かにインターネットの指摘通り、佐野氏は、同書で石牟礼氏の著書を「トレース」している。

ちなみに佐野眞一『宮本常一の写真に読む失われた昭和』の巻末には「関連図書一覧」が掲載されており、『ちくま日本文学全集 宮本常一』もリストに加わっている。だからといって、出展を明示するという「引用のルール」を無視していいわけではない。読者にとっては、どこからどこまでが佐野氏のオリジナルな文章なのか、人の著者の引用なのかがわからないからだ。

■大宅壮一ノンフィクション賞の受賞作にも盗用が

佐野氏は『宮本常一の写真に読む失われた昭和』以外にも、宮本常一に関する著作を発刊している。97年に第28回大宅(おおや)壮一ノンフィクション賞を受賞した『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』(文藝春秋、96年刊行)だ。

「ひょっとして『旅する巨人』にも……」と再読をしてみる。「旅する巨人」を読み進めると、奇妙なデジャ・ヴ現象に遭遇した。

旅する巨人

《宮本はこの本【=『周防大島を中心としたる海の生活誌』】の冒頭でこう書いている。

【※以下、しばらく宮本常一の本からの引用が続くため略】

 故郷の島の潮の満ち引きと風の音が、おどろくほど緻密な観察力と、目のあたりにみているような平明な描写力で描かれている。

 この文章を読みながら、ふいに胸えぐられるような感じになるのは、宮本の著作を解説した石牟礼道子も述べているように、いま日本列島の海岸線のすべてから、宮本が書き残したような渚が消え去ったことに思い至るからであろう。》

(佐野眞一『旅する巨人』文藝春秋、96年11月刊行、66~67ページ)

ガジェット通信特別取材班は、注意深くこのテキストを読み直した。

《宮本の著作を解説した石牟礼道子氏も述べているように》以降は、石牟礼氏の著作からの引用であることが理解できる。だが《宮本の著作を解説した石牟礼道子氏も述べているように》以前の文章を、読者は佐野氏自身の原稿として読むだろう。佐野氏が綴った文章が、石牟礼道子氏の解説文と瓜二つなのだ。

なお『旅する巨人』は2009年4月に文春文庫で文庫化された。87~88ページの記述を見ると、石牟礼道子氏の文章からの剽窃については修正が加えられていない。

もはや佐野氏は、どこまでが自分の文章であり、どこまでが他人の文章なのかわからなくなっているのかもしれない。

佐野氏は1947年生まれだから、『旅する巨人』を執筆した当時は50歳手前だ。『宮本常一の写真に読む失われた昭和』を出版した当時は、50代後半ということになる。30代当時発覚した「盗用騒ぎ(本短期集中連載第一回、第三回に詳述)」だけでなく、40代、50代になってもやっていることが変わらないのだ。

敬愛する宮本常一の本(『旅する巨人』)を書くにあたり、佐野氏は何を思いながら石牟礼道子氏の文章を自分の文章としてコピー&ペーストしていたのだろう。

(2012年10月26日脱稿/連載第8回へ続く)

情報提供をお待ちしています

佐野氏の盗用・剽窃疑惑について、新情報があればぜひご提供くださいませ。メールの宛先はsanofile110@gmail.comです。(ガジェット通信特別取材班)

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